第13話 お手をどうぞ

「お手をどうぞ、可愛いお嬢さん」

気障ったらしい声で、行き遅れの私に、可愛らしいなどと笑えない冗談を言ってきた男を、私は睨んでしまった。


 私が見間違うはずがない。すっかり男らしい体格になった親友が、私の目の前にいた。

「遠路遥々やってきた私に、どうかお慈悲を」

道化めいた囁き声と、笑顔を浮かべた顔で、視線だけが不安そうに揺れていた。


 なんと返事をしたのか、覚えていない。気づいたら、かつてのように一緒に踊っていた。あの頃と違うのは、ドレスを着ているのが、私一人ということだ。


「お願いがある」

いつかと同じで違う言葉に、私は懐かしくて微笑んでしまった。あの時は、隣国王家の紋章を刺繍してくれと頼まれた。


 あのときと同じように、真剣な目が、私を覗き込んでいた。

「一緒に来てくれないか」

曖昧な言葉だというのに、私の胸は高鳴った。


 音楽が鳴っているのに、親友は足を止めた。私を真剣な眼差しで見つめ、大きな骨ばった手で、私の手を握っていた。


「あれから随分経った。君に約束もしなかった。出来なかった。君が刺繍してくれたあの紋章をお守りに、私は知らない故国で生き抜いた。君の消息を知りたくて、でも知るのも怖くて。卑怯な私は、目の前のことにかまけて、ずっと君から逃げていた。先日、なけなしの勇気を振り絞って、兄上に手紙で君のことを聞いたら、遅いとか何とか、叱責をいただいた。慌てて使節団に紛れ込んだ」


 親友は、私の前に跪いていた。大きな手には不釣り合いな、小さな指輪を差し出していた。

「どうか、私と結婚してください」

跪き求婚する隣国の男性の姿は目立ったのだろう。親友と私の周囲に人垣ができた。

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