呪義手とET2ool
丸一日が経ったくらいだろう。ベッドで寝ていた僕の所にワシューが義手を手にしてやって来た。僕がベッドから起きようとすると「そのままで構わんよ」とワシューが制す。どうやら僕用に調整した呪義手が完成したらしい。しかしクレアラの呪義手を元に作成すると言っていただけあって、腕周りが全体的に細いし、指も細くて長い。一見しただけで女性の手といったことが分かる。腕の接合部周りだけを広く補強してあるような感じだ。
クレアラの時にもどうやって装着しているかは不思議だったが、自分の腕で試して初めてそれが分かる。その接合部をなくなった前腕にくっつけるとピタリと吸いつくようにくっついた。そこから義手に着いたベルトできつく縛り簡単に取れないようにする。
「腕のサイズはガーデニアのモノだが、坊主専用の代物だ。寝ている間に血を貰って、義手に注入した」
不思議としか言いようがないが、これも呪いの一種なのだろう。確かに僕の腕に馴染むように右腕に感覚が戻った気がする。僕は義手の手を握ったり、開いたりしようとする。
動くことは動く──しかしその動きはぎこちなく、僕の感覚と完全にリンクしない。
「動きがおかしいんだけど?クレアラの腕を代用したのは失敗なんじゃない?」
「初めはそんなもんさ。いきなり思い通りに動かせる代物でもない。なんせ本物の腕じゃないんだからな」
そう言われればそうなんだけど……
でも、現状クレアラのように器用に動かせる気が全くしない。
僕は腕一本で苦労しているのに、クレアラは四肢の全部を義手、義足で代用しているのだ。それに慣れるまでに相当な苦労をしたんだろう。今まで僕が知らなかった彼女の苦労が垣間見えた気がした。
「必要なのはリハビリだよ。手術をした後、体が元に戻るまでと同じ要領だ。それと憎しみだな。いくら馴染んでも、そいつがなければ動かん」
「憎しみね……僕にもあるつもりなんだけどな」
「坊主も優しすぎるんじゃないかね。人を憎むのが得意な連中はごまんといるが、本来ソイツが似合うのはそう言う奴らだ」
「なんとか憎しみがつのるように頑張るよ」
「それが向かん証拠だな。まぁ、憎しみに身を焼き尽くされない心配がないのは良いことだ」
「それで戦えなくて死んだら困るんだけどね……」
「これも渡しておこう。ET2oolだ」
そう言いながらワシューは三つのミニチュアのET2oolを服の懐から取り出し、僕が上半身を起こした布団の上に転がした。どれも一目見て精巧に作られたモノだと分かる。
一つ目は首元、手すり、足元に針金がいびつに巻かれた金属性の椅子。
二つ目は上部に鎖が繋がり、内部に棘の付いた金属性のカゴ。
最後の三つ目は寸胴体系の酷く不格好な丸い見た目の人形だった。
「眠りの国の椅子、カゴの鳥の王女、暴虐と貞淑の乙女とビュレットは呼んでいた」
「ワシューが作った物じゃないんだね」
「ワシもまだまだ見習いだからな。好かんかもしれんがビュレットの残した物を持ってきた。気が向くなら利用しろ。アイツが作った物は信用出来る。本人と違ってな」
「ありがたく使わせてもらうよ。誰が作ったかなんて関係ないよ。道具は道具。誰がどう使うか次第でしょ」
「ワシは呪われた人形師ではあるが、それでも使う者に祝福があることを祈っておるよ」
「これ、爆弾は付いてる?」
僕はぎこちなく動く右手を回しながら眺めてワシューに尋ねる。
「付けとらん。せっかく作った物をそう簡単に破壊されたらたまらんからな」
「その方が助かるよ。もし爆弾がついていたらと思うと、ヒヤヒヤしてしょうがない」
「坊主のサイズに合わせた腕も制作中だ。いずれは必要になるからな」
ワシューは僕が横になっているベッドから離れると、部屋を出ていく。
僕は彼に「ありがとう」と告げ、その後ろ姿を見送った。
布団の上に置かれた三つのミニチュアのET2oolをそれぞれ手に取り、目を凝らして眺める。クレアラの髪飾りは巨大化して三日月部分が刃となって武器となった。これが巨大化して一体、何になるんだ?いぶかし気に思う。見た限りは椅子とカゴと人形だ。
これでどうしろと?
失敗作だから残していったんじゃないだろうな……
僕はこのミニチュアのET2oolの使い方について暫く頭をひねることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます