第8話 故郷
叔父を断頭台に送った。広場を埋め尽した民の熱狂は、凄まじかった。
私が進むのは、茨の道だと言ったあの子の言葉を思い出した。祖父を殺し、父を殺し、王権を簒奪した叔父から、私は王権を取り戻した。私が、叔父を殺し、王権を簒奪したのも事実だ。
叔父にとっての不幸、私に取っての幸いは、叔父には子供がいなかったことだ。
叔父は、子を産まぬ妃を、病気や事故を偽装して殺めては、次の妃を娶っていた。四人目が亡くなり、一年以内に、五人目との結婚が予定されていたらしい。五人目の王妃となる予定だった令嬢本人と両親達に、涙ながらに感謝され、いかに異様な治世だったのか、実感した。
子が生まれないのは、私の実の父の呪いだと、叔父は神経質になっていたらしい。叔父は、実の父によく似ていると言われる私の顔を見て、哀れなくらい怯えていた。
「家族を殺してまで国王になって、何をなさりたかったのか、私には見当もつきません」
あの子の言葉を思い出した。あの子の声を忘れていないことに安堵した。あの子の声を聞きたくて、あの子の消息を知りたくなくて、私は内政に没頭した。
周囲は次々と結婚していった。羨ましかった。あの子に、婚約指輪を渡せなかった過去の自分が、恨めしかった。あの子の消息を知るために、兄と呼んでいた実の伯父に手紙で尋ねようとした。だが、どうしてもあの子の消息を尋ねる一文が書けなかった。
「では、世話になった御令嬢だから、お礼にふさわしいお相手を探してあげよう。私が後ろ盾になり、持参金を持たせてやれば、良い嫁ぎ先も見つかるだろう」
父と呼んでいた実の祖父の鋭い眼光を思い出すと、手が動かなくなった。
父は、あの子を気に入っていた。私の記憶にない、実の母に何処か似ていたらしい。母と呼んでいた実の祖母が言っていたのだから、きっとそうなのだろう。
あの父だ。言葉通りにしているかもしれない。ならば、あの子にはあの子の家庭があるはずだ。あの微笑みを、私ではない誰かが、見つめているかと思うと、胸の内が焼けるようだった。
優しいあの子の幸せを願っている。願ってやらねばならないこともわかっている。誰かに嫁いで、子供もいたらと考えただけで、恐ろしかった。祝福してやらねばならないが、そんなことは出来そうもなかった。
立ちすくんでいた私のところに、転機のほうからやってきた。
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