第19話 怪人の飲み会だ!

 

 戦隊ランチャーのメンバー、正親町亜紀は、絶体絶命の状況にあった。なぜなら、彼女は敵に完全に包囲されていた。


 もとはといえば、正親町がこのあたりの道を歩いていたときのことであった。


「おい姉ちゃん! 可愛いね! 僕と一杯どうだい?」


 一人の男に、正親町はそう声をかけられたのだった。その男はユニフォームのようなものを着ていて、横にもう一人同じ服装の男を連れていた。


「いえ、私は未成年ですから……」


 正親町はそう断ろうとした。


「おお、お前、いい女を拾ったな! だが安心しろ、そいつは俺のものだ!」

「なんだと! こいつは俺が先に見つけたんだから、俺のものに決まってるだろ!」


 男たちは正親町の話を聞いていないようで、正親町をめぐって言い争いを始めた。


(今のうちに逃げよう。なんだかこいつら危なそうだ)


 正親町はそーっとその場から立ち去ろうとした。


「あっ! あいつ逃げるぞ!」

「なんだと、それはけしからん! ひとまず協力するぞ!」


 ところが、男たちはこんなときだけは団結するようで、正親町に突進して、彼女の腕を掴んだ。


「こら、離しなさい!」


 正親町はその男を振り払って、いよいよ走って逃げようとした。だが、その前を突然何者かが塞いだ。


「んー、誰だ? うちの戦闘員に暴力を振るったのは?」


 正親町の目の前に大男が立っていた。縦だけでなく、横にも大きい。大柄な正親町だが、大男の体重はその二倍は優にあるだろう。


「ふーむ……」


 大男は正親町の体を上から下までじろじろと見た。


「面白い。ちょっと話を聞いてみるとするか」


 大男は正親町の腕を掴むと、ずんずん歩き始めた。だが、正親町はわずかな違和感を感じていた。


(……この大男、どこかで見たことがあるような気が……あっ!)


 正親町からサーっと血の気が引いた。


(こいつ……怪人トクヨクだ!)


 怪人トクヨク。大手の悪の秘密結社『ナンジョ』の幹部だった怪人である。その戦闘力は桁違いのもので、大手戦隊が五人がかりで当たっても苦戦するほどの実力を持っている。


(でも、『ナンジョ』は崩壊したはずだよね……?)


 昨日の怪人チョーウンの証言もあったが、すでに『ナンジョ』が結社どうしの抗争で壊滅したことは、もはや周知の事実であった。それなのに、怪人トクヨクはいったいどうしてここにいたのだろうか。


(まあ、怪人チョーウンも『ギール』所属になってたし、怪人トクヨクもどこか別の結社に吸収されたのかな……)


 正親町がそんなことをボーッと考えているうちに、怪人トクヨクは居酒屋のような店に入っていった。店内にはさっきの制服がうようよいて、思い思いに飲酒していた。正親町がよく見ると、それはかつての『ナンジョ』の制服によく似ていた。やはり彼らは怪人トクヨクとその部下の戦闘員たちであるようだった。


「おう、お前ら! 飲んでるか?」


 怪人トクヨクは大声で戦闘員たちに声をかけた。


「あっ、トクヨク様! お先に飲ませていただいてます!」


 戦闘員の一人が元気に頭を下げた。


「うむ、よろしい! 今日は祝いだからな、思う存分飲んでいいぞ!」


 怪人トクヨクは満足そうにそう言うと、店の中央にある、わざわざ彼のために空けられているらしい空席に座った。そして、思い出したように自分の右手を見た。彼の右手は何かを掴んでいた。それは正親町の左手だった。


「む、そうだ、こいつの席がないな。困った。おい、えーと、多田ただ、お前は立って、そうだな、ちょうどいいから俺に酌をしろ」


 怪人トクヨクは多田と呼ばれた戦闘員に席を空けさせると、正親町をそこに座らせた。


「多田、今は何時だ?」


 怪人トクヨクは、彼の後ろに立った多田に質問した。


「そろそろ午前9時になります」


 多田は腕時計を見てそう言った。


「ふむ、じゃあそろそろだな」

「そろそろですね。では失礼しますよ」

「おお、頼む。む、『黒い微笑み』か。なかなか高級な銘柄だな」

「ええ。これを買えるのも、全てあの方のおかげです」

「そうだな、ククク……」


 怪人トクヨクと多田は密談を始めた。といっても、正親町にはそれは全て聞こえていた。


(意外と有益な情報が手に入るかも!)


 正親町は内心で喜んだ。昨日の怪人チョーウンしかり、元『ナンジョ』の者たちは総じてこういうところで口が軽いようだ。うまくいけば、怪人トクヨクの現在の所属先を聞き出せるかもしれなかった。


「そういえばトクヨク様、この女性は何者です?」

「ああ、こいつはさっき手頃なのを連れてきたんだ。まあ今夜の相手というところだな」


(こ、今夜の相手!)


 それを聞いた瞬間、正親町は震えを抑えきれなくなった。やはり怪人トクヨクも怪人だ、まともは思考回路はしていない。これはやはり逃げるしかないと、正親町は覚悟を決めた。だが、戦闘員でいっぱいのこの店から、どうやって無事に逃げ出せるというのだろうか。


「おい、お前、なんでさっきから黙ってるんだ。とにかく一杯いけ、一杯」


 怪人トクヨクは正親町に酒を勧めてきた。


「いえ、私は未成年ですから……」

「ああ? そんなの関係ないだろうが。ならこうしてやる」


 怪人トクヨクは正親町の口を無理やりこじ開けて、高級銘柄の酒を飲ませようとした。だが、まさに正親町の口にアルコールが入ろうとしたとき、店の入口付近から声がした。


「怪人トクヨク、お待たせ! 来たぞ!」


 怪人トクヨクと正親町がそちらを見ると、そこには怪人チョーウンが立っていた。

 

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