第18話 戦隊大会議だ!

 村上と平田は、とにかく新しいヒーロースーツに着替えて、会議室に入った。少し経つと浅野も入ってきた。その後は次々に人が増えて、ある程度人数が揃ったところで、村崎社長が入室した。


「じゃあ、このメンバーで始めさせてもらうわよ。事態は一刻を争うから」


 村崎社長の言葉に、戦隊たちは顔を見合わせた。やはり何かのっぴきならない事態が起こっているのだ。


「実は、こんなものが手に入ったのよ」


 村崎社長は、会議室の前方にあるパネルにある資料を映し出した。


「あれ、なんだ? 見取り図か?」

「そうだと思うけど……いったい何の?」


 平田と村上も、パネルに映っているものがわからないようだ。


「これは『ギョール』の本部の見取り図よ。そしてこっちはーー」


 画面が切り替わり、地図のようなものが現れた。


「『ギョール』の場所を示す地図よ。戦隊本部の諜報班の活躍によって、この情報が手に入ったの。これは大チャンスよ。今すぐここを急襲して、『ギョール』を完膚なきまでに叩きのめすべきだわ」


 村崎社長は熱弁を振るった。


「そうですかね」


 村上が手を挙げた。


「村崎社長、発言をよろしいですか」

「どうしました」

「僕が思うに、これは何か裏があるような気がするのです。仮にも日本最大級の悪の秘密結社である『ギョール』が、そんなむざむざと敵に塩を送る真似をするわけがありません。これは、僕たちを自分のホームに引き込んで一気に叩こうとする、『ギョール』の罠なのではないでしょうか」

「なるほど」


 村上の懸念を聞いて、村崎社長は少し考えるような目つきになった。


「それはありそうですね。他の方はこのことについてどう思いますか?」

「はいっ!」


 浅野が勢いよく手を挙げた。まるで授業中の小学生のような自信っぷりである。


「あー……では浅野」

「ありがとうございます。私が思うに、今こそが『ギョール』を壊滅させる絶好のチャンスです。もともと『ギョール』の内部では対立があるという話でしたし、誰か裏切り者がいたとしても不思議ではありません。それに、もしこれが『ギョール』の罠だったとしても、私たちが都内の全戦隊の力を結集すれば、いくら『ギョール』とて揉み潰されるに違いありません」

「ふむ。他には?」

「あの、俺もいいっすか?」

「む、『パンジャー』の楠田《くすた》ね。どうぞ」

「俺もポンジャーレッドの意見に賛成です。これまで俺たちは悪の秘密結社の本拠地に打撃を与えたことはありません。それはもっぱら結社どうしの潰し合いに頼っていました。しかし、それでは強い結社をますます強くさせるだけです。今ここで思い切って行動しなければ、俺たちが悪の秘密結社に支配される日もそう遠くありません!」

「そうだそうだ!」

「今こそ大出撃だ!」


 楠田のいささか煽りを加えたスピーチに、どこからか賛同の声が飛んだ。


「ふむ……では、どうしますか?」


 浅野がすっと、手を挙げずに立ち上がった。


「そんなことは決まっているでしょう」


 人々の目がすっかり自分に集まっていることを確認するかのように会議室を見回した浅野は、微妙に首をかしげてウインクをした。


「私たちは戦隊なのです。こんな絶好の好機を逃して、何が戦隊、正義の味方でしょうか。私はポンジャーレッドとして、常に先頭で敵と戦い、自らの手で『ギョール』の総帥たるショホンを始末しようと決意しています。今日は都内の戦隊の全員で共に戦い、正義の力を怪人どもに知らしめてやろうではありませんか!」


 だんだん声を大きくしながら浅野がそうスピーチすると、続いて楠田が立ち上がった。


「まったく言う通りだ。だが、ショホン総帥の首は、断じてお前には渡さないぞ。それはこの俺がいただく。他の奴らも、うかうかしてたら名のある怪人は取られてしまうぞ! てな訳で、当然お前ら、全員出撃するよな!」

「賛成!」

「賛成!」

「出撃だ!」

「怪人どもをぶっ倒せ!」


 会議室がぐらぐらと揺れるほど、多くの戦隊構成員が出撃を叫んだ。 


「えーと、ではみなさん、出撃でいいんですね?」

「村崎会長! 早く出撃の許可を!」

「わかりました。では全員、出撃!」

「「「うおおおおおおっ!」」」


 今度は本当に会議室が崩れるのではないかというほどの轟音が会議室を満たし、すでに着替えていた戦隊たちは早く外に出ようと我先に出口に殺到した。


「どうなっているんだ、村上?」


 押し合いへし合いしている戦隊たちを見ながら、平田が少し呆然としたように言った。


「いつもこうだよ。うちのリーダーは、ここぞというときに恐ろしく押しが強い。何も起こらなければいいけど……嫌な予感がするな」


 そのとき、二人は後ろからそれぞれの手を何者かに同時に掴まれた。


「「わっ!」」


 振り向くと浅野であった。


「ほら、早く行くわよ! 他の戦隊に遅れを取るつもりなの?」

「早く行くって、今からどうするんだい。あの大渋滞を抜けるにはもう遅いよ」

「そんなことないわ。頭を使いなさい、頭を」


 さっきは脳筋ぶりを示した浅野は、二人を窓際に引きずっていった。


「ここから飛び降りればいいでしょうが」

「えっ!? だって、ここ五階だぞ……」

「誤解よ! ここは三階!」

「十分高いっ!」

「いいから! 二人とも仮にも戦隊でしょ! 死にはしない!」

「「うわーっ!」」


 平田と村上は浅野に窓から投げ落とされた。

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