第16話 戦隊集合だ!
怪人チョーウンが裏切るきっかけとなった公園での大規模な戦闘の翌日は、土曜日であった。戦隊ポンジャーの三人のメンバーは、他に特にすることもないので、本部であるアパートの一室に集まっていた。
「村上くん、ちょっと話を聞いてほしいんだけど」
レッドの浅野が、イエローの村上に話しかけた。
「グリーンとピンクが脱退してしまったから、『ポンジャー』は戦力の低下が著しいわ。そろそろ新しいメンバーを募集しないといけないわね」
村上は、何も仕事がないときは日課となっている読書を中断して、浅野に目を向けた。
「そうだね。どうする? どこか別の戦隊から引き抜いてもいいし、新人を募集してもいいけど」
村上はとりあえず無難な答えを返した。もともとグリーンとピンクを追放したのは浅野なのに、今さら困っているのは、彼にとっては少し滑稽である。だが、もちろん彼はそんなことを口には出さない。
「新人は心もとないわね。私たちは日本最強の戦隊なのだから、即戦力が欲しいわ。誰かメドはついているの?」
村上は自分の机のパソコンを引き寄せた。
「えーと、ちょっと待ってーー」
だが、村上がパソコンの電源ボタンを押そうとしたとき、部屋の中に大音量の警報が響き渡った。
『居酒屋に怪人と戦闘員が出現! 戦隊は出動せよ!』
天井からのアナウンスを聞くと、さっと戦隊たちの表情が引き締まった。
「みんな、出動よ!」
「よしきた!」
「任せろ!」
浅野が掛け声をかけると、村上とブルーの平田が立ち上がった。浅野を先頭に、ダッシュで本部から飛び出す。アパートの廊下を歩いていた通行人が、そのあまりの剣幕に、驚いて振り返った。
⭐︎
ポンジャーたちが現場の居酒屋に着くと、果たしてそこには怪人と戦闘員たちがいた。
「ほらほら、もっと飲め、もっと飲め!」
中央付近の席に座って、戦闘員に酒を無理に勧めているその男に、ポンジャーたちは見覚えがあった。
「あれは怪人トクヨク!」
とは、村上である。
「うん、『ナンジョ』の怪人だわ……あれ、でも、『ナンジョ』は最近崩壊したって、昨日怪人チョーウンが言ってたよね?」
浅野は不審そうに怪人トクヨクを見た。怪人トクヨクは『ナンジョ』の古くからの怪人で、怪人チョーウンとは一緒に仕事をしていることも多かった。だが、前日の怪人チョーウンの発言によれば、『ナンジョ』は『ギール』によって潰されたらしいのである。
「『ナンジョ』が崩壊したのは事実だろう。俺はさっきネットで調べていたんだが、元『ナンジョ』だという複数の元戦闘員が、『ナンジョ』は崩壊したと証言している。それに、ここにいる戦闘員たちは、『ナンジョ』の制服を着ていないじゃないか」
ブルーの平田がそう指摘した。
「あっ、確かにそうね。でも、この制服は、なんというか慌てて作った感が半端ないわね。『ナンジョ』の制服を即席で改造したようだわ」
浅野は小声でそう言いつつ、そっと居酒屋の中の様子をうかがった。
「でも、これじゃあ突っ込みにくいわね。怪人トクヨクと戦闘員たちは、何も悪さをしているわけではないから……」
ちょっと逡巡している様子の浅野に、村上が反論した。
「それは甘いってものだよ。これまで怪人トクヨクがやってきた悪事の数々を思い出してみろ。ここでやっつけておいた方が社会のためだ」
だが、平田は「いや……」と腕を組んで唸った。
「怪人トクヨクだって、自分の顔が売れていて、不用意に人前に出れば通報されるということを知っているはずだ。それでもわざわざそんなことをするということは、これは何かの罠に違いない。俺たちを狭い居酒屋の中におびき寄せて、まとめて叩くつもりなんだ」
「怪人トクヨクって、そんなに頭が回る怪人だったっけ?」
「いや、いつもは回らないけど、たまに恐ろしく回るときがあるとか……」
ポンジャーたちが議論していると、浅野のスマホが振動した。
「あっ、村崎《むらさき》社長からだわ」
村崎社長とは、ポンジャーたちに給料を払っている彼らの上司、村崎葵《むらさきあおい》のことである。怪人出現の情報をいち早くキャッチして、ついさっき出動のベルを鳴らしたのもこの人である。
「もしもし?」
「あ、レッド。悪いけど、今すぐ本部に帰ってくれない?」
「えっ、どういうことですか!? 私たちは今ちょうど怪人と戦おうとしているところなのですが……」
「いいから早く帰ってきなさい。緊急事態が発生したの。それに、通報によると怪人トクヨクは単に飲み会をしているだけのようだから、まだ向こうに見つかっていないのなら、こちらが何もしなくても問題ないはずよ」
「そうですね、では帰ります。それでは」
浅野は電話を切った。村上と平田が耳を浅野のスマホに寄せて話を聞いていた。
「……ということは、内容はわかってるわね。帰るわよ」
ポンジャーたちは居酒屋をあとにした。
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