第13話 神の愛

 妻と私の間に子供が生まれた途端、呪いなど無かったと囁く声が、王宮内のあちこちから、私の耳に聞こえてきた。


 私達が結婚したときに、戦友が口にした言葉の意味を、私はようやく知った。

「国王陛下の御結婚に、民は心から安堵することでしょう」

戦友は、私達に子が生まれることで、王家が呪われているという噂が払拭されることを願っていたのだ。


 私が断頭台に送った先王、叔父には子供が生まれなかった。叔父は、自分に子が生まれないのは私の実の父の呪いせいだと信じ、呪いを恐れ、ときに常軌を逸した行動をした。四人もの王妃を殺害したことすら、彼の凶行の一端でしかなかったことが、記録に残されていた。


 叔父の妄想は、叔父一人のものではなかったらしい。私達の子の誕生が、王宮内の雰囲気を変えた。


「お会いしたことがないとはいえ、息子夫婦を呪う父親がいるとは思えないが」

肖像画に描かれた父は、私よりも若い。母と仲良く並び、穏やかに微笑んでおられる。

「えぇ。きっと見守ってくださっていますわ」

私は妻を抱きしめた。

「ちちうえ、ははうえ」

抱きついてきた子供達も抱きしめてやる。


 実の父母と育ての父母が、私の命を繋いでくれたから、妻がいてくれたから、この子達が生まれた。


「八歳のお祈りまで、数年だ」

「えぇ」

私達は八歳のお祈りで、加護を授かった。加護持ちの両親から生まれた子供達に、神からの加護を期待する声は少なくない。


「私達の今日があるのは、神から授かった加護のお陰だ。神には深く感謝をしている。私は、子供達が加護を授からなくても、幸せに生きていけるようにしてやりたい」

「えぇ、本当に」

私は微笑む妻と子供達を抱きしめた。私の抱きしめるこの命達が、私にとっては、神から賜った奇跡だ。


<完>

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私はそこにあるものを、見なかったことにしたはずだった 海堂 岬 @KaidoMisaki

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