第8話 vs最強怪人コンビだ!

 午後五時、俺と『ランチャー』のメンバーは、杉並第十三公園に集まっていた。


「いよいよですねみなさん! あの怪人最強と名高い、怪人エンブンと怪人チョーウンの二人と戦えるなんて! 私、ワクワクが止まらないです!」


 なぜか正親町は今にもぴょんぴょん飛び跳ね始めそうなほどはしゃいでいる。


「斎藤、今日の正親町はずっとこんな感じなのか?」


 俺が一応聞いてみると、斎藤は「実はそうなの」と苦笑した。


「油断しないようにってずっと言ってるんだけど、全然聞き入れないの。今回は命の危険もあるというのに……」


 俺からも正親町に何か行っておこう。


「正親町、とにかく今日は無理するんじゃないぞ。怪人エンブンと怪人チョーウンは、一人ずつでも『ポンジャー』を苦しめた桁違いの怪人だ。うかうかしていると、さっき斎藤が言ったように、命も危ないぞ」

「まったくよーーあっ、来た!」


 俺たちの会話に適当に相槌を打っていた土佐口が、急に前方を指差した。見ると、公園に屈強な二人の男が入ってくるところだった。


「お前たちが戦隊ランチャーだな?」 


 二人のうち背の高い方がーー背の高いといっても、彼は二メートルはあるように思われるーーが、ドスの効いた大声で俺たちに問いかけた。俺はリーダーの斎藤に、何か言えと合図を出す。


「いかにも、私たちが戦隊ランチャーだ。そっちは怪人エンブンと怪人チョーウンか?」


 斎藤は必死に声を出しているが、やはり少し声が裏返りかけている。無理もない。往々にして強い怪人というものには、この種の人を萎縮させる力がある。


「そうだ。俺が怪人チョーウン、こっちが怪人エンブンだ。今日はお前たち『戦隊ランチャー』を潰してくるようにという命令を、『ギール』のトクモー総帥から受けている」


 なんだって? それは初耳だ。聞き捨てならない。俺は慌てて口を挟んだ。


「えっ? お前たちは、揃って『ギール』に入ったのか?」


 怪人チョーウンは「実はそうなのだ」と自信ありげに言った。


「こっちの怪人エンブンの『シュージョ』と俺の『ナンジョ』は、不運にも相次いで崩壊してしまった。それで、俺たちは元から仲が良かったから、二人で『ギール』に入り、怪人を続けることにしたのだ」

「そんな……そうしたら、『ギール』がますます強くなってしまうわ」


 土佐口がぶるっと体を震わせた。もともと悪の秘密結社の中でも最大手といわれる『ギール』にこの二人が追加されたとすれば、『ギール』の力はさらに上がってしまう。これは看過してよい問題ではない。


 怪人チョーウンは、余裕たっぷりの表情で話し続けている。


「本当はお前たちをだまし討ちにしてもよかったのだが、俺は仁義を好むので、そんなことはしない。そこで決闘を申し込んだというわけだ。お前たちの力を見せてみろ」


 二人の怪人は、いよいよファイティングポーズを取った。


「上等よ! 覚悟しなさい、怪人!」


 斎藤が地面を蹴って走り出した。俺たちもそれに続く。まず斎藤が怪人チョーウンに迫った。


「『ランチャーキック』!」

「甘いわ!」


 ところが、怪人チョーウンが持っている剣をひと振りすると、斎藤の突撃は一瞬で跳ね返され、斎藤は空高く吹っ飛ばされて、公園に立っている木の頂上付近に激突した。


「しまった、吹っ飛ばすコントロールを間違えたぞ。木の頂上付近に当てれば、木の葉が衝撃を吸収してしまう。幹に当てれば一発だったのに……!」


 怪人チョーウンは何か危ないことを言っている。末恐ろしいが、とにかく斎藤はそれほどダメージを受けていないようだ。俺は大声で注意する。


「斎藤、気をつけろ! 怪人チョーウンの持っている剣は、有名な『魔剣ミカヅキ』だ。一回でも当たれば命も危ないぞ!」


 斎藤はうなずいた。一方、正親町は怪人エンブンの方に向かっている。俺も何か支援をしよう。


「『ポーズビーム』!」


 俺の硬直ビームが怪人エンブンを襲う。


「舐めるな! 『裂魔剣』!」


 だが、怪人エンブンの振った剣が俺のビームに当たると、ビームはすっかり消滅してしまった。


 続いて怪人エンブンは土佐口の放った矢を左手でひょいと払うと、右手の剣で正親町を吹っ飛ばした。


「どうした! お前たちの実力はそんなものか!」

「ならばこっちから行かせてもらうぞ!」


 怪人エンブンと怪人チョーウンは、そう口々に言いながら、俺たちへ逆に突撃してきた。怪人エンブンの剣をまともに喰らった正親町は地面に倒れたままだ。斎藤はなんとか立ってはいるものの、まだふらふらしている。俺と土佐口はもともと後衛で、怪人に近づかれてしまえば対抗するのは難しい。


 わざわざ決闘を受けたのは間違いだったかもしれない。今の『ランチャー』の実力では、こんな上級の怪人にかなうはずがないのだ。あんなあからさまな挑戦状は無視して、今は鍛錬に努めておくべきだったのだ。


 だが。


「待て!」


 突然新しい声が聞こえて、俺たちと二人の怪人の間に、何者かが割り込んだ。

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