第3話 新チームだ!
「どうぞ、こちらが私たち『戦隊ランチャー』の本部です」
街での突発的な戦闘から数十分後、俺は『ランチャー』の本拠地に通されていた。
『ランチャー』の本部も、『ポンジャー』の本部と似ていて、地下三階にある。壁にはところどころ汚れが目立っているが、今にも崩れ落ちそうなほどというまでではない。
「狭くて申し訳ないです。本部はこの一部屋だけで……あまり有力なスポンサーもないですから、安い部屋をしょうがなく借りているんです。まあ、グリーンさんはとりあえずこちらにでも座ってください」
斎藤はその長身を何度も曲げつつ、俺に椅子を勧めてきた。
「いやいや、客人の俺が座るわけにはいかないよ。俺はさっきは戦闘員とも大して戦っていないし、そんな権利はないはずだ」
「いえいえ、そんなわけないです。グリーンさんがいなかったら、私たちは今頃敵の捕虜になっていますから」
斎藤は正親町とも合わさって、俺を椅子に押し込んだ。
「亜紀、グリーンさんにお茶を入れて差し上げなさい」
「はい」
斎藤に言われて、正親町は部屋の隅にある即席のキッチンのようなものに向かった。
「私たちは、実は柔道部の先輩後輩の間柄なんです。玉江さんの方が一年先輩なんですよ。私が中学一年で、玉江さんが二年です。玉江さんはこれでも部長なんです」
正親町が解説してくれる。斎藤が単に偉そうにしているというわけではないらしい。
「何よ『これでも』って。私は柔道でも結構強いのよ」
斎藤は文句こそ言っているが、まんざらでもなさそうだ。
「しかしグリーンさん」
斎藤が何やら背筋を伸ばしてこっちに向き直った。
「どうした。それより俺はもうグリーンではないんだから、グリーンと呼ぶのはやめてくれ。西海でいいーーそれが俺の本名だ」
「いや、まさしくその話なんです」
斎藤は俺の座っている椅子の前までやってくると、しゃがみ込んで俺と同じ目線になった。
「西海さんは『ポンジャー』を追放されたのでしょう」
「そうだが……」
「それなら、『ランチャー』に入る気はありませんか?」
俺は斎藤と正親町を交互に見比べた。二人は真剣な表情で俺の返事を待っている。実は、俺はだんだんと、この二人となら一緒に戦えるのではないかという気がしていた。
それは、この場のアットホームな雰囲気にあった。俺が『ポンジャー』にいたころは、そもそも『ポンジャー』が浅野の独裁的な集団であったため、みんなが浅野の顔色を窺っていた。だが、『ランチャー』では、そんな強権的なムードは感じられなかった。先輩後輩の関係はあるものの、斎藤と正親町はお互いを尊重し合って仲良くやっているようだった。そして、それに俺が加入することは、そこまで難しいことではなさそうだった。
「そうだな。ぜひ俺も、二人の仲間になりたいーーいや、ならせていただけませんか、リーダー殿」
俺が口調を正すと、斎藤はぷるぷると首を振ってさらに体を曲げ、危うく土下座しそうになった。
「いえいえ、そんな堅苦しいのは要りませんから……! それに、西海さんの実力は私たちより上なんですから、私、リーダーなんて西海さんに進呈します!」
「いや、それはさすがにできないよ。さっきも言った通り、俺はもともと後衛なんだ。それに、俺はグリーンの色が好きなんだ。戦隊レンジャーはレッドがリーダーだって、昔から決まってるだろ」
そう断りつつも、俺は斎藤にさらに好感を持っていた。『ポンジャー』の浅野は、自分がリーダーであることを固く信じて疑っていなかった。それに対して、斎藤には謙虚さがあった。俺は、斎藤は浅野よりもはるかにリーダーの器があると感じた。
「ありがとうございます! では西海さんは、今からはランチャーグリーンということですね。グリーンさん、改めてよろしくお願いします」
斎藤と正親町は並んで、改めて俺にお辞儀をした。
「あ、そういうのはもういいから。敬語もやめにしようーー俺たちはもうチームになったんだから」
「あ、そうか。じゃあ、えっと……よろしく」
斎藤はまだその言葉遣いに慣れないようにはにかみながら、俺に手を差し出していた。正親町もそれに続いた。俺はにっこりと微笑んで、二人とがっちり握手を交わした。
⭐︎
「で、ここが私たちのいつもの練習場所なんだけど……」
それから少し後、俺たち『ランチャー』の三人は、本部の近くにある児童公園に来ていた。なかなかの広さがあり、練習をするにはちょうどよさそうだ。
「えーと、二人の能力は……確か正親町は『ランチャーパンチ』だったな。ということは、斎藤は『ランチャーキック』なのか?」
「正解。ただの打撃技の強化だから、私としてはまだまだと思ってるんだけど……」
「いや、俺も含めて、『ポンジャー』のメンバーも中学生くらいの時はそんなものだったよ。それに、合体技は人が多い方が発動しやすいっていうじゃないか。俺が加わったことで、急に使えるようになるかもしれないぞ」
「そうだといいんだけど。じゃあ、私たちの最初のメニューはーー」
「あっ! まずい!」
斎藤が今にも練習を始めようとしたとき、俺は驚いて飛び上がり、斎藤の陰に隠れた。
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