第12話 ギールの謀略

 ここは悪の秘密結社『ギール』の総帥室である。昨日と同じように、トクモー総帥がいかにも偉そうに椅子に座っている。


「お帰り、怪人エンブン。怪我はもういいのか?」


 総帥が視線を向けた先には、怪人エンブンがいる。


「ええ、ジャクブン博士に治していただきました。やはり『ギール』の科学力はすごいですね。骨折を一瞬で治すとは」

「そうだろう。戦隊たちはこうはいかない。うちの博士たちは優秀なのだ」


 総帥は満足そうだ。


「それで、戦闘の方はどうなったのだ。途中で怪人ケンブンが、『ギョール』の怪人と交戦しているという情報を送ってきたが」


 怪人エンブンは少し居住まいを正した。


「はい、私たちが戦隊ランチャーと戦っていたところ、突然『ギョール』の怪人である怪人リョウガンと怪人シュウブンが現れ、私たちに襲いかかってきました」


 総帥は息をのんだ。


「なに、怪人リョウガンと怪人シュウブンだと? その二人は『ギョール』でもエース格の怪人だぞ」


 怪人エンブンはここぞとばかりに胸を張った。


「はい、つまり『ギョール』は、私たちエース格の怪人を倒すために、向こうのエース格の怪人を送り込んできたわけです」


 総帥は肩をすくめた。


「なんだその自慢は。ーーだが、その見方はおそらく正しいな。それで、お前たち『ギール』最強格の怪人コンビは、そいつらとどのように戦ったのだ」


 怪人エンブンはさらに胸を張った。


「はい、まず怪人チョーウンが必殺技『ゴールド・ムーン』を使って、怪人リョウガンを一撃で沈めました」


 総帥は一瞬固まった。


「え? 一撃?」


 怪人エンブンは自信たっぷりにうなずいた。


「はい、怪人リョウガンは一撃で絶命しました」


 総帥の顔に乾いた笑いが浮かんだ。


「それはすごいな。やはりあいつの実力は本物だったようだ」


 怪人エンブンは「全くです」と同意して、次を続けた。


「それから、残った怪人シュウブンが持久戦を挑んできたので、私たちは協力して彼を追い詰めました。ところが怪人シュウブンが新技『トラッププラント』を使って、私を拘束してしまいました」


 総帥は身を乗り出した。


「なんだその『トラッププラント』というのは?」


 怪人エンブンは遠くを見るような目つきになった。


「これは相手の足元からツタを生やして、相手を拘束する技です。怪人シュウブンによれば、これに捕らわれてしまうと、際限なくツタに体が締め付けられ、最後には死んでしまうそうです。私は実際にかかりましたが、かなり痛かったですね」


 総帥は腕を組んだ。


「面白そうな技だな。このことはもうジャクブン博士に話したのか?」


 怪人エンブンは「もちろんです」とうなずいた。


「ジャクブン博士は『すぐに他の博士と協力して、『ギール』でもこの技の実用化を目指す』とおっしゃっていました」


 総帥は満足そうに笑った。


「さすがジャクブン博士だ。それで、そのあと拘束されたお前はどうしたのだ」


 怪人エンブンは苦笑した。


「はい、そこで怪人チョーウンが『トラッププラント』をかいくぐり、怪人シュウブンを倒しました。すると『トラッププラント』の効果は切れて、私は解放されました」


 総帥は少し口をすぼめた。


「また怪人チョーウンがやったのか」


 怪人エンブンは少し目線を上にそらせた。


「はい、そうなのです。怪人チョーウンがいなければ、私は今ごろ生きてはいなかったでしょう。今回の戦闘は、八割方怪人チョーウンのおかげです」


 総帥は「ははははは」と大声で笑った。


「なるほど、そりゃあ肩身が狭いだろうな、怪人エンブン。だが、心配することはない。怪人リョウガンと怪人シュウブンは、『ギョール』でも最強格の怪人だ。さらには、怪人シュウブンは新技を使って、こちらの裏をかいてきた。もともと負けても文句は言えない戦いだったんだよ。それに、お前のその失敗を隠さないところは、私は好きだぞ」


 怪人エンブンは少し赤くなった。


「あ、ありがとうございます」


 だが、総帥はすぐに顔を引き締めた。


「ところで、そのあとどうなった?」


 怪人エンブンも笑顔を抑えて前を見た。


「はい、私は負傷したので、先に帰らせていただきました。怪人チョーウンが後片付けをしているはずです」


 総帥は不審そうに眉をひそめた。


「なるほど。だが、怪人チョーウンはもう帰ってきてもよさそうなものだが……」


 怪人エンブンもそのことに思い当たった。


「本当だ、それにしては遅いですね。何かあったのでしょうか」


 怪人エンブンがそこまで言ったときだった。


「トクモー総帥、大変です!」


 部屋の入り口付近から大声がして、一人の怪人が慌ただしく飛び込んできた。見ると、怪人ケンブンである。怪人ケンブンの服はボロボロで、怪我をしているようだ。


「どうした、怪人ケンブン?」


 総帥は驚いて怪人ケンブンに問いかけた。怪人ケンブンはすぐさま口を開いて、驚くべきニュースをもたらした。


「怪人チョーウンが裏切りました!」

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