第5話 二人目追放だ!

 物陰から俺たち『ランチャー』が現れると、すぐさま戦闘員たちがこちらに襲いかかってきた。


「てやっ! てやっ!」


 肉弾戦で戦闘員たちを倒していく。俺も前線でぐいぐい前に出る。本当は俺は後衛なのだが、今回は土佐口を助けるために前に出ざるを得ない。それにしても、この戦闘員たちはかなり強い。怪人ケンブンの直属だからだろうか。


 怪人ケンブンはこちらに気づいているのかいないのか、一心不乱に土佐口を狙い続けている。ついに避けきれず、土佐口の体が無防備に地面に叩きつけられた。土佐口の胸を、筋骨隆々な怪人ケンブンの拳が襲う。だが、俺の方がわずかに早かった。


「ポーズビーム!」


 俺の放ったビームはしっかりと怪人ケンブンに直撃し、怪人ケンブンの拳は土佐口を捉える寸前で止まった。


 俺のポーズビームは戦闘員は三秒硬直させられるが、怪人は一秒しか硬直させられない。だが、土佐口はその短い時間の間に不利な体勢から脱し、一秒後に再開された怪人ケンブンの拳は空を切った。さすがはポンジャーのメンバーである。


 そして、ついに土佐口の視線が俺と合った。その途端、土佐口はぱっと顔を輝かせた。


「グリーン! 来てくれたのね! 助かった!」


 土佐口のこの発言には、怪人ケンブンを牽制する狙いもあったのだと思う。でも、俺はその言葉が、単純に嬉しかった。土佐口は俺を嫌っていないーー勝手かもしれないが、俺はその考えを、その瞬間に固く確信した。


「なに!? グリーンだと!?」


 案の定、怪人ケンブンはこっちを振り向いた。


「残念だったな。ランチャーグリーンたる俺が来た以上、お前の命もそこまでだ。尋常に勝負しろ、怪人ケンブン!」


 俺が口上をやると、怪人ケンブンは「何を小癪な!」と叫んでこちらに向かってきた。


「喰らえ! 『超風剣』ーーぐはっ!」


 だが、怪人ケンブンの必殺技が炸裂する直前、彼は悲鳴を上げた。その首に太い矢が突き立っている。俺が怪人ケンブンを引きつけているうちに、土佐口の放ったものだ。


「ぐむむ……謀ったな、お前ら。今日のところはここまでだ。覚えてろよ!」


 そう捨て台詞を残して、怪人ケンブンは消えてしまった。怪人たちは、自分が不利になるとすぐに逃げてしまう。どうやら『ギール』の本部に瞬間移動しているらしい。そんなわけで、俺たち戦隊はなかなか怪人たちを討ち取れないのだ。


 まだ戦闘員が数名残っていたが、怪人ケンブンが逃げ出したのを見るや、あっという間に各自で退散してしまった。斎藤と正親町も怪我したようなところはない。悪の結社の勢力は、この公園から完全に駆逐されたのだ。


 さて、一仕事終わったーーと俺がひと息ついたところで、「ちょっと!」と俺の肩が叩かれた。見ると、土佐口が腕を組んで、俺の前に立っている。


「道一、説明してもらいたいんだけど」


 土佐口は向こうにいる斎藤と正親町にちらっと目を向けた。


「さっき道一は『ランチャーグリーン』と名乗っていたよね。どうしてポンジャーグリーンじゃないの? そして、どうして二人の部下を連れているの?」


 嫌な予感がする。


「さては道一、裏切ったわね!」


 土佐口は俺に掴みかからんかという勢いだ。


「違う、土佐口、違うんだ。俺は裏切ったわけじゃない。俺は浅野に追放されて、今はしかたなくこの地位にあるんだ」

「えっ? 追放? 道一が? どういうこと?」


 土佐口は驚いた表情で俺に聞いてきた。やはり俺が追放されたことは知らなかったようだ。つまり、俺がストーカーだという疑惑も浅野の陰謀だったということだ。それに、土佐口は今まで通り俺を『道一』と下の名前で呼んでくれている。つまり俺は土佐口に嫌われていない。俺はやっと安心できた。


「実はーー」


 俺が本格的に説明を始めようとしたとき、ドタドタと複数の足音がして、公園に三人の若者たちが飛び込んできた。見ると、その先頭にいるのは、あろうことか浅野である。その後ろにブルーの平田ひらたとイエローの村上が続いている。


「あれ、平田、怪人がいないぞ? 私はさっき、確かにここに怪人ケンブンが現れたという情報を聞いたのだが」

「本当だ、浅野。もしかすると、他の戦隊に先を越されたのかもしれない。ーーおっと、誰かいるぞ。彼らが何か知っているか、聞いてみよう」

「それもそうだわね」


 浅野はこっちに近づいてくるなり、「ええーっ!?」と大声を上げた。


「土佐口! なんであなたは西海と一緒にいるのよ! 西海は裏切り者よ!」


 何が裏切り者だ。お前が追放したくせに。


「西海は長い間、他の戦隊に私たちの機密を流していたのよ! それで私は彼を追放したの。土佐口、あなたも西海の仲間なの?」


 俺はそんなことはもちろんしていない。土佐口が信じないことを祈るばかりだが、土佐口はしっかりとした口調で言い返した。


「西海さんが私たちを裏切るはずがありません。さっき西海さんに聞いたのですが、西海さんが言うには、西海さんはあなたに不当に追放されたそうです。浅野さんは西海さんの有罪を証明できるんですか?」


 浅野は言葉に詰まったようだった。


「うるさいわね、私が有罪と言えば有罪なの! だいたい、あなたたち二人のような弱い奴らは、私のチームには不要なのよ。土佐口、あなたも追放するわ。もう今後は、金輪際『ポンジャー』を名乗らないで頂戴」


 なんと土佐口まで追放されてしまった。しかも浅野の自分勝手な理由で。だが、土佐口も負けてはいない。


「望むところです。でも、今回の怪人は、私たちがいただきました。ポンジャーの皆さんの次回の健闘を楽しみにしております」


 土佐口の挑発的な言動に、浅野は口をゆがめた。


「よく言うわ、たまたま遭遇した分際で! ほら、平田、村上、行くわよ!」


 浅野は平田と村上を引き連れて行ってしまった。


「これでよかったのか、土佐口?」


 土佐口を助けたつもりだったのだが、土佐口の追放を招いてしまった。なんだか申し訳ない。


「いいのよ。あんな理不尽な戦隊、これ以上いたところで得るものはないわ。道一は新しい戦隊に所属しているのでしょう? 私もそこで活動したいな」

「もちろんだ。ようこそ、『戦隊ランチャー』へ。俺たちは土佐口を歓迎するぜ」


 こうして、土佐口も『ランチャー』の仲間になったのだった。

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