第什伍話 Revolution
「翔子、合格おめでとう。正田君も来てくれてありがとう」
翔子が看護師と助産師の国家試験をいっぺんに合格し、実家で母親と睦基と三人で合格祝いをする事になった。
睦基が翔子の母親に会うのは、これで四回目で、お互い慣れて来た頃だった。翔子の母親は、いつも親切にしてくれた。そして、自分の実家でもあるような気持ちにさせてくれた。
「お母さん、睦基君ありがとう、やっと解放された気分よ」
翔子は国家試験へのプレッシャーが無くなり表情が柔らかくなっていた。
「良かったよ、ほんとに、じゃあ先ずは、乾杯しますか」
睦基は翔子と母親のグラスにビールを笑顔で注いだ。
「正田君、私が注いであげる」
「ぷはぁ、旨い、五臓六腑に染み渡るぅ」
翔子は豪快にビールを一気に呑み干した。
「翔子、これ、合格祝」
睦基は一八金のエンジェルコインのネックレスを贈った。
「えっ、ありがとう、開けていい」
とても嬉しそうな顔でリボンを解き、包装紙を丁寧に開いた。
「可愛いね、ありがとう、白衣の天使、頑張ります」
翔子の母親も喜んでいて、早速、翔子にネックレスをつけてあげた。
「私は手料理だけど、心を込めて沢山作ったからね」
母親が作ってくれた料理は、豚バラ肉を厚めに切った肉じゃがと鶏のモモ肉を一枚豪快に揚げた唐揚げ一〇個、鯛の塩釜焼き、エビたっぷりの茶碗蒸し、だし巻き卵、お赤飯、これらもそれぞれ一〇人前づつ食卓いっぱいに並べていた。まさにお袋の味だった。
「お母さんありがとう、嬉しい」
翔子はお母さんを抱きしめた。
また、翔子は公立の総合病院への就職も決まり、勿論、産婦人科病棟の勤務で、社会人として順調な歩み出しとなった。
そんな中、睦基の身体に異変が訪れた。益田刑事の刺客として、加藤と一緒に仕事をするたびに丈が活躍してくれる。それと、加藤から空手も手解きされて、丈が交代してる時間がだいぶ増えた。
「最近、思うんだけど、丈君と交代した時さぁ、表情だけじゃなくて、腕とか脚の筋肉が盛り上がって太くなる感じがするんだ、大胸筋だって盛り上がるし、身長が5cmくらい高くなる気もするんだ、気のせいかなぁ」
加藤は二人でトレーニングを始めようとすると、そんなことをいいだした。
「じゃあ、丈と代わるよ、おお、ほんとだ、カトちゃんよく気づいたな、俺もシャツとズボンがきつくなる気がしてたんだよ、なんだろうこれ」
睦基から丈に代わると、加藤と丈のいう通りだった。また、睦基に代わると腕や脚、身長が萎むように元に戻るのだった。
実際に、腕と脚、身長、体重を測ってみると、丈に代わると太く、高く、重くなった。ついでにスマホで写真を撮ってもらい比較してみると顔は同じだが、シルエットは同一人物とは思えない変貌ぶりだった。
「みんなはさぁ、六人ともしっかり役割があるだろ、身体の中も六パターンあるんじゃないの、外見が変わるようになったんじゃないの、順番に代わってみなよ」
加藤は真剣だった。
一人一人交代してみると、見た目が変わった。身体測定して、写真を撮ってみると、それぞれの人格に合った身体つきへ変化した。
「大発見だな、凄いよ、凄すぎる、生命の神秘だよ」
加藤は大興奮だった。しかし、以前、睦基たちによくいっていた『バケモノ』という言葉は一切、口にしなかった。
後日、その測定結果と画像を持って、翔子の休日の日に会いに行った。
「睦基君、内も外も六人になっちゃうのかしら」
翔子は数一〇秒、口を紡ぐと再び口を開いた。
「これは、睦基が解離した人たちへの優しさなんじゃないかしら、いつだったかいってたよね、自分のために解離した人格の人たちは、幸せなのか、表に出たくはないのかな。なんて」
「うん、いった、その気持ちは変わってないよ、うぅぅん、少し思うことはね、社会に適応する、しない的なことを考えないといけないよね」
「そうだな、人格交代事態は問題ないけど、僕らはあくまで内の存在だから、二四時間、外で過ごすなんて経験ないからね」
睦基が懸念することに賛同し、一文字は素直に言葉にした。
「私たち、睦基の身体を使って、これまでも適応してきなのよ、協力し合ってやっていけば問題ないわ」
「これまでも適材適所で人格を代えて、生きてきたんだから、身体つきまで代わると、例えば、私とレイが女の身体になると、着るものとかね、性差からくる公の場にあるアイテムとかコンテンツを使いことに不便さを感じるかもしれないけど、大丈夫よ、慣れるわよ」
レイと歌音のの女性人格たちは積極的だった。
「じゃあ、一日でお互い四時間づつ入れ替わってみようか」
睦基は決意した。自分以外の五人がそれぞれの身体でこの世で活動できることを。自分のために解離してくれた人格たちへの申しわけなさが小さくなることも期待した。
「でも、私もそうなっちゃうの、いや、翔子はならないんじゃあないかな、睦基君は実際、命掛けの緊迫した状況で丈君と代わる場面が多いから、神経系と筋系、内分泌系の同時活動が劇的に変化するのでは、その影響が大きいのかも知れないね」
翔子が不安がると、ユキが交代して、理論立てた。
「えっ、ない、なくなった」
数週間後、翔子の自宅で歌音が表にでていた時、パンツの中を覗き込み直ぐに見えるであろうペニスが見えなくなった。
「小さくなってる、小さくなってる、えっ、えっ、なくなった」
歌音は翔子に目を合わせ、パンツに突っ込んだ手の動き止めた。
「あっ、おっぱいも膨らんだ、おっぱい、おっぱい。ノーブラだ、やらしいんだ」
杏が喜んでふざけてキャッキャした。歌音はそれを聞いて、両手を胸に当てた。
「えぇぇっ」
「脱ぅ〜げ、脱ぅ〜げ、こらこら、杏、ふざけないの」
杏からユキに代わった。
「いいのよ、いいのよ、ちょっと恥ずかしいけど、脱ぐわ、ユキさん、構わないかしら、確かめて欲しい、女の身体なのか、自分でも確かめたいの」
歌音は真剣な顔だったが、頬を赤らめていた。
「あ、あ、私はいいよ。翔子はいいよ、不思議、睦基君が女体に、いやいや、歌音さんそのものに、なんだよね」
ユキと翔子は固唾を飲んだ。
歌音はチノパンから脱いだ。スネ毛をはじめ、両脚の体毛は睦基に比べ薄い。そして、肌がしっとりしていて、ヒップライン、太腿から脹ら脛にかけた曲線も女性らしい柔らかさを感じる見た目である。
「歌音さん、綺麗、睦基君じゃない」
翔子は思わず叫び、両手で口を押さえた。
次に、白いボタンダウンシャツのボタンを外していった。Cカップ程か、巨乳では決してない。
シャツを脱ぐと、チラッと脇毛が見えたが、勿論、睦基より薄い。
真っ直ぐ立った姿からは、ふっくら柔らかそうな乳房で、正に日本人に多いと言われる三角状で、胸骨と左右のピンクな乳頭を結ぶ線が、正三角形になった、いわゆる、ゴールデントライアングルと言われる綺麗な左右のバストの位置関係になっている。
その下から降りていくボディーラインはウエストにかけて絞られて行き骨盤に届く位置から膨らんでいく、くびれが強調された美しい曲線を描いてる。
最後にボクサータイプのパンツを脱いだ。アンダーヘアも睦基より薄く、上になった底辺から四、五センチ下に六〇度くらいの角度になった二等辺三角形になっており、Vラインのムダ毛処理は必要ない程のボリュームである。
「女の身体だよ」
翔子は見惚れていた。
傍の壁に掛けられた姿見のカバーを開き、歌音は身体を確認した。納得した表情で、手鏡を取った。両脚を肩幅より少し広く開きその手鏡をあてた。ヴァギァナが覗けた。
「ちゃんと女体になってる」
歌音は目眩に襲われたが、倒れないように踏ん張った。翔子も手鏡の中を確認した。
「ほんとだ」
口が閉まりきらないまま、歌音と目を合わせた。
「翔子ちゃん、みんなと相談するね」
歌音が持つ手鏡は、ゆっくり床に落ちた。
同時に、白目を剥いたり、頭が揺れたり、トランス状態に陥った。
〝睦基、どう思う〟
〝戸惑ってるよバケモノだよ僕らは〟
睦基の声は震えていた。
〝良いんじゃないか、一つの身体も六通りになったわけだね、僕らだけでも、パラダイムシフトしないと、睦基、そもそも、僕らは子宮の中で受精卵になって着床すると、何億年かかかる進化を一〇ヶ月で済ますんだ、睦基という男の人格から女性の人格が解離したわけだよ。そして、僕らは今のところ六人格を保っていて、それぞれ支え合って生きて来た、桃ちゃんが統合された事実はある、でも、五人は統合されないんだ、もしかすると、睦基も含めてみんなが主人格になったんじゃないか、そこで、身体も細胞のアポトーシスや蛋白質合成が超急速化して、変態を遂げれるようになったって、理解したらどうだ、そうだなぁ、有名な物理学者の中には、パラレルワールドがあるっていうだろ、それは、その世界に行けた人しか分からない、科学的に証明された事ではないよな、でも、僕らの身体の変化は、加藤と翔子ちゃんも確認してるんだ〟
一文字は力説した。
〝俺が代わると5cmは身長が伸びるもんな〟
丈は一文字の話を納得したようだ。
〝私はどんな身体かしら、楽しみ〟
レイは身体の変態を受け入れた。
〝俺は身長が低くなりそうな気がする〟
佐助も同様に。
〝睦基、大丈夫、受け入れて行かないとね、現実を〟
歌音が説得するようにいった。
一文字にこの事態を解説、納得された形で六人の話し合いは終わった。
「ふぅ、一応、みんなで受け入れる事になったわ睦基がね、少し沈んだかな」
トランス状態が収まり、歌音が翔子に話しかけた。
「睦基君、私は受け入れるよ、睦基君、愛してるわよ」
「ありがとう翔子ちゃん」
その後、レイに代わり、歌音との違い、特に、スリーサイズを比較した。レイは、歌音よりバストとヒップが少しだけ大きかった。レイのバストはDよりのCカップだった。
「レイちゃんのサイズのブラジャーが良いわよね。翔子の借りて、買い物に行こう、後は、エステで脱毛しなきゃ」
ユキが表に出て、歌音とレイと一緒に買い物に出かけた。
後日、加藤の家へ行き、益田刑事もきてもらい、加藤も共に、この『変態』の事を告げた。益田刑事は喜んだ。加藤は、また、『バケモノ』と一言だった。
「睦基君、活動の幅が広がるわ、女性しか入れないところも問題なし。例えば、トイレ、お風呂、更衣室とか」
「良いなぁ、そんな時は俺も女装しようかな」
益田刑事は否定せず、特別扱いをしない態度を見せた。加藤は悪ふざけするしかなかった。
「何言ってんだよ。歌音やレイになると、外は見えないんだ、二人が見たり、聞いたりする事が分かるから、なんていえばいいかなぁ、言葉で表現できないな、理解できてるんだ」
睦基はあやふやな説明になった。益田刑事は加藤を睨みつけた。
「加藤君、丈君とトレーニングするでしょ、たまに、僕と代わってるの知ってるよね、歌音とレイもイメージの中ではできてると思うんだけど、実際の身体でもやったほうが良いと思うんだ、先ずは、レイと代わっていいかい」
睦基はそういってトイレへ向かった。身体が変わる時間は、一分程はかかった。着替えて少し経つと変態は完了した。
「加藤君、宜しく」
レイとしてトイレからでてくると、凛とした姿を加藤に見せた。
「嘘、こんなに変わるの、睦基の面影はあるかな、でも別人ね」
流石に益田刑事は驚きを隠せなかった。
「絢子さん、指紋も変わるよ、恐らく、声紋も」
レイは自慢げにいった。
「良かったぁ、美人だレイちゃん」
加藤は口元さえニヤけていたが、目は不安でいっぱいだった。
加藤とレイが組手を始めると、レイのチカラは若干劣るが、スピード、タイミング、キレは、丈となんら変わらない。
「凄ぇなぁ、充分強い、強いよ、もし、丈君がやりたくないなんていったら、レイちゃんでもイケるよ」
加藤は驚き、太鼓判を押した。
「歌音と代わるわ」
再び、組手を再開した。
歌音は合気道や古武術の要素が増えた。弱いチカラで、バッタバッタ、加藤を投げ飛ばし、突き飛ばした。
「参った、歌音さん、合気道、躰道の要素がでてくるね、俺が苦手なタイプ」
加藤は頭を掻き、恥ずかしいさを我慢した。
「頼もしい、実に頼もしい」
益田刑事はゆっくりした拍手をした。
「空手だけじゃ足りねぇ、俺、八卦掌勉強します、沖縄行ってきます」
今までにない加藤の真剣な表情だった。
加藤が沖縄に修行に行ってる間、睦基は刺客の仕事を独りでこなした。ありがたい事に、益田刑事は、女性強盗集団や女性詐欺軍団の壊滅を指示した。問題なく熟し、歌音とレイには良い経験になった。
睦基が六回生で、国家試験対策を始めた頃に、加藤は帰ってきた。
睦基たちに触発されてスキルアップは成功した。
益田刑事が睦基たちの『変態』、加藤が自らスキルアップを敢行したことで、これまでよりも、自分自身の理想的な組織を創ると決意した。犯罪者をこれまでより激減させる改革の第一歩と捉え、血を騒がしていた。
続 次回、第什陸話 改心
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