第26話 ワケン博士の危機だ!

 一方、悪の秘密結社『ヤシン』のアジトに、もう一人縛られている人がいる。


「く、苦しい、助けてくれ! 私は何もしていない! どうして幹部たる私が、このような扱いを受けねばならぬのだ!」


 縄をギシギシ言わせながらわめいているのは、ワケン博士である。だが、見張り役の戦闘員たちは、全く助ける様子がない。


「見苦しいですよ、ワケン博士。みすみす戦隊たちの脱出を許したうえに、さらには戦闘中に無防備に歩いていて戦隊たちに捕獲されてしまったのですから。そろそろ自分がお荷物だってことを自覚したらどうです?」

「あなたのせいで、我々は戦闘員の半分を失ってしまったのですよ。僕の友達も戦隊側に捕らえられてしまった。秘密結社にいれば生活は保証されているのに、戦隊に捕まってしまえばしばらくは刑務所に入れられて、出所したとしてもまともな仕事にはつけない。チップを体に埋め込まれて行動を監視されるから、結社に戻ることすらできない。今、総帥と幹部たちは会議室であなたの処遇について話しているところです。もういつ解雇を言い渡されてもおかしくありませんよ」


 戦闘員たちは次々とワケン博士を非難した。そもそもワケン博士はそこまで下っ端の戦闘員に人望があるわけではない。ワケン博士はトクゲン総帥の中学時代からの不良仲間で、その腐れ縁でここまで取り立ててもらっているだけなのだ。とはいえ、トクゲン総帥の中学時代からの不良仲間であるのは怪人チョーウンや怪人トクヨクも同じである。だが、当時から腕っぷしの弱いワケン博士は不良仲間のパシリ役で、わずかな悪知恵で一緒にいさせてもらっているにすぎなかった。この結社における博士の枠は、前身『ナンジョ』の時代からワケン博士ただ一人だが、その地位を狙っている頭の回る戦闘員たちは多いだろう。いよいよ私もここで終わりかと、ワケン博士の絶望は高まるばかりだった。


 さて、ワケン博士の思っている通り、会議室ではトクゲン総帥と『ヤシン』の幹部たちがワケン博士の処遇について話していた。


「まったく、ワケン博士め、またヘマをしやがって。俺たちが失敗するのは、いつだってあいつのせいだ。おいトクヨク、前に『ナンジョ』が潰れたとき、あいつが何をやらかしたか覚えているだろうな?」


 怪人チョーウンが呪いごとを言いつつ酒を呷ると、怪人トクヨクも応じる。


「もちろんだ。ワケン博士はあのとき、裏切り者にまんまと丸め込まれて『シュージョ』の奴らを俺たちのアジトに侵入させてしまった。ちょうど宴会の日の深夜で、戦闘員たちは酔い潰れていて、俺たちは苦戦を強いられたのだったな」

「そう、そして激戦の末、なんとか『シュージョ』を壊滅させたそのとき、ワケン博士が漁夫の利を狙った『ギール』に捕まってしまったのだった。トクヨクとトクゲン総帥はうまく逃げられたが、俺は包囲されてしまい、捕虜の身となったワケン博士の命を助ける条件で降伏せざるを得なかったのだ」

「うむ、それにもましてワケン博士め、いやあの小狡いワケンめ、あいつは捕まった数時間後には、のうのうと俺の前に現れたのだ。『私のせいですべてが崩壊してしまった!』とか号泣しながらな。すべて自分の責任なのにだよ。俺は他の幹部たちの行方が知れない状態だったから仕方なくワケンと一緒に行動していたが、あいつは見るたびに吐き気がする奴だよ。この機会に追放するのがいいんじゃないか? 頼むよトクゲン総帥、早くワケンを断罪してくれ! そうしないと俺も戦闘員たちも収まらないんだ!」


 怪人トクヨクは今すぐワケン博士を追放するようにトクゲン総帥に求めたが、そこで怪人リュージが口を挟んだ。


「確かにワケン博士が無能であることは同意せざるを得ませんが、それなら代わりの博士はどうするんです? ワケン博士以上の働きができる知恵の回る戦闘員に心当たりがあるのですか?」

「心当たりなんかねえ! だが、ワケンより使える戦闘員など、ここにはごまんといるはずだ。……ん? 何だ?」


 突然ドアがノックされ、怪人トクヨクが不審そうな顔をしていると、ドアから戦闘員が顔を出した。


「あの、ワケン博士が、皆さんに説明したいことがあるとおっしゃっておりまして……どうぞよろしく……」


 戦闘員はそう言いつつ縛られたワケン博士を会議室の中に投げ込むと、踵を返して一目散に走っていった。問題になっているワケン博士の味方をしたことを隠したいようで、最初から最後まで幹部たちに顔を見せないように振る舞っていた。


 幹部たちの視線を一気に集めたワケン博士は、不敵ににやりと笑って口を開いた。


「さっきの話は聞かせてもらった。どうやらお前たちは、私を無能だと勘違いしているらしいな。だが、今お前たちが私のせいにした失敗は、全てお前たちのせいなのだぞ!」

「そ、そんなばかな!」


 怪人トクヨクたちは驚きと疑いの目をワケン博士に向けた。

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「使えないから」と戦隊レンジャーを追放された俺、外れスキル『三秒硬直』で成り上がる〜最強の後衛〜 六野みさお @rikunomisao

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