第壱話 ネグレクト
彼が物心ついた時には手遅れだった。
その両親は仕事に追われる振りをしていた。それと、長男だけを溺愛した。
長男を大事にする風習は彼の住む地域では根強かった。
六つも歳上のその長男は、親戚からは勿論、近所の人々からも可愛いがられていた。
「
八百屋のおばちゃんは、よく、そんなことをいっていた。
「蒼一郎君、お兄ちゃんなんだからこの子にも色々教えて上げなさいよ」
魚屋のおじさんは、よく、そういった。
正月は、長男ばかり、お年玉をもらっていた。
大人達はみんな、彼の名前さえ知らない、知らなくても構わないと思ってる人ばかりだった。
更には、長男と二人っきりになると、〝何で俺がお前の世話しないといけないのか。〟、〝お前に何か教えるなんて面倒臭い。〟等といわれ、床に身体を押さえつけられた。
彼が泣いていて母親や父親が傍に近づいても気に留められることはなかった。
「歳下は歳上に逆らったら駄目だぞ」
彼が表情を変えると両親はそんなことしかいわなかった。
彼の名前を読んでくれない。彼自身さえ名前を忘れてしまいそうになる。
彼の名前は
また、空腹で何か腹を満たしたくても、その手段、どんな言葉を遣えばいいか分からない。
睦基は小柄で覇気のない幼児だった。
続 次回、第弐話 実父
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