第2話 人助けだ!

「な、なんだお前らは!」


 突然現れた邪魔者を『ギール』の戦闘員コンビは睨みつけた。


 戦闘員コンビと被害者の女性の間に立っているのは、どう見ても学生にしか見えない二人の少女だ。いかにも今から遊びに行きますというような服装をしている。だが、二人には戦う意志があるようで、すぐに背の高い方が堂々と自己紹介を始めた。


「私たちは正義の味方『戦隊ランチャー』だ! 私はレッドの斎藤玉江さいとうたまえ! こっちはブルーの正親町亜紀おおぎまちあき! 罪のない市民に仇をなす『ギール』め、今日という今日は許さないぞ!」


 戦隊ランチャーとは、俺が聞いたことのない戦隊の名前だった。今のところ最大手の戦隊は戦隊ポンジャーだが、その他のどんな戦隊にも『ランチャー』とかいう戦隊はいないはずだった。


「ランチャー? そんなの聞いたことがないぞ。ポンジャーの間違いじゃないのか?」


 ギールの戦闘員も不審に思っているようで、隣の相棒に話しかけている。


「どうせ戦隊ごっこをしてみたいだけのモブだろ。強いわけがない。やっつけてしまうぞ!」


 二人の戦闘員は、意外とうまく連携を取ってランチャーの二人に襲いかかった。


「させるか!」


 ランチャーたちも応戦する。斎藤と戦闘員Aが、正親町と戦闘員Bがマンツーマンになり、互いに肉弾戦が始まった。


 ランチャーの二人はそれなりに強かった。斎藤は長身を生かして機敏に動き、戦闘員を翻弄する。対照的に小太りの正親町は、基本的には受けに徹しながらも、隙を見て強烈なカウンターを繰り出す。どうやら二人は本物の戦隊であるらしかった。戦闘員たちはじわじわと追い詰められていった。


「むむっ!」


 だが、戦闘員Bが苦し紛れに放ったキックが、正親町の肩を捉えた。戦闘員Bは正親町がよろめく隙に体勢を立て直し、大きく腕を振りかぶった。


 その途端、俺は体が勝手に動いていた。


「ポーズビーム!」


 俺の手からビームが飛び出し、戦闘員Bの背中に直撃した。戦闘員Bの動きが止まる。俺の超能力だ。当たった者の動きを三秒だけ止められるビームだ。


「今だ!」


 俺は戦場に走り出しながら、一瞬何が起こったかわからないような顔をしている正親町に叫んだ。正親町はこちらの意図を理解したらしく、うなずいて腕を振りかぶった。


「喰らえ! 『ランチャーパンチ』!」


 正親町が戦闘員Bにパンチを繰り出した。だが、普通のパンチとは違って、正親町の腕がなぜか光っている。パンチが戦闘員Bの胸に当たると、光がヒットした部分に集まり、戦闘員Bは3メートルほど吹っ飛ばされた。


「しまった!」


 戦闘員Aは慌てて斎藤から距離を取った。だが、そこを逃すような俺ではない。


「待て! おとなしくお縄につけ!」


 戦闘員Aは突っ込んでくる俺を見ると、恐怖の表情を浮かべた。


「あっ、お前は、ポンジャーグリーン……ぐはっ!」


 俺のキックが戦闘員Aを捉え、戦闘員Aは地面に倒れた。すぐさま斎藤と協力して戦闘員Aを押さえつける。戦闘員Bは正親町が押さえている。しばらくすると騒ぎを聞きつけた警察がやってきて、二人の戦闘員は恐喝罪で逮捕された。


⭐︎


「「さっきはありがとうございました!」」


 その少し後、俺は『ランチャー』の二人に揃って頭を下げられていた。


「いやいや、礼なんていいから。俺は、困っている人を助けるという、当然のことをしたまでだ。こちらこそありがとう」


 俺はそれだけを手短に言って立ち去ろうとしたが、斎藤は俺の手首を意外に強い力で引っ張り、俺の退散を許さなかった。


「待ってください、私たち、少しあなたに話を聞きたいんですーーだってあなたは、ポンジャーグリーンなのでしょう? ぜひ私たち初心者に、怪人と戦う技術を教えてほしいです」


 どうやらさっきの戦闘員Aの発言を聞かれていたらしい。確かに俺はポンジャーグリーンだった。でも、今はもうそうではない。俺はすでにその資格を失っているのだ。


「違う、俺はポンジャーグリーンではないんだ。実は、さっき俺は『ポンジャー』を追放されてーー」


 言ってから、しまったと俺は口を押さえた。そんなことをむやみに一般人にバラしてしまえば、絶対にどこかにリークされて、速攻で炎上してしまう。


 おしまいだーーと、俺は天を仰いだ。


「あ、えっと、大丈夫ですよグリーンさん。私たちはこれでも戦隊業の一員ですから。他の戦隊の個人情報を漏らすことはありません」

「まさか! どうせ俺の情報を使って、『ポンジャー』の評判を下げようと企んでいるんだろう!」

「そんなわけないじゃないですか! だって、私たちは共通の悪の組織と戦っているでしょう? 仲間である他の戦隊の足を引っ張ることなんかしません!」

「………………!」


 そうだった。俺は戦隊業の人間なら当たり前のことを忘れていた。同じ戦隊業の人が、他の戦隊の評判を落とすようなことはするべきではない。俺のような大手戦隊のメンバーになると、ついそのことを忘れてしまって、ライバル戦隊をどのように蹴落とすかばかりを考えてしまう。だが、本来そんなことをしていれば、戦隊失格だ。俺は正親町のまっすぐな目を見て、それに今更ながら気付いた。


「いや……すまない。意味もなく疑いをかけてしまった。さっきも言った通り、俺は今はフリーの身だ。俺にできることがあるのなら、何かさせてほしい」


 俺は改めてそう言った。


「本当ですか! ありがとうございます!」


 斎藤と正親町の顔がぱっと輝いた。

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