第什話 ストーカー
睦基と翔子はお互い忙しさを増した。特に、翔子は、テレビやYouTubeへの出演依頼が殺到した。
でも二人は、週に一度だけ会う時間を作った。その時は、大学の講義の復習で、翔子が分からなかった事を睦基が教えるという時間だった。大食いに行く、呑みに行く、一夜を共にする等は三ヶ月に一回くらいしか作れなかった。
睦基は、それに不満はなかった。翔子は申しわけなさそうにする時もあった。
「あのね、最近、誰かに着けられてる気がするの、ストーキングされてるみたいなの、どうしたらいいかなぁ」
久し振りに翔子の部屋に泊まることになった。枕を共にした。
「そっか、翔子ちゃん、大食いアイドルみたいな位置になったから、そんな事も起こっちゃうよな、僕が調べてみるよ、翔子ちゃんに変な被害がないようにする、任せて、今後のスケジュールは決まってるの、教えてくれるかい」
睦基は冷静だった。自分の中のみんなで対処する自信があるからだ。
〝睦基、私、対策練るわ〟
真っ先にレイが声をだした。
〝俺も準備万端だぜ〟
丈も心得ていた。
睦基は、翔子から教えてもらった彼女のスケジュールに合わせて、彼女がいく場所、移動手段、移動経路周辺の調査、彼女のファン達への聞き込みをした。最後は、SNSのファンとの写真からストーカーを判明した。
先ず、翔子が撮影する店、テレビ局、スタジオ周辺で、出入り口の環境を見て行った。身を隠しながら出入り口が見やすい場所を特定した。次に、移動経路をGoogle Earthで、道路から身を隠してカメラや双眼鏡等で走る車が見易い場所を特定した。そして、翔子を出待ちしてるファンに追て行くのを実際に試みた。
移動経路では、特に、異常な状況は無かった。
撮影場所では、盗撮のように遠くからカメラで梅木を狙う男が二人いた。その二人が使ってるカメラは同じものだった。一人が他のファン達に紛れて撮影を終えた翔子を出待ちしてるともう一人の男は遠くからカメラを構えていた。
数人のファンにこの二人の男達の話を聞くと、ファン同士のオフ会で会った事は無いということ、この二人が話しをしてる姿は見たことがないということが分かった。また、異様な雰囲気があるという人もいた。
SNSで翔子のファン達のページを見ると、一つのアカウントに、『大食い女子大生、梅木翔子の毎日』というタイトルを付けたものがあった。その写真には、翔子が撮影に行った店やテレビ局、スタジオ前等の画像が投稿されていて、交互にあの男達が写っていた。
〝ここまで、分かればハッキングが早くないかな、この二人がどう連絡し合ってるか、翔子ちゃんのこと、どう捉えてるか分かると思う。〟
一文字が提案した。
〝賛成よ〟
レイが一言添えた。
一文字がパソコンに向かった。ブラインドタッチで素早く操作した。
あのアカウントへは二つの端末からログインしてること。その二つの端末は主に、LINEで連絡を取り合ってること、ガラガラヘビとすっぽん仙人というハンドルネームだった。
勿論、電話番号と住所等、事細かな個人情報も突き止めた。そして、その二人の連絡内容には、具体的な日付けに二人で翔子を襲い、レイプすること、失敗したら殺害も厭わないとの内容があった。
〝俺の本領を発揮する時が来たか〟
丈の顔は真剣そのものだった。
〝そう、あなたの出番〟
レイは丈を肯定し、モチベーションを高めたい気持ちでいた。
〝こんな時に、私達、身体が二つ、三つあるといいんだけど、丈の能力は、あの二人から翔子ちゃんを守るのはできると思うけど、相手は武装してるだろうから、丈が殺してしまわないか心配だわ〟
歌音は心に引っかかる事を素直にいった。
〝そうなるかどうかは、その場でしか分からないと思う、先ずは、翔子ちゃんを守ることと自分の身を守ることを優先して行くべきだな〟
一文字は優先事項をみんなにコンセンサスが得られるようにいった。
〝彼らの計画は、翔子のマンションから5五〇メートル離れた公園の雑木林に連れ込むわけだから、翔子が電車を降りたら、その公園に潜む、ガラガラヘビにすっぽん仙人が連絡して、翔子を待ち伏せるから、駅近くですっぽん仙人がガラガラヘビに連絡した後、そいつを動けなくして、翔子より先に公園に入って、ガラガラヘビを動けなくしたらいい、丈、できるね〟
レイはシンプルなプランを指示した。
〝ああ、行ける、多分、殺さずに済むと思うけど、どうかなぁ、俺の手加減次第だな、頸髄損傷は最低限負わすことになるけどな、車椅子生活だ、精神が崩壊しなければいいがな〟
丈は興奮気味ながらも冷静さを保とうとしていた。
〝生かしておくべきよ、地獄の生活を味合わせばいいわ、あの二人には〟
歌音の声色は鋭かった。
〝おい、おい、歌音、落ち着いてな〟
一文字は歌音を
いよいよ、あの二人の残酷な計画が実行される日が来た。ストーキングしてる男を確認したこと翔子に告げ、止めてもらう様に話し合いをするとしかいわなかった。
〝そろそね、すっぽん仙人の動きを見逃さないで〟
レイは司令塔だ。
何も知らない翔子は、安心した趣きでいつも通り電車から降り改札から出てきた。透かさずすっぽん仙人がスマホを片手で操作した。
〝じゃあ、仕事してくる〟
丈は呟いた。
駅から三分程歩くと住宅街に入る。ここまで来ると街灯の無い路地が幾つもある。丈はすっぽん仙人を尾行し、暗い路地に引き込むタイミングを図っていた。
〝後、五分でケリをつけて〟
レイの指示が入った。
丈は足音を立てず、すっぽん仙人の背後に向かって走り出した。全く気づかれず背後を取り、同時に右側の路地へ左側から胴タックルをかけ、口を押さえながら、暗がりへ突き押した。左手で下顎を持ち上げ、右手の拳を軸椎(第二頚椎)に当てた。下顎を持ってた左手を後頭部に移し、右手は軸椎の横突起を止め、左手で勢いよく前斜上に後頭骨を弾き、環軸関節を脱臼させた。すっぽん仙人の四肢は瞬時に麻痺し、動けなくなり、うつ伏せにした。声が出ないのを確認して、ガラガラヘビが居る公園に走り出した。レイの指示がでて、三分も経たないうちに丈は、すっぽん仙人を仕留めた。
公園に着くと、ガラガラヘビは雑木林の直ぐ外側の暗がりに隠れてた。予想通りの場所だ。
「お兄さん」
丈は声をかけ、ガラガラヘビが顔を向けると、右手の拳で、下顎の左側にフックを入れた。ガラガラヘビの下顎は右側にズレ、左右の顎関節が脱臼し、脳震盪を起こし気絶した。脚を引っ張り雑木林へ引き込んで横向きに寝かせた。右足の甲をガラガラヘビの口に当て、両手で後頭部を前下方に弾き、環軸関節を脱臼させた。
ガラガラヘビは気絶してるものの、四肢の脱力を確認して、素知らぬ顔で公園を抜け出し、翔子のマンションへ歩きだした。
〝これで良いだろ、最悪は四肢麻痺になるよ、この二人、最低でも両手は不自由になるさ〟
丈は興奮気味、かつ、得意気になっていた。
〝翔子に会ったら、その後、警察と救急に匿名で連絡すれば死なないわ、睦基、頼むわね〟
レイが後処理まで指示をだした。
〝じゃあ、睦基、翔子ちゃんに会ったら、一度駅まで戻るわよ。〟
歌音も指示をした。
〝丈、見事だったよ。流石だ〟
一文字が素直に褒めた。
〝丈、みんなありがとう、身体一つで充分だったね、僕らがチカラを合わせれば何でも出来そうだ、頼もしいよ〟
睦基はみんなに感謝をした。
梅木のマンションに着いて、エントランス前で、梅木に電話をかけた。何処に居るか確認した。すると、マンションからの明かりで姿が見えた。
「こんばんは、翔子ちゃん、お疲れ、ストーカーは結局、居なかったよ、たまたま、翔子ちゃんの後ろを歩いてたら、翔子ちゃんだと気がついて、緊張して挙動不審みたいになったそうだよ、それも、女の子だったみたい、だから、今度は勇気を出して、ちゃんと挨拶したいっていってたよ、もう、安心だ」
睦基が翔子に声をかけると、歌音が瞬時に代わって、嘘をいった。勿論、安心させるために。
「良かったぁ、睦基君ありがとう、女子だったんだ、分かる気がする、私も、なぁんも考えてなくて有名人が目の前に居るって気づいたら驚くもんね、良かった、良かった、睦基君、お茶して行く」
翔子は安心して、睦基を部屋に招こうとした。
「翔子ちゃん、ごめん、滋君から連絡があってさぁ、どうしても分からない問題があるって言うんだ、でも、ストーカーは居なかった事、直接伝えたかったからさ、また、今度ゆっくりしようよ」
睦基はそういって翔子の部屋の上り框を跨がずに出て行った。
先ず、公園に戻った。ガラガラヘビは、丈が倒した状態のままだった。すっぽん仙人を仕留めた路地に近づくと、その近所の家に住む、主婦らしき人が、救急隊員と警察官と話しをしていて、すっぽん仙人は救急車で運ばれるところだった。
それが確認出来、睦基は駅に向かい、公衆電話からガラガラヘビが公園の雑木林で倒れてることを匿名で通報した。
すっぽん仙人とガラガラヘビの二人は、折り畳みナイフを持っていたのと、鞄の中に、LSDとMDMAを所持していた。この事から二人の自宅は家宅捜査を受け、大麻も発見され、小児ポルノ、盗撮と思われる女子更衣室やトイレの個室の動画まで出てきた。
また、翔子をレイプしようとした計画も二人のスマホから明らかになった。駅や翔子のマンションまでの数台の防犯カメラで翔子との接触がないこと、二人のスマホと翔子のスマホで通話記録やメールで連絡を取り合った痕跡がなかったことで、警察は、翔子に事情聴取は不要と判断し、この二人を大麻及び覚醒剤取締法違反で緊急逮捕した。
また、折り畳みナイフを所持していたこと、翔子を強姦する計画を認定し、殺人準備罪を起訴内容にまとめる方針で、捜査は進められた。
したがって、救急車で一般の総合病院に搬送されたが、直ぐに警察病院へ移送された。
それと、男達の自宅のパソコンがハッキングされた事は明らかになったが、何処からハッキングされたかは、判明されなかった。一文字は完璧な仕事をした。
結果的に、すっぽん仙人とガラガラヘビは、下肢の運動麻痺は回復し、歩けるようにはなった。上肢の麻痺は残り、手首に装具が必要で、物を持つのがままならなくなり指先で紙切れを摘む以外は、手先さえ自由に使えなくなった。
続 次回、第什壱話 リベンジ
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