ガーゴイル戦
「通常個体より祝福量が多いから、呪い殺すのにも時間が掛かるわね。相手を任せても良いかしら。慣れてるでしょ? 文字を削るだけだもの」
正直良くないから、僕も皮肉めいてガーデニアに言葉を返す。
「君がやったら?」
「これを見て形状が適してると思うのかしら?」
巨大な血に濡れ赤く染まった銀の三日月型のペンデュラムを手に、ブラブラと下げるように小さくし、軽く振って血を払い落とす。
「そりゃ思わないけどね」
「デートの誘いはアイツを倒してからにしてくれ」
バッドデイが横から口を挟む。
誰もデートに誘ってないだろ。どうしたらそう聞こえるんだ。
大きな地響きを立てながら歩くガーゴイルが、僕たちの目の前に立ち塞がる。
残った巨大な右腕を振り上げたかと思うと、その腕を僕たちに向かって振り下ろす。
僕たちはそれぞれに散開しその攻撃をかわす。
強大な質量と腕力に押しつぶされ、床が砕け、破片が飛ぶ。
僕とバッドデイは目で合図をする。ふたり、ガーゴイルの左の膝を狙い銃を連射する。
ゴーレム退治の基本のように、態勢を崩してから首の後ろを取りたいところだったけど、表面を少し削っただけで態勢を崩すことができない。
ガーデニアは後方に下がって僕達の様子を眺めているだけだった。あの三日月型のペンデュラムで攻撃してくれれば、そのチャンスが生まれるかもしれないのに傍観者を決め込んでいるかような姿に腹が立ってくる。
「なんで攻撃しないんだよ‼」
「無駄が嫌いなのよ、私──」
そう言いながらも、再びガーゴイルに近寄ると大ぶりの攻撃を誘発させて、器用に避ける。
一応、隙は作ってくれるらしい。
僕とバッドデイが背中側に回り込むと、首元に光るEMETHのEの文字だけを狙い定めて発砲する。何発か命中するが個体の大きさに比例して文字も大きくなっているせいで、全体を削り取れない。
しかもすぐにガーゴイルが動きだし、他の文字に命中して振り出しに戻ってしまう。
「俺が仕留める!」
そう言いながら、バッドデイが再びガーゴイルの背中に回りこみ銃を連射する。
再びEの文字を削り取る。しかし後少しというところで、弾薬が尽きた。
「ついてないぜ……」
弾倉を補充しようとするバッドデイを振り返ったガーゴイルの腕が襲う。
それをすんでのところで転がって回避する。
バッドデイに狙いが向かっている間に、僕は急いで弾倉を交換する。
「飛ぶわよ!」
後ろから僕に駆け寄ってきたガーデニアが僕の身体を右手で無理やり掴む。
ガーデニアは僕を抱えながらガーゴイルに向かって跳躍した。
「後は任せたわよ」
「分かってるよ!」
ガーゴイルの頭上辺りに差し掛かったところで、僕をガーゴイルの頭に向けて落とす。
僕はガーゴイルの首に手を回し、振り落とされないように必死で掴む。
そして首元のEの文字に銃口合わせて弾が尽きるまで銃を連射する。
ガーゴイルの動きが不意に止まったかと思うと、その体が徐々に崩壊していく。
僕はその崩壊していくその体に足が取られてうまくその場から動けない。
大量の土くれの中に埋もれそうになる。
しかし完全に土くれに飲まれる前にガーデニアが僕の体を脇に抱きかかえて、地面に着地する。
「本来、男性が女性を抱えるものじゃなかったかしら、古い価値観だけど」
「古いね、これが今の時代だ」
助けられたことに素直に感謝を言えず、僕はガーデニアに強がりを言う。
その言葉に特に怒る様子も見せず、僕を地面に降ろす。
「それで逃げたのは仕留めたのかしら?」
誰もいない空間に向けてガーデニアが言葉を投げかける。
彼女の視線の先に、フッとブラインドマンが姿を現した。
「生け捕ったよ、勿論ね」
彼は人形が入った樽のようなミニチュアを手の平の上で転がしている。
「とっくに終わっていたのに見ていたんでしょ?悪趣味ね──」
「そう言うなよ、ガーデニア。親切心だよ。素晴らしい共闘だったじゃないか」
「知ったように言わないで……」
ガーデニアは彼に向かって冷たく言い捨てる。
「では協力を感謝するよ。勿論、依頼料は全額振り込んでおこう。私達の手を借りたとしてもね」
ブラインドマンがガーデニアに歩み寄る。
そしてマントをなびかせて二人とも虚空へと消失した。
──取り敢えず一見無事に落着したみたいだ。
もしあの二人の協力が無ければ命はあっただろうか? 黒服を相手にする時点でどうするか迷ってたくらいだから、二人きりで戦うことになってたらと思うと寒気がする。
僕は後に残された、目隠しをされた子供達に歩み寄る。
「もう何も怖くないからね」と、怯える子供達に優しく声を掛ける。
「面倒に巻き込まれる前に行くぞ、アイル」
バッドデイが誰かが落としていった仮面を拾うと顔に装着し、さっさと教会の外に駆けていく。僕もテーザーショットガンを回収すると、そばに落ちていた仮面を拾う。それを付けて素顔を隠し、教会の外へ出る。
銃撃に手榴弾の爆発音が轟いたんだ。『何があったのか?』と様子を見に来た野次馬達が外に集まり始めていた。すぐに警察も駆けつけて来るに違いない。
僕たちは姿を隠すように教会の裏手に回ると、姿をくらませた。
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