「使えないから」と戦隊レンジャーを追放された俺、外れスキル『三秒硬直』で成り上がる〜最強の後衛〜

六野みさお

第1話 追放された!

西海道一にしうみみちいち、お前を戦隊レンジャー『ポンジャー』から追放する!」


 俺たちの戦隊の拠点である秘密基地の一室で、俺は突然そう宣告された。


「えっ、俺を追放しようだって? そんなことできるのかよ。だって、俺が抜ければ、『ポンジャー』は四人になってしまう。そんな不吉な話がーー」

「黙れ! 言い訳は聞いていない!」


 何かの冗談だろうと思って混ぜっ返そうとした俺の言葉は、途中で遮られた。


「わかっていないのか? 自分が毎回の戦闘で、どれだけチームに迷惑をかけているのかを!」


 俺に追放を宣言した『戦隊ポンジャー』のレッドにしてリーダー、浅野聖子あさのせいこは、まるで俺が犯罪の真犯人であるかのように、俺に人差し指を突きつけた。彼女は本来はチーム一の美少女なのだが、今はそれも台無しである。


「どんな時でも『俺は戦闘要員じゃないから!』と言って後ろに回り、ちょっと戦闘員に近づかれたら逃げてばかりいる。敵の怪人にとどめをさしたことなど一回もない。そんな分際で、よくもぬけぬけとチームにとどまっていられるものだな!」


 俺はずいぶんと酷い言われようだ。だが、向こうも理不尽すぎる。俺が後衛だという事実を理解していない。そんなことで追放されてたまるか。


「待て浅野、チームの中の俺の役割をよく考えーー」

「それだけではない!」


 俺の反論はまたも途中で遮られた。


「私はもう証拠を掴んでいるんだ。お前がうちの土佐口とさぐちにストーカーを働いたことをな!」

「な、なんだって?」

「知っているぞ! お前が毎日土佐口につきまとっていることを。それに前回の戦闘の後、お前は土佐口に抱きついただろう。どれだけ土佐口が不快に思ったかわかっていないのか!」

「違う! それは誤解だ!」

「言い訳は認めん! お前は人としてやってはいけないことをしたんだ。今すぐおとなしく出て行って、二度と私たちの前に現れるな! それにここは地下五階だ!」

「五階じゃないか!」

「いいから出て行け!」


 浅野は俺の首筋をひっつかむと、俺をずるずると引っ張って、無理やり俺を部屋の外に出そうとした。浅野はレッドの名にふさわしく『ポンジャー』のエースで、近接戦闘なら誰にも負けない。このままでは、俺は浅野にパワハラ的に追放されてしまう。俺はとっさに他のメンバーに助けを求めた。


村上むらかみ! 助けてくれ!」


 だが、ポンジャーイエローである村上大吾むらかみだいごは読んでいる本から目を離さなかった。


「もう無駄だよ。浅野さんがこうなってしまったら、誰にも止められない。普段から気をつけていればよかったんだよーー僕みたいにね」

「だそうよ。残念だったわね西海。おとなしく出て行きなさい!」


 薄情な村上には見送られることすらなく、俺は浅野に戸外に叩き出され、目の前で部屋の鍵をガチャンと閉められた。


⭐︎


「弱ったなぁ……」


 俺は道をとぼとぼと歩いていた。


 そもそも、俺には追放される理由がない。俺が戦闘のときいつも後ろにいるのは、俺がもともと後衛的な特殊能力を持っているからだ。俺の能力は『三秒硬直』。当たった敵の動きを三秒だけ止められる能力だ。俺はこの能力で、前線の浅野たちの危ないところを何度も救っている。


 それに、土佐口にストーカーだなんて、俺は身に覚えがない。土佐口文花とさぐちふみかは俺に好意を持っているようにしか見えなかった。前回の戦闘の後に抱きついたのは不可抗力で、土佐口は全く嫌がっていなかった。


「でもな……」


 浅野は確かに「土佐口が不快に思っている」と言った。もしかすると、土佐口から本当にそういう相談があったのかもしれない。俺が気づかなかっただけで、実は土佐口は俺から離れたくてたまらなかったのかもしれない。もしそうだとしたら、俺は本当にストーカーということになる。


 土佐口に謝罪のメールを送った方がいいだろうか。いや、やめておこう。土佐口はさっきの場にいなかった。それほど俺に関わりたくないということだ。もう関係を切ってしまうのが一番だ。


「しかし、これからどうするかな……」


 俺は『戦隊ポンジャー』に全てを捧げてきた。だから俺は、現役高校生であるにもかかわらず学校にもあまり行っていないし、勉強の成績もいまひとつだ。俺は戦隊の仕事で食っていこうと心に決めていたのだ、今さら他の進路に変えることはできない。


 とりあえずバイトでもしてみるかーーとか考えながら俺が交差点にさしかかったとき、急に悲鳴が聞こえた。


「きゃあああっ!?」

「おらおら! おとなしく金を出せ!」


 若い女性が二人組の男に因縁をつけられている。男たちの着ている制服は、悪の結社『ギール』ーー戦隊ポンジャーの仇敵のものだ。おそらく下っ端の戦闘員だろう。『ギール』は本当はいかにも悪くなさそうな主張をしている結社なのだが、その下っ端戦闘員の本質はただのヤクザである。


「どうする?」

「近くに戦隊はいないのか!」


 野次馬たちが騒ぎ出した。俺にはこの場を収められる力がある。だが、俺は『ポンジャー』を追放された身だ。それなのに、のこのこと『ギール』の戦闘員と戦ってよいものなのだろうか。そう思って、俺は一瞬迷ってしまった。


 そのとき、野次馬の中から何者かが走り出て、二人の戦闘員と女性の間に立ちふさがった。

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