愛と呼んだもの
「ちょっと待って、その話からすると母さんもブレサイアになってたってこと?」
「そうだ、俺がルーナをブレサイアにした」
「話しがおかしくない?母さんは僕のおばあちゃんを助けようとしてたんでしょ?それなのになんでブレサイアになるんだよ」
「それはお前の認識が間違っているからだ。必ずしもブレサイアは人を襲う存在ではない。誰も襲うことのないブレサイアもいるんだよ──安心しろ、キッズ・イン・ザ・ミラーが現れる奴は誰かを犠牲にしたやつだ。後悔することはなにもない」
正直、その一言にホッとしてしまう。もし間違って誰も人を手に掛けてない相手に銃を撃っていたとなれば、永遠に残る後悔をしていただろう。
「でも、どうして母さんをブレサイアにしたんだ」
「ブレサイアは祝福を分け与えることができるからだ。だからルーナは自分の祝福を母親に分け与えた。ルーナは代償として視力を失うことを選んだうえでな」
「だから母さんは目が見えなかったのか……」
「そうだ。ルーナの母親は半年だが延命し、痛み覚えることなく死んでいった。俺には理解できなかったが、それでルーナは満足だったらしい。自分なりに親孝行できたと色を失った瞳から涙を流して喜んでいたよ」
「それがアンタを変えたんだな」
「俺は罪を自覚したよ。その為にルーナの目を失うように仕向けたのだと。相手の目が見えなければ、俺は顔を見られずに済むと思えて安心できるのだから」
「本当の所はどうなんだ……前に愛してなかったといたけど」
「愛かは分からないが、好きだったよ。本当に。ルーナはそれを愛だと呼んでいた」
「それで僕が生れたのか……」
「そこで問題になったのがアデラインだ。俺とルーナの関係に気がついて、アイツはルーナを殺そうとした。だから俺はルーナを逃がすことにした。当時は知らなかったが、もうお前を身ごもった後だった。俺に覚悟さえあれば、共に逃げる道を歩むことができたかもしれん。しかし、結果は俺自身の容貌を誰かに見られることを恐れてルーナを一人にした。アデラインもその結末に満足したから俺を殺さずに生かしておいたんだろう」
「その時にはもう僕は母さんの中にいたのか」
「そうだ。それ以降で会ったのは五年後だよ。俺の方もルーナの居場所をアデラインに発覚することを恐れて、細々としか生きることのできん金を送ることしかできなかった」
「けど見つかった──」
「あぁ、俺がそれを知った時にはルーナが死ぬ間際だった」
「母さんを看取ったのか?」
「あぁ。本当は看取られるのは俺の方だった。俺はアデラインと刺し違えて死の淵にいた。それを放っておけば良かったのに、アイツは自身の祝福を全て差し出して俺を死の淵から生還させた。それと引き換えにアイツは灰へと変わっていった。これが事のてんまつだ」
「母さんは最後に何か言い残してたの?」
「──お前を宜しく頼むと」
「なのに僕を養護施設に送ったんだね」
「俺はアデラインが残していったブレサイア達を狩ることに決めたからな。俺の元では幸せにはなれんと思った。それに、それまで自分の子供となんの関係性も築いてこなかった男が父親面なんてできんよ」
「クレアラはそれに巻き込まれたわけだ……」
「元はと言えば俺たち血族の問題。アイツは俺達の問題に巻き込まれた犠牲者だ」
「それなのにクレアラに戦わせるの?」
「それがアイツの意志だからだ」
「復讐心がなくなれば動けなくなるから?」
「そうだ。それと、ここからはアイツも知らないことだが、お前には教えておく。お前には知る権利があることだ。アイツの四肢を切断したのは俺だ。それを伝えたことはないが、今回の件で気がつくだろう。まさかアイツ自身が、お前の手をぶった切るとは思わなかったよ。本当なら俺がやるべきだった。それなのに昔にアイツの手足を切断したことを思い出して、手が鈍ってしまった」
そんな理由があったのか。放っておいたらクレアラは灰に変化していただろう。それを防ぐ為にルーベスは断腸の思いで、クレアラの四肢を切断した。それが最善策だったのかは分からない。そのまま死んでいた方が苦しまずに済んで楽だったかもしれない。
それでも僕はクレアラが生きてくれていることを嬉しく思う。
はたから見たら救いが無いように思えるかもしれないけど……
「アンタに腕を切られていたら許してなかったけどね」
「そんな事が言えるなら安心できるよ──ガーデニアを助けてやってくれ。俺にはアイツを助けることは出来ん。俺では復讐の炎でお互いの身を焼くことになる。だが、復讐に身を焼かれる前に共に過ごしたお前になら出来るかもしれない。それでも生きていたいと思える世界を見せてやってくれ……」
それでも生きていたいと思える世界か……
そんなものを、復讐心に身をゆだね続ける彼女に見せることができるんだろうか……
「今日は話しすぎた。後は自分で決めろ、どう行動したいのかをな──」
そう言いながらルーベスは立ち上がると、他に言葉を残すことなく、さっさと部屋を出ていった。
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