再会

「それは本当のことなのか?」


 さっきの言葉に動揺してしまったのだろう。少し声がうわずってしまう。


「お前の母親ルーナ・メイスフィールドはここの使用人だった。後は深く語るほどでもない陳腐な話だ」


 僕の脳裏に母さんと暮らしていた時の記憶が蘇る。目が不自由なのに、一生懸命働いて僕を一人で育ててくれていた母さんの姿が鮮明に思い出される。


「母さんが苦労していたのはお前のせいか!」


「そうだ」

「母さんが死んだのもか‼」


「殺したのは奴らだが、まぁ俺の責任もあるだろう」


 母さんは、ブレサイアに殺された……


 彼の言葉が僕に衝撃を与える。


「なぜ、母さんはブレサイアに殺された?」


「アイツらの恨みを買ったからだ」


「母さんは人の恨みを買うような人じゃない!」


「どのような善良な人間だとしても、勝手に憎しみを押し付ける奴はいるものだ。聖書を読んだことはないかね?」


「どうして今まで現れなかった?お前のせいで母さんと僕は辛い生活を送ってたんだ!」


「あぁ、知っている」


「どうして僕と母さんを見捨てた?」


「そうするのが適切だと思ったからだ」


冷たく言い放つブラインドマン──ルーベスに対して怒りが湧きあがる。

僕は席を立ち彼の元に歩み寄る。


「どうした、抱擁でもして欲しいのかね?」


僕はルーベスの顔を仮面の上から全力で殴りつけた。手に鋭い痛みが走る。

きっと皮が向けて出血しているだろう。


 ルーベスも仮面の下から血が流れ、ポタポタと上品なロングジャケットや白いワイシャツの上に垂れシミを作る。


「感動の再会を用意したつもりだったつもりだがね──」


「感動的だったわ。アナタが殴られたところが特に──」


 少し楽しそうにガーデニアがルーベスに声を掛ける。


「せっかくお前にも感動の再会を用意してやったんだ。もっと喜べよ」


「そうね、随分な茶番だわ。まさか彼を招待する──だなんて」


「お互いに淡い思い出を作りあった仲だろう?」


「アンタ等はさっきから何を言ってるんだ!」


 一向に真意を見せない話し方をする彼らにイライラして口調が自然ときつくなる。

「気がつかなかったか?喜べよ。クレアラとの再会なのだから」


「久しぶりね、アイル」


 彼女が口無しの仮面を外す。そこには当時のクレアラの面影を残した顔をあった。

「嘘だろ?」


「嘘じゃないわ。ガーデニアはルーベス達が勝手に呼び始めた名前。この仮面が由来みたいだけど……昔の名前はクレアラ・オルガンよ。貴方の知ってる通りにね」


「生きてたなら、どうして今まで連絡をくれなかった」


「二度と会いたくなかったから。今の私はクレアラの名前を捨てたのだし、今更、貴方と交流を持ってもね……」


「僕はずっとクレアラを探してたんだよ」


「知ってるわ。だからこそ貴方も知ってるでしょ?ブレサイアの手の者に養子に出された子供達がどうなったのか。今までさんざん調べてきたんだもの。ほぼ全ての子供達は血と共に祝福を吸われて灰になった」


「じゃあ、どうしてクレアラは生きているのさ」


「その最中でルーベスに助けられたからよ。血を吸われ祝福を失ったから、この有様だけどね。昨日も見たでしょ?」


 彼女が両腕の袖口と、白い絹の手袋をめくる。その下から白い陶器のような生命感を一切感じさせない義手が露出する。義手と言うよりビスク製の人形のような腕だった。


「両足もよ。見せて欲しいかしら?品はないけど」


「いいよ……クレアラが言うなら本当なんだろ」


「これが会いたくなかった理由よ。こんな姿を人に見せたいと思える?貴方には残念だけど、私にはそうは思えなかったわ」


「それでも僕はクレアラに会いたかったよ」


「そう……」


 無感情にその言葉を残し、クレアラは黙る。


「それがガーデニアの復讐理由だ。それはお前の復讐する理由にはなりえないかな?」


 ルーベスが口にするその理由は確かに、そうかもしれない。そうかもしれないけど……


「僕は……」と言い淀んでしまう。

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