呪いにも似た祝福
「どちらも残りも4人か」
バーディクトが周囲を見渡しそう呟く。
残りが4人?残っているブレサイアは3人だけなのに何を言ってるんだ?
こちらの方が人数は多い。形勢はこちらに傾いたようなモノだ。
「いやはや、いつ見ても身震いするね。その神までも冒涜しようとするドス黒い執念はどこから来るのかな?」
旧知の仲といった感じで、バーディクトがルーベスに話しかける。
「神からの贈り物だよ」
「では同じ神の贈り物を授かった者同士、仲良くしようではないか」
「金なら払う。命だけは助けてくれ」
最初、僕に銃を向けられた時に怯えを見せていた一人のブレサイアの男が懇願する。
「俺の復讐心を金で買ってくれるのか。いくら出すつもりだ?」
「いくらでも出す。五億はどうだ?」
「まぁまぁだな。だがもっと安いもので構わんよ。お前の命で十分だ」
ルーベスが転移して命乞いをしていたブレサイアの前に現れ剣を胸に突き立てる。
驚き醜く歪んだ表情のまま塵になっていく。
「なにも願いはないのか? 望むなら祝福を与えてやっても構わんが」
バーディクトは形勢不利と見てこちらを懐柔させたいのか、彼も妥協案を出してくる。
「人から奪い取った祝福で幸せになろうとは思わんよ」
「お願い、なんでもするから見逃して!」
もう一人の女のブレサイアも戦意をなくして必死に命乞いをしてくる。
正直こうなると僕は銃を撃つのが難しい。いくら人間を無差別に殺してきた連中とは言え、引き金を引く意思が鈍る。でもルーベスにとっては意味を持たないだろう。
でも──クレアラはどうなんだ?
僕は彼女の動向に目を向ける。出来ることなら、僕と同じであって欲しい。
仮面を被っているから表情を伺うことはできない。
でも彼女は自分からは手を出さずに、ルーベスの言葉を待っている。
内心がどうであれ、行動しないでくれるのに安堵を覚える。
「命の為に何でもするというのであれば、私がその願いを叶えてやろう」
バーディクトが命乞いをしていた女の背後に転移したかと思うと、彼女の背後で祈り始めた。ルーベスがすぐに転移してバーディクトの背後を取り、剣を振るう。
しかし剣は当たることなくバーディクトのいた場所を虚しく空を切る。
奴は祈ったままの態勢で命乞いをする女の前に現れた。
僕は銃を、隣にいたレニエはナイフを取り出し、ためらうことなくバーディクトに向けて攻撃を放つ。しかし弾丸もナイフも、彼の身体の目前で青白い炎に包まれ燃え尽きる。
クレアラも赤の三日月で彼を襲うが、今度は別の場所に転移して赤の三日月をかわす。
「彼の者に祝福があらんことを──」
バーディクトがそう呟く。命乞いをしていた女の足元に魔法陣のような文様が浮かび上がる。女の周りに白い光が立ち昇っていく。
同時に二つの事を祈り、別々の奇跡を使っているのか。それは卑怯だろ‼
ルーベスは嫌な予感を感じ取ったのか、狙いをバーディクトから狙いを変えて、命乞いをしていた女の胸に剣を突き刺した。しかし塵に変わるはずが塵へと変化しない。
その周りに浮かぶ光が少しずつ輪郭を持ち始め、人の形へと変化していくと、その女の体にまとわりついた。
ルーベスが胸に刺さしていた剣を抜き、今度はその女の首を刎ねる。ゴロゴロと首が落ちて地面を転がるが、やっぱり塵に変化しない。十数にも及ぶ白い光が徐々にくすみ、紫色の肉の削げた亡者たちに変化すると、首をはねられた女の身体を貪るように、一斉に群がった。
ルーベスはさすがに身の危険を感じたのか、その場から後ろへ退避する。
祈りを終えたバーディクトが立ち上がる。
「B・O・Hを見たことはあるかね。あれはブレサイアが祝福を失って飢餓が起きるのだが、先ほど祝福を奪われた人間達ごと飢餓者にした。大人に近い個体は祝福量が少ない上に飢えやすくてね。すぐに祝福を奪った者へと襲い掛かる。それがコレだ。祝福を喰らいはするが、どれだけ喰らっても二度と人には戻れない、悲しい存在だ。憐れんでやってくれ」
亡者とも呼ぶべき存在に変化した犠牲者たちが、その女の体に喰らいつく。少しずつその体どうしが融合しあい肥大する。そして徐々に醜い巨大な物体へと変化していく。体と呼ぶにはおぞましい腐食したかのように紫色になった体。何十本もの手足に、体に浮かび上がる十数人もの肉の削げ落ちた人の顔。
「奇跡に吐き気を催すのはいつものことだけど、これは格別ね」
クレアラの言葉通り、これが祝福されて生まれた生物だとしたら祝福とは一体何なのだろう。その存在を根本から疑ってしまう。こんなものは呪いと言われたほうがしっくりくじゃないか。
「では君らにも祝福があらんことを」
バーディクトが祈る姿を見せて、その場から転移し姿を消した。
「少し、任せる」
ルーベスもバーディクトの後を追って、その場から姿を消した。
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