第6話 父
喉仏が目立つようになり、背丈が伸び、鍛錬で体型が変わり、女性を装うことは難しくなっていった。学園は病気を理由に休むことになった。病弱だと周囲に知らしめ、このまま学園を休学するというのが父の筋書きだった。
現実には、私は頑強になっていった。人の良いあの子は、父の筋書きに欠かせない駒になっていた。病弱な私を見舞う、たった一人の親友として、足繁く屋敷に来てくれた。
父や、父の友人達の話を真摯に聞くあの子を、父は気に入った。あの子の両親に、水害対策の費用を無利子で融資したほどだ。あの子に気を遣わせてしまうからと、父はそれを秘密にした。あの子の両親は、余裕などないだろうに、堅実に融資を返済してきた。その態度に、父は、あの子の両親のことも気に入ったようだった。
いい子を見つけてきたと、父に褒められた時、私は初めて自分が何をしていたのか気付いた。私はただ、あの子の声を聞きたかった。あの子の顔を見たかった。
あの子は、高位貴族に嫁がずに済んでよかったと、笑っていたはずだ。慌てた私に、父は言った。
「では、世話になった御令嬢だから、お礼にふさわしいお相手を探してあげよう。私が後ろ盾になり、持参金を持たせてやれば、良い嫁ぎ先も見つかるだろう」
笑顔を消した父の目に射抜かれ、私は何も言えなかった。
父は、着々と、計画を進めた。隣国、私にとって故国であるはずの国の貴族達とも、言葉を交わすようになった。彼らは、私に未来の王座を約束し、忠誠を誓った。私が産まれる前に殺された実の父は、隣国の王太子だった。だが、この国に生まれ育った私にとって、隣国は故国ではない。私に良く似た肖像画の男性が、父親だと言われても、実感などない。
隣国は、私に女性として生きるように強いた国であり、私が生まれる前に実の父を殺した国であり、私を生んでくれた実の母を、悲しみから死に追いやった国だ。
私から沢山のものを奪った国の国王になれと言われても、嬉しくなどなかった。
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