第7話 挑戦状だ!

「次のニュースです。我が国最大手の戦隊『戦隊ポンジャー』が分裂したようです……」

「マジか! もうニュースになってるのかよ!」


 怪人ケンブンと戦った翌日の朝、俺はテレビでなんとなくニュースを見ていた。すると、いきなり俺が関係する話が始まったのだ。


「昨日の午後、都内の児童公園で怪人ケンブンとポンジャーグリーン、ポンジャーピンクとの戦闘が発生しました。ポンジャーは怪人に勝利しましたが、その直後、現場に到着したポンジャーレッドに、二人はポンジャーを追放されました。それがこちらの映像です」


 画面が切り替わり、誰が撮影していたのか、児童公園にいる俺と土佐口、浅野が映った。


「うるさいわね、私が有罪と言えば有罪なの! だいたい、あなたたち二人のような弱い奴らは、私のチームには不要なのよ。土佐口、あなたも追放するわ。もう今後は、金輪際『ポンジャー』を名乗らないで頂戴」


 昨日の浅野の決めゼリフが、そのまま録音されていた。


「今日は戦隊専門家の滝沢宣門たきざわのりかどさんに来ていただいています。滝沢さん、このポンジャーレッドの発言には、どんな意味があると考えますか?」

「そうですね、情報を総合すると、グリーンとピンクは『ポンジャー』を追放されたということでしょう。ただし、『土佐口も』と言っていることから、グリーンの西海は先に追放されていた可能性がありますね」

「滝沢さんは、二人が追放されたのはなぜだとお考えですか?」

「レッドの発言では『弱すぎる』ということになっていますが、それだけが追放の理由ではないでしょう。おそらく二人はレッドと対立があったのだと思います」

「そして、グリーンとピンクは新しく別の戦隊『ランチャー』に入ったという情報も入っています」

「『ランチャー』は聞いたことがない戦隊でしたが、この二人が入ったことで強くなるでしょうね。今後に期待です。一方、『ポンジャー』はメンバーの補充に向けて動き出しそうですね。『ポンジャー』の名声は国中に聞こえていますから、新メンバー争いが激しくなりそうです。今後はそこにも注目していきたいと思います」

「ありがとうございました。では次のニュースですーー」


 決まり切ったことしか言わないニュースを聞き流しながら、俺は朝食を食べ終え、制服に着替えた。なんとでも言うがいい。戦隊に世論はさほど関係ないのだーー戦隊の価値は、どれだけ悪の組織を潰すかにかかっている。


「悪の秘密結社で内紛が発生し、『シュージョ』と『ナンジョ』が崩壊したようですーー」


 そのニュースも、昨日の夜にネットで見ている。俺はテレビを消すと、続いて部屋の電気も消し、学校に向かった。


⭐︎


「では、今日の授業を終わる! 日直!」

「起立! 気をつけ! 礼!」

「ありがとうございました!」


 毎回のテンプレとなっている授業終了時の流れに従って、俺は今日何回目かの礼をした。今日もこれで学校は終わりだ。


「おい、遊びに行こうぜ!」

「もちろんだ! 今日はどこに行く?」


 先生が出て行くなり、途端にクラスメイトたちがわいわいと騒ぎ出した。


「西海! 今日は戦隊はヒマか? 一緒にカラオケに行こうぜ!」


 クラスメイトの一人、田中たなかが俺に声をかけてきた。


「ああ、いいけど」

「よーし、いいぞ! これで五人だな」


 俺の他には、佐藤さとう吉田よしだはらが参加するようだ。俺は全員とそこそこ付き合いがある。最近は戦隊の仕事が忙しく、なかなか遊びに行く機会がなかった。今日は思いっきり羽を伸ばすことにしよう。


 ところが、俺が外靴に履き替えようと下駄箱を開けると、一枚の封筒が落ちてきた。表紙に大きく『挑戦状』と書いてある。


「なんだこれ?」

「戦隊の機密文書か?」


 田中と吉田が身を乗り出してきた。俺は黙って開封する。


『戦隊ランチャー殿。今日の午後五時から、杉並第十三公園で手合わせをお願いしたい。戦隊全員を連れて来られるように。

      怪人エンブン、怪人チョーウン』


 出てきた便箋にはそう書いてあった。


(怪人エンブンと怪人チョーウンだって!?)


 俺は不可解だった。怪人エンブンと怪人チョーウンは、どちらも現在最強クラスの怪人である。だが、二人はそれぞれ違う悪の秘密結社に所属していて、協力することはありえないはずだ。


 いや、そういえば、昨日二つの結社が崩壊したと言っていた。確か『シュージョ』と『ナンジョ』だったはずだ。ーーまさしく怪人エンブンと怪人チョーウンがそれぞれ所属していた組織だ。もしかすると、それが今回の連名と何か関係しているのかもしれない。


(やばいぞ……一人でも強い怪人エンブンと怪人チョーウンが、二人で協力しているのだ。これは大変なことになった)


 とにかく、俺はカラオケなんかに行っている場合ではない。


「田中、せっかく誘ってくれて悪いが、急な戦隊の仕事が入った。今日は行けない。また別の機会に誘ってくれ」


 田中たちには悪いが、俺は手短に断ることにした。


「おう、まあ構わんぜ。頑張れよ」

「ありがとう。じゃあ行ってくる」


 田中は俺の戦隊業にいつも理解を示してくれる。ありがたいことだ。俺が『ポンジャー』を追放されたというのに、少しも気にせず付き合ってくれている。


 俺は靴に履き替えると、大急ぎで走り出した。


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