第6話 悪の組織視点だ!
「怪人ケンブン……今回も負けたのか。全く、使いようのない奴だ」
怪人ケンブンは、悪の秘密結社『ギール』の本部がある地下で、上司のお叱りを受けていた。
『ギール』の本部がある一室の一番奥の部屋の、そのまた一番奥に、いかにも偉そうに足を組んで座っている人物が、怪人ケンブンの上司である、ウソッパー・トクモーだ。彼は『ギール』の総帥である。鍛えている怪人ケンブンと比べるといささかひ弱に見えるが、その全身から出る威厳には、人を屈服させる力がある。
「はっ、しかし、ポンジャーグリーンとポンジャーピンクは、汚い手を使いまして、私をだまし討ちにしたのです」
「何回同じことを言わせるのだ」
トクモー総帥は、怪人ケンブンの言い訳を一蹴した。
「戦いというものは、力に任せて押すだけが全てではない。むしろ、なるべく敵の裏をかき、少ない労力で勝つことを考えるべきだ。それなのに、お前はいつまでたっても、それができるようにならない」
怪人ケンブンはがっくりとうなだれた。
「申し訳ありません。精進いたします」
だが、トクモー総帥は、「その言葉は何回も聞いている」と冷たく言った。
「地球の支配を目論んでいる組織は、我々だけではないのだ。無能な者が怪人をやっていても意味がない。それをよく考えておけ」
「はっ、肝に銘じておきます」
怪人ケンブンが退出しようとしたとき、「総帥、少しよろしいですか?」と、怪人ケンブンの背後から声が聞こえた。見ると、ドアのところに、白衣の男が立っている。
「おお、ジャクブン博士か。どうした」
「ご報告したいことがあります」
ジャクブン博士は縦長い部屋の中をすたすたと歩き、トクモー総帥の前で拝礼した。
『ギール』の一番の強みは、有能な博士を多く抱えていることだ。特にこのジャクブン博士は、かつての大発明家、ボウシ博士にも匹敵する才能といわれている。博士たちは、怪人を作ったり改造したりするだけではなく、『ギール』が世界を早く支配できるように、日々策略を練っている。
「総帥、喜ばしい知らせです」
今日のジャクブン博士は機嫌が良さそうだった。
「『シュージョ』と『ナンジョ』が滅亡しました」
「そうか、それはでかした!」
トクモー総帥がにっこりと笑った。『シュージョ』と『ナンジョ』は、『ギール』と同じような悪の秘密結社である。同じように世界の支配を目論む、いわばライバル社だ。
「『シュージョ』と『ナンジョ』の仲が悪いのは、総帥もご存じかと思います。そして先日、ついに『ナンジョ』が『シュージョ』に総攻撃をかけ、激戦の末、『シュージョ』の総帥センホウは討ち取られました。しかし、『ナンジョ』はこの戦いでかなり疲弊していたため、我々は怪人ジョーゲンをはじめとする精鋭で『ナンジョ』を攻撃し、これを崩壊させました。惜しくも総帥トクゲンは取り逃がしましたが、『ナンジョ』は完全に無力化されました」
「よしよし、よくやった。これでまたライバルが減ったぞ」
トクモー総帥は手放しで喜んでいる。その様子を見ながら、怪人ケンブンは悲しくなった。自分は最近、総帥にはまず褒めてもらえない。やはり俺に才能はないのだろうか。せっかく怪人にまでなったのに、今は役立たずと罵られる日々が続いている。
「それだけではありません。私たちは新しい怪人を獲得しましたーー元『シュージョ』の怪人エンブンと、元『ナンジョ』の怪人チョーウンです。ほら、エンブン、チョーウン、入って総帥に挨拶しろ」
ジャクブン博士が振り返って呼ぶと、「はっ」と揃った声がして、二人の怪人が入ってきた。
(えっ!? 怪人エンブンと怪人チョーウンだって!?)
怪人ケンブンは仰天した。怪人エンブンと怪人チョーウンといえば、それぞれ『シュージョ』と『ナンジョ』のエース格といわれていた、超強力な怪人である。その二人が、一度に『ギール』の陣営に入るというのか。
「怪人エンブンです。よろしくお願いします」
「怪人チョーウンです。同じくよろしくお願いします」
怪人エンブンと怪人チョーウンは、並んでトクモー総帥に拝礼した。
「ところで、この怪人エンブンと怪人チョーウンは、それぞれ『シュージョ』と『ナンジョ』として敵同士だったのですが、なぜか恐ろしく気が合っているようで、非常に仲良くなっています。そこで、二人を一緒に戦わせれば、良い化学反応を起こし、さらに強くなると思います」
ジャクブン博士はそう補足した。
「なんと、一騎当千の二人が、協力して戦いたいというのか。よかろう。お前たちであれば、ライバル社や戦隊たちを倒せるにちがいない。よろしく頼むぞ」
「はっ!」
二人の新参の怪人は、元気よくトクモー総帥の訓令に答えた。それを見て、怪人ケンブンはさらに気持ちが落ち込んだ。
「ところで、耳寄りな情報です。戦隊ポンジャーが分裂したようです」
「なんだって!?」
今日のジャクブン博士は、総帥の喜ぶことしか言わないようだ。
「戦隊ポンジャーから、グリーン、ピンクの二人が追放されました。グリーンとピンクはすぐさま新しく『戦隊ランチャー』を立ち上げましたが、どちらも今までと比べて弱体化するのは必至です。この機を逃さず各個撃破するのがよいかと思われます」
西海と土佐口が入隊する前も『ランチャー』はあったのだが、あまりにも存在感がなかったので、ここでは西海と土佐口が作ったことになっている。
「よし、では弱そうな『ランチャー』から潰そう。怪人エンブン、怪人チョーウン、さっそく仕事をしてもらうぞ」
「はっ!!」
トクモー総帥はすぐに派兵を決定した。怪人エンブンと怪人チョーウンは仕事をもらえて嬉しそうだ。
「あ、それから、怪人ケンブン」
総帥はなんとなく突っ立っていた怪人ケンブンに目を向けた。
「怪人エンブンと怪人チョーウンは、まだうちのシステムについてわからないところが多いと思う。初めての作戦なのだから、お前がいろいろ教えてやれ」
「わかりました……」
そんなことを言われてもーーと、怪人ケンブンは震えながらなんとか返事をした。怪人エンブンと怪人チョーウンはどちらも最強クラスの怪人だ。そんな二人に自分が教えられることなどあるのだろうか。怪人ケンブンは歯をガタガタ言わせながら退出した。
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