第10話 晩餐会

 押しかけた私を、久し振りにお会いした国王陛下は、仕方ないと許して下さった。晩餐会のあと、あの子と私が話し合うために、別室を用意すると約束して下さった。


「話だけだよ」

いたずらっぽい笑顔の意味に気付いた私は、赤面してしまった。

「まぁ、その分なら大丈夫だろうね」

父の教え子の一人であった国王陛下は、微笑まれた。


「私が、必ず、付き添います」

戦友の声には、並々ならぬ決意が満ちていた。

「私を信用してくれないのか」

私の口から漏れた情けない言葉に、戦友はため息を吐いた。


「陛下が、肝心なことをおっしゃらずに、逃げないように、見張らせていただきます」

「なるほど、そのほうがよいだろうな」

父の教え子は重々しく頷いた。私が反論する余地は一切なかった。


 晩餐会の会場は広い。お膳立てをしてやると、手紙で書いて寄越した兄は、言葉以上のことをしてくれた。兄にエスコートされ、着飾ったあの子は、美しかった。真っ先に私に気づいて、信じられないというように目を見開いたあの子が、安堵の溜息を洩らしたことが幸せだった。


 国王陛下の挨拶も、使節団の団長としての戦友の挨拶も、私の耳には一切聞こえてこなかった。驚いたあの子の息遣いに私は耳をそばだてた。

「帰ろう」

懐かしい声が呟いた一言に、私は慌てた。


 楽団の演奏を合図に、私は、あの子のところへと向かった。

「お手をどうぞ、可愛いお嬢さん」

本当は、再会を喜んで何か、気の利いたことを言いたかった。だが、口は、道化のような言葉を紡いだだけだった。


「遠路遥々やってきた私に、どうかお慈悲を」

必死なことを悟られないよう、おどけた口調で誤魔化した。


「はい」

小さな声で頷いてくれたのが嬉しくて、私はあの子の手を取った。懐かしいぬくもりと、柔らかさと、変わっていない香水の香りが嬉しくて、その喜びが私の背を押してくれた。


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