第捌話 親交、深交
〝LINE送りなさい。美味しかった、またねって、軽い文面で〟
レイの指示は抜かりが無い。
〝おいらもっと食べれたよ〟
〝お前は翔子ちゃんを食べたかったんだろ〟
丈は佐助に遠慮がなかった。
〝はいはい、落ち着きなさい、睦基、太らないように気をつけなさいよ〟
〝桃、おデブはやーだ〟
桃も会話に入って来た。
翔子に送ったLINEは、直ぐに既読になり、『うん、またね♡』と、返信がきた。
睦基は生まれて初めて、女性と食事をした。それも、大食いチャレンジでセンセーショナルな体験をした。
また、初めてLINEを送った。
この日は翔子との出会いの余韻を感じながら、心をほんわかにして寮への帰路についた。
その日の深夜、再び脳内会議が始まった。
〝睦基、梅木さんどうだった〟
〝えっ、どうだったって〟
〝俺は良い女だと思ったぞ〟
〝おいらは一目惚れ、食べてる姿がエロくてさ、ビビッときたぜ〟
〝丈と佐助はちょっと静かにしてて〟
歌音が翔子への印象を聞き始めると、直ぐに答えられなかった睦基に代わり、丈と佐助が割り込んできた。
〝梅木さんをどう感じたかってことよ、人として、女性として、第一印象よ〟
レイはその二人を制し、歌音の質問をより具体的にした。
〝睦基、好印象だったとか、何も感じなかったとか、具体例があると分かり易いよ〟
一文字も答え易いように口添えした。
〝あっ、そっか、高校生の時から気にかけくれていたのは嬉しかった、食事の食べ方は凄かったよね、これまでに出会った女の人よりも、何ていったらいいんだろう、話し易いし、可愛いなって思ったかな〟
〝おいらはね、おっぱいが良かった〟
〝コラっ、〟
歌音は、睦基の言葉に集中していたが、佐助が割り込んできて、こめかみの血管を怒張させた。
〝僕も思ったよ、スタイル良かったね〟
珍しく、一文字と睦基の声がシンクロした。間が空いて、みんなが笑った。
〝桃もあのお姉ちゃん好き、優しいんだもん〟
桃まで現れた。
〝へぇ、桃ちゃん、気に入ったの〟
〝じゃあ、梅木さんと付き合いましょう〟
歌音に続きレイがいい出した。
その後、睦基はマメにLINEで会話したり、食事に誘ったりした。勿論、デカ盛りメニューのある飲食店へ。
そんな翔子との食事を続けることで、睦基は太ることはなかった。太腿や二の腕の筋肉の発達は見られたが、皮下脂肪や内臓脂肪等は増えなかった。
翔子は自ずと、睦基にこれまでよりも好意的に接してきた。
「睦基君、こんなお店よく来るの」
ある日、初めて酒の場へ翔子を誘った。
大学の最寄駅から三駅離れた街の繁華街のビルの三階にある、Floor Three と言うBAR に翔子を誘った。ここは、食べ物のメニューは少ないものの、馬刺しがリーズナブルに食べられる店だった。店内はジャスやシャンソンが流れてて、洋風な雰囲気だけど、日本酒や焼酎も置いている。
「実は、家庭教師をしてるんだけど、たまたま、その子のお父さんに教えてもらったんだ」
「へぇ、大人の隠れ家的なお店ね、うん、いい感じ」
翔子は気に入ったようだ。睦基に酒の場へ連れてこられたことも嬉しかったのだ。
睦基は芋焼酎のロックを頼み、翔子は日本酒の冷酒を選んだ。勿論、つまみは馬刺しで、五人前を頼んだ。
「お客様、本当に五人前ですか、結構な量になりますが」
店員は目を見開きながらも、悪戯でもされたように左右の口角を吊り上げた。
「大丈夫です、私、馬刺し、大好きなので」
「あぁ、もしかして、お客様、あの大食い女子大生ですよね、我々の業界では有名ですよ、まさかウチのような店にくるなんて」
「はい、多分、私です、この周辺のご飯屋さんのチャレンジメニューは制覇しちゃったので」
翔子は普段、立ち入らないような店で驚かれ、頬を赤らめていた。
「翔子ちゃん有名人だ、凄えな」
「へへ、色んなとこで喰い散らかしてるからね」
大食いに対して全く否定的ではない睦基へ翔子は、益々、好感度を高めていた。
最初に芋焼酎と日本酒、お通しの蕗と椎茸を煮込んだ小鉢が運ばれてきた。しかしながら、周囲の客と比べて、それは小鉢ではなかった。店員が気を利かせ、通常の三倍くらいの量を皿に盛ってきたのだ。翔子は純粋に笑みを浮かべ、睦基とグラスを合わせて呑み始めた。
「今日はね、睦基君に誘われて丁度良かったの、相談したい事が有って」
翔子は店の雰囲気や店員の接客、睦基の態度に安心感を覚え、心を委ねてきた。
続 次回、第玖話 初交
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