第13話 怪人チョーウンの裏切りだ! 前編

 トクモー総帥は蒼白な顔になった。


「なに!? 怪人チョーウンが裏切っただと!? そんなはずがない!」

「誠に残念なのですが、そんなはずがあるのです。とにかく話を聞いていただきたいのですが」


 怪人ケンブンはいささか苦笑しながらも、うろたえる総帥をなだめた。


「つまり、こういうわけなのですーー」


⭐︎


 その日の夕方、怪人ケンブンは怪人エンブン、怪人チョーウンと共に、戦隊ランチャーを呼び出した公園へと向かっていた。


「怪人チョーウン、本当に俺は戦いに参加しなくてよいのですか? こちらは二人で向こうが四人だと、二倍の人数を相手にすることになります。それに、向こうには元ポンジャーの西海と土佐口がいます。油断のならない相手だと思いますが」

「はっはっは、怪人ケンブン、お前はずいぶん臆病だな!」


 弱腰になっている怪人ケンブンを、怪人エンブンは笑い飛ばした。


「西海と土佐口? つまりはポンジャーのグリーンとピンクだろう。あんなのはポンジャーの中でも弱い方だよ。俺は以前、ポンジャーの五人全員を相手にして、互角に立ち回ったことがあるぜ」


 怪人チョーウンも口を挟んできた。


「なんの、俺はこの前、ポンジャーのレッドとやり合って勝ったんだぞ。あいつは俺にかなわないと見るや、『覚えてろ!』と言って逃げていったんだ」


 怪人ケンブンは身のすくむような思いがしてきた。自分が想像していたより、あまりにも怪人エンブンと怪人チョーウンの武勇伝がすごすぎたのである。なんとなく噂を聞いてはいたが、まさかこれほどだったとは。


「ははあ。それにしても怪人チョーウンは、あのポンジャーレッドに勝ったのですか。それはすごいですね」


 怪人ケンブンがなんとなく相槌を打つと、怪人エンブンが怪人チョーウンに鋭い横目を向けた。


「おい怪人チョーウン、怪人ケンブンに褒められたからといっていい気になるなよ。そもそも、お前とポンジャーレッドの試合は一対一だろう。だが、俺はポンジャー全員と戦って引き分けたんだからな」


 それを聞いて、怪人チョーウンも怪人エンブンを睨み返した。


「いや、ポンジャー全員か、レッドだけかはこの際あまり関係がないぞ。なぜって、だいたいポンジャーの中で、怪人と戦うのはレッド一人と決まっているからな。ブルーとイエローが戦闘員と戦って、グリーンとピンクが後ろから援護するというのがいつもの戦い方だろう」

「おいおい、つまりは俺の場合、グリーンとピンクの遠隔攻撃を受けながらも互角に戦ったということじゃないか」

「……その通りだ」


 言い争いは怪人エンブンに軍杯が上がったようだった。


「つまりは怪人ケンブン、俺たちが今日相手にするのは、ポンジャーとはいえたかが後衛だ。もう二人前衛がいるそうだが、聞いたこともない名前だから余裕だろう」

「それに、その後衛に負けたお前にとやかく言う資格はないぞ。まあ、俺たちの戦いを見て、せいぜいよく学ぶんだな」

「はあ、すいません……」


 怪人ケンブンは怪人エンブンに言いくるめられ、さらに怪人チョーウンに説教までされてしまった。それでも、とにかく怪人ケンブンは後をついていくしかなかった。


 公園に着くと、すでに戦隊ランチャーはやってきていた。ちょっとした会話をして、すぐに戦闘が始まった。だが、怪人エンブンと怪人チョーウンは、戦隊ランチャーの攻撃にびくともせず、逆にランチャーたちを豪快に吹っ飛ばした。


(なるほど、これは強い!)


 物陰の怪人ケンブンは、必死に二人の怪人の動きを観察した。早く二人の動きを研究しなければ、ランチャーたちがやられて、戦いが終わってしまう。


 ところが。


「待て!」


 別の怪人が現れた。見ると、それは『ギョール』の怪人、怪人リョウガンと怪人シュウブンだった。彼らは『ギール』の二人に、今にも襲いかかろうとしていた。


(なんてことだ!)


 怪人ケンブンは頭を抱えた。怪人リョウガンと怪人シュウブンといえば、『ギョール』でも最強格の怪人である。怪人ケンブンはもちろん一度も勝ったことはなく、九死に一生を得たこともある。


 いくら怪人エンブンと怪人チョーウンが強い怪人といっても、この二人の怪人には簡単には勝てないだろう。今こそ俺の出番だーー怪人ケンブンは、今にも公園の中に躍り出ようとした。


 だが、そのとき。


「もらった! 『超剣』!」


 怪人ケンブンの背後から変な声が聞こえ、怪人ケンブンは危険を感じて、とっさに身をよじった。


 その直後、剣がさっきまで怪人ケンブンがいたところに突き刺さった。


「誰だ!」


 怪人ケンブンが振り向くと、道の向こうに一人の男が立っていた。怪人ケンブンは彼の顔に見覚えがあった。


「あっ……お前は、トクゲン総帥!」


 トクゲン総帥と呼ばれた男は、道を横断するほど長く伸びていた自分の剣を、するすると縮めながらそれに答えた。


「俺はもうトクゲン総帥じゃないぞ。『ナンジョ』はお前たち『ギール』に潰されたからな。今はただの怪人トクゲンだ」


 トクゲン総帥、改め怪人トクゲンは、少し前にジャクブン博士の作戦によって壊滅した悪の秘密結社『ナンジョ』の元リーダーである。彼は短く戻り切った彼の剣を握り直すと、怪人ケンブンに向き直った。


「だが、今となっては俺は『ギョール』の一員なのだ。よって『ギール』のお前は倒さないといけないな」

 怪人トクゲンはそう言うと、再び怪人ケンブンに向かって剣を伸長させてきた。

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