第4話 土佐口が危機だ!

「ん? どうした西海?」


 俺が急にこそこそと隠れ始めたので、斎藤が不審そうに聞いてきた。


「斎藤、ここで練習をするのはやめよう。俺が絶対に見つかってはいけない人がやってきた」


 俺、斎藤、正親町は児童公園から退避し、物陰から公園の様子を観察した。


 すぐに彼女はやってきた。俺が最も会ってはならない人、つまり土佐口である。呑気に鼻歌を歌っている。


「あっ、『ポンジャー』の土佐口さんだ」

「そうですね。この時間に練習に来ているのでしょうかね。私たちとは出会ったことはないですけど」


 斎藤と正親町も、やはり土佐口の存在は知っているようだ。ちなみに、正親町は俺にもいまだに敬語である。斎藤にも敬語なので、これがちょうどいいのかもしれないが。


「そういえば、これが西海が追放された理由? 土佐口とケンカしたとか?」


 斎藤がこちらに横目を送ってきた。なかなか遠慮のない奴だ。だが、ここで隠すわけにもいかないだろう。


「実は、俺が追放されたのは、土佐口にストーカーを働いているという疑惑をかけられたことが原因なんだ。もちろん俺にそんな自覚はないよ。おそらくは浅野の陰謀だ。でも、本当に正親町が俺にストーカーされているとすれば、俺は土佐口にはもう会わないのがよいんだ」


 俺がそう説明すると、正親町はちょっと首を傾げた。


「そうなんですか? なんなら今から出て行って、誤解を解いて来ればいいんじゃないですか?」


 俺はきっぱりと首を横に振った。


「そんなことはできない。そもそも俺は『ポンジャー』を追放された身だ。安易にメンバーに関わるべきではないよ。土佐口には、俺のことを忘れて、『ポンジャー』で頑張ってほしいんだ」


 斎藤と正親町はもう返事をしなかった。互いにときどき目配せを送り合いながら、公園の中の土佐口に見入っている。


 土佐口は準備運動を終えて、本格的な練習を始めていた。空中に向かって突きや蹴りを繰り出し、さらに彼女の能力である遠距離攻撃も練習している。彼女の能力は、弓矢で敵を撃つというものだ。弓矢は土佐口の意志に応じて出したり消したりできるらしい。弓矢を持っている土佐口は、なかなか凛々しいものだ。


 俺は斎藤と正親町に声をかけた。


「おい、お前らもう土佐口を見ていないだろう。見つかると面倒だ、帰るぞ」


 斎藤と正親町は、真面目に土佐口を観察して研究するのかと思いきや、いつのまにか肩を寄せ合ってひそひそ話を始めていた。


「えー、せっかくなんだから、もう少し見ていこうよ!」


 と斎藤が見ていないくせにそう言ったときだった。


「土佐口、覚悟!」


 突然何者かの声がして、土佐口の前に人影が飛び出した。見ると、『ギール』の制服を着ている。


「何を! そっちこそ覚悟しろ!」


 土佐口は機敏に反応して、すぐに最初の『ギール』の戦闘員を殴り倒した。さらに次々と何人か出てきたが、土佐口の敵ではない。接近戦なので得意の弓矢は使えないが、土佐口はこれしきの戦闘員などに遅れをとるような実力ではないのだ。


 だが、戦闘員は倒しても倒しても絶え間なく出てくる。


「どうしましょう……助けに行きますか、玉江さん?」

「やめておこう。土佐口さんは戦闘員ごときには負けないよ。それに、西海のこともあるし」


 斎藤と正親町も、さすがに雑談をやめて土佐口の戦闘を見ている。それにしても、やけに戦闘員の数が多い。もう十人くらいだろうか。


 何か嫌な予感がするーーと俺が感じた瞬間、ポン、と音がして、土佐口の前に大柄な男が出現した。


「「「あっ、あれは!」」」


 そいつを見て、俺と斎藤、正親町は同時に声を上げた。


「ーー怪人ケンブン!」


 怪人とは、『ギール』の戦闘員たちを率いる、いわば幹部だ。普通の人間である戦闘員と違って、怪人たちは『ギール』の本部から身体改造をされ、特殊能力を与えられている。


 怪人ケンブンとは、『ポンジャー』も何度か戦ったことがある。彼は『ギール』でも有数の厄介な怪人だ。


「ふはははは! 俺たちは、お前が毎日この公園で練習していることを、ついに突き止めたのだ! 『ポンジャー』は五人集まれば強いが、一人ずつでは弱い! 今日こそは勝たせてもらうぞ、土佐口ーーいや、ポンジャーピンク!」


 怪人ケンブンは手早く口上を済ませると、土佐口に襲いかかってきた。土佐口も必死に応戦する。


「『暴風』!」


 だが、怪人ケンブンが特殊能力を使った。彼は風系の能力者である。土佐口は一瞬で数メートルも吹っ飛ばされた。


「くっ!」


 土佐口は体勢を崩しながらも、怪人ケンブンをまっすぐ睨み、そして得意の弓矢を取り出した。


 距離が離れてしまえばこっちのものである。土佐口の放った矢が、怪人ケンブンを襲う。


「効かんわ!」


 だが、怪人ケンブンが腕を一振りすると、矢はあらぬ方向へと飛んでいった。


 土佐口の矢には、本来はホーミング機能があるはずである。しかし、怪人ケンブンが常に緩急を織り交ぜて土佐口に風を送っているので、土佐口はうまく矢をコントロールできていない。


 怪人ケンブンがまた大風を吹かせて、土佐口が吹っ飛ばされた。まだ致命傷は受けていないが、このままでは苦しいだろう。


 こうなったら、追放とかストーカーとかは問題ではない。俺のやるべきことはすでに決まっている。


「斎藤、正親町ーー助けに行くぞ」

「「はい!」」


 俺たちは地面を蹴って走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る