祝福による召喚
ブラインドマンがコートのポケットから樽のミニチュアのような物を手に取る。
それを手の中で砕くと小さな木片を男の周りにばら撒いた。
砕いた木片に向けて手の平をかざすと、それらが赤く光り輝いた。
砕かれたミニチュアの木片が巨大化して大きな破片に変化したかと思うと、その男を囲いこみながら樽へと再生する。
まるで黒ひげのゲームのような、男が首だけを出して閉じ込められた樽が生み出される。
またブラインドマンの手が赤く光ったかと思うと、その男を閉じ込めた樽がミニチュアサイズへと変化する。
「補充分として役に立ってくれ。血が抜けてシュランケン・ヘッド【干し首】になるまで」
目の前に起こった状況を理解できないまま、他の参列者たちは半狂乱になって出口へと殺到する。自分が、もしあんな目に合うかもしれないと思えば当然の行動だ。
それでも、人を押しのけ、押し倒し、踏みつけながら逃げていく、その人間らしい醜い姿に僕は顔をしかめる。
ブラインドマンは参列者には興味を示していないように、前にいる司祭に目を向けた。
アイツの標的が、僕たちと同じブレサイアだったからだろう。
僕も当初の標的のブレサイア達に目を向ける。
今まで起きた惨劇を目にしても司祭の二人は動じていなかった。落ち着いた様子でバッドデイに目を向けていた。
理由はバッドデイが二人に銃口を向けていたからだ。
狙いを定め、威嚇することに意味がある。
撃った時点で彼らは自分の命が助かるように祈るだろう。
祝福は祈りを通して奇跡を発現する。
だから撃てば牽制する力もなくなると、バッドデイは理解している。だから撃たない。
ガーデニアに首根っこを掴まれ盾にされた司祭のように、目の前に銃弾が飛んできても、祈り、奇跡を起こす。銃弾は青白い炎で弾丸を燃やし尽くされるか、ブラインドマンのように転移するかどちらかの方法で無効化される。
「我々に敵対している仮面の者達がいるとは聞いていたが──」
「神の膝元で血を流すとは、神もお怒りになられているであろう」
司祭達が神を代弁するような言葉を口にする。
僕は、その言葉に血が沸騰するような怒りを覚える。
子供達を犠牲にしておいて、よくそんな言葉が吐ける!
「貴様らが神を語るなよ!」
司祭の一人の首根っこを掴んだままのガーデニアが怒気を含んだ声を放つ。
僕と同じ理由での怒りかは分からないが、その言葉が彼女の心に火を付けたのだろう。
「不意打ちとかふざけるなよ……死んだと思ったじゃねぇか」
司祭とは思えない口調で、ガーデニアに首を絞られるよう掴まれたまま、男は首元を撫でながらしゃべり出す。
ナイフで切り裂かれた首は、いつの間にか血が止まり、傷も塞がっていた。
治療の為に奇跡を行使していたのだろう。
ブレサイアの男の姿がガーデニアの手の内から瞬時に消える。
そして二人の司祭の近くに転移した。
しかし彼は転移を終えた瞬間、驚いたように目を大きく見開く。
ガーデニアの左腕が喉元に食いついたままだったからだ。
それは人形の腕だった。白く陶器のように無機質で──
その証拠にガーデニアの左腕は存在していなかった。肘から先の服の袖が力なく折れ曲がっている。
「私の呪いから簡単に逃げられると思うなよ‼」
ブレサイアの男の首を掴んでいた、切り離された人形の手首が回転を始める。
それに合わせて手の指が更に絞るように、その男の首を締め上げた。
苦悶の表情で息を漏らしながら人形の腕を両手で掴み離そうとする。
しかしガッチリと食いついているのか引きはがすことができない。
「ぶちまけろ‼」
ガーデニアのその言葉を端に、人形の腕が轟音を立てて爆発した。
煙の中から首のない男の体が現れ、ゆっくりと地面に倒れる。体が床にぶつかると塵となって霧散した。
困ったように額に手を当てるブラインドマン。
「ガーデニア──それでは血の利用出来ん」
「優先事項は殺すことだ」
淡々と冷たく言葉を返す。
爆煙が晴れる中、二人の司祭が共に地面に膝を付いて、何かを祈り始める。
彼らの周囲に六つ光の魔法陣が生れる。その光った床が大きくえぐれて盛り上がっていく。人形と四つ足の物体が形成される。
床の石材で出来たゴーレムだった──
犬型が二匹と、人型が四体。
テーザーショットガンは効かないと判断して地面に捨てる。
そして腰に装着したホルスターからハンドガンを二丁に持ち替えた。
「銃でゴーレム達を相手にするのかね?では見せてくれ」
祈りを終えた司祭達は未だに余裕を見せて僕らを挑発する。まだ自分たちが有利だと思っているのだろう。
その余裕しゃくしゃくの表情、すぐに変えてやるもんね!
バッドデイがハンドガンを脇に挟み、コートの中から手榴弾を取り出すと、口に加えてピンを外してゴーレム達に向けて放り投げる。
素早い行動ができない人型ゴーレムと違い、犬型のゴーレムは左右に分かれて走り出す。
手榴弾が人型ゴーレムの足元で爆発する──
それに巻き込まれて体の大部分が吹き飛ぶ人型のゴーレム達。
──しかしバラバラになった体がすぐに再生を始める。
いくら体を粉々にしても元に戻るんだよね──うん、知ってる。
それと──退治方法もね。
僕とバッドデイは爆風を逃れた二匹の犬型のゴーレムに銃を発砲し、細い前足を撃ちぬいて行動を制限する。
犬のゴーレムが前のめりに地面に倒れる。が、すぐに足が再生し始める。
爆風から離れていたせいで、損傷を左腕だけにとどめた人型のゴーレムが、僕に向かって元気に襲い掛かってくる。
見るからに硬くて力強さを感じるその右腕で殴りかかってきた。
顔でも殴られたら致命傷を負うだろう。
でもなくなった左腕側が、がらあきだ。失った腕側に移動してあっさりとかわす。
すれ違いざま、ソイツの膝に連続で銃弾を撃ち込む。
僕の近くに歩いて来たバッドデイも、僕の銃撃に合わせて膝を狙い撃つ。
材質は固いとは言え、何発もの銃弾は防げない。
あっさりと膝を折られ、ゴーレムは前のめりに地面に倒れる。
僕は地面にうつぶせに倒した隙に、首の後ろに浮き出たEMETHの文字のEだけを撃って削り取る。すぐに元の材質の土くれに変化するゴーレム。
知ってるかもだけど、ゴーレムはEMETHの文字を刻まれて誕生すると共に、Eを消してMETHにすると死ぬ!
……らしいよ。
僕はヘブライ語とか興味ないから知らない。知りたかったら詳しい人に聞いてみて。
僕達の雄姿を見て、拍手をしながら長椅子に腰かけるブラインドマン。
「安心して見ていられるな。金を払うだけの価値はある」
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