第3話 加護を持つだけではない令嬢
あの子は、優しく穏やかな声から想像したよりも、随分と面白い子だった。
「身の丈に合った加護ですから、私は道を踏み外さずに済みました。加護を授かった当初、随分と沢山、婚約のお申し込みをいただいたそうですわ。目が良いというだけの加護とわかったとたん、お申し込みを無かったことにして欲しいとのお申し出に変わったそうです。両親は、嘆いておりましたけど、私は安堵しました。だって、私に、高位貴族の御夫人など務まりませんもの」
耳に飛び込んできた声に、笑わずにいるのに苦労した。
材料費と少々の手間賃で、様々な刺繍を請け負っていることもわかった。たしかに高位貴族の考えることではない。刺繍は貴族令嬢の嗜みだ。家族への贈り物だろうと思っていたが、そればかりではないことに気付いたとき、驚いた。
「ここは御自身でなさってくださいな。私がお手伝いしただけと言うには、御自身でなさった箇所が必要ですもの」
その時、あの子が請け負っていたのは、刺繍の授業の課題だった。教師にばれた時の言い訳まで用意しておく強かさに、舌を巻いた。
私の周囲にいる高位貴族の令嬢達にそれとなく教えたら、皆、あの子の顧客になったらしい。決して全部を自分で仕上げるのでなく、それぞれの腕前に合わせて、必ずどこかは自力で刺繍をさせていた。教師への言い訳のためかと思っていたが、教えられた令嬢達は皆、刺繍が上達した。目が良いという加護を持つが、それ以上に、人を見る目がある、教え上手な子だった。
刺繍を教わったという令嬢達から、あの子の話を聞くのが楽しみになった。木陰で友人達と刺繍をする、あの子の声に耳を澄ませるようになった。顔を見てみたいと思ったけれど、私の加護は聴力限定だ。目を凝らしても、髪色くらいしか、わからなかった。
転機は向こうからやってきた。
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