第2話 泣いていいのかもわからない
私は侯爵家とお別れした。
手紙とかは書いていいらしい。
「元気でね?体に気をつけて」
とお母様が言って少しばかりお金くれた。
「庶民落ちのお姉様…じゃあしっかり働いてねー」
と軽く弟が言う。ムカつく。
「シャルロッテ…田舎だし失恋の傷を癒やしのんびり余生を過ごしなさい」
余計なお世話だわ。
家族や使用人達と別れルディと馬車に乗る。
「では出発します」
と御者の男とルディが私と馬車に乗り動き出す。ルディの田舎は遠いらしく片道馬車で5日もかかると言う。お尻痛くなるわね。
「お嬢様…この度は大変残念でしたね。後もう少しで卒業でこの国の王妃という立場になれたのに…」
とルディが可哀想な目で見てくる。
「あんた…私を怒らせたいの?」
「あっ、そう言えばもうお嬢様じゃない。シャルロッテ…さん?」
と庶民呼びしてきた。くそおおおお!!
「いや待てよ?うちの使用人になるなら別に呼び捨てにしてもいいよなこれ?えーとシャルロッテ…長いな…もうシャルでいいかな?」
と言うのに睨み
「好きに呼べば!?」
と言うとルディは腕を組み
「あらあら?あのね?俺は雇う側の家の者だしルドルフ様と呼んでいただかないと?」
と急に偉そうにするルディ。チッと舌打ちし
「ルドルフ…様…ギギギ!」
と憎たらしく言うと
「ちょっと!魔力暴走はやめてくださいよ?穏やかに!!」
と言われる。
「ふん!そんな気力もないわよ!!私は失恋して心が痛いの!」
「その割には全然泣かないっすね?」
と言われて私は
「え?いや…そんなの…いきなりあんな場面で驚いて怒りしか湧いてこなかったから急に泣けって言われても困るわ。追いつかないわ」
と言うとルディはクスクス笑いだした。失礼な元執事だわ!!
「まぁ俺もあれ見た時はちょっと時が止まりましたね。あんな人目につくところで王太子様もよくやるというか」
「絶対私が通ること計算してたのよ!婚約破棄を狙ってたんだわ!なんなのよ!そんなにあの子がいいなら普通に婚約破棄してくれた方がよかったのに私を悪者にして!」
と怒るとボロボロと涙が勝手に出てきた。それでも私は怒っている!泣いてるけど怒ってた。
「おじょ…シャル…。でも考えてみたらシャルを悪者にして聖女の評判を高めて聖女を王妃様とするのが王太子様には都合よかったのかもしれませんよ?国民の支持率も上がるでしょうし。シャルはほらただ、魔力が多くていつ暴走するかしれない危険な存在でしたし王家にも反対派は多かったかも…
その分聖女は安心ですし評判もいいし、あんな可憐な子なら歓迎さえされそうな…」
と言うルディ。確かに。
「…もういい。その話しないで!!畜生!エトガー様のクソ野郎めええええ!」
と私はクッションにボフンと横になった。
ルディは
「まぁまぁ、さっさと忘れてうちでキリキリ働くことですね。お嬢様だから今まで家事すらしたことなかったでしょ?うちには怖い家政婦がいるんですよぉ?」
と言う。
「な、なにそれ…家政婦さんそんなに怖いの?」
「ええ!俺達…あ、俺は双子なんですけどね、子供の頃からしばかれてましたね。悪戯とかしたら」
「それは悪戯する方が悪いんじゃない?」
「そうですけど一応俺もフリッツも男爵家の子息なのに容赦ないんですよ。めっちゃ怖いです」
と言う。フリッツと言うのがルディの双子の兄の名らしい。
「家事くらい直ぐに覚えられるわよ!私を誰だと思ってるのよ!あんな厳しい王妃教育を子供の頃から仕込まれて…」
「もう関係ないですからね?」
と言われて雷が落ちるような衝撃。
「そうよね!!無駄な時間だったわ!くくくう!わあああああ!!」
とついに私は大泣きした。
「あーあ、とうとう泣いたか」
とルディはよしよしと頭を撫でた。
くそう!ルディのくせにバカにしてんじゃないわよおおおおお!!
*
それから私は次の日目が真っ赤に腫れてブスになっていた。まだルディの家まで4日もあるのにさ!
ルディは案の定笑い転げていた。なんて嫌なヤツなの?ルディは氷魔法を使いコロンと氷の塊を出して布に包んで渡した。
「目に当てておくといいですよ」
と。私はバッと受け取り目を冷やす。
「何はともあれ…これからは新しい日々が始まるんですからもっと気楽に生きればいいんですよ…。お嬢様だった頃…我慢ばかりしてきたんだから」
とルディなりの慰めの言葉だ。
確かに私はずっと我慢ばかりしてた。あの日の暴走はそんなのを含めて全部一気に弾けたような気がして実は少しスッキリしている。
「魔力のコントロール…つまり感情…特に怒りのコントロールは覚えなきゃならないですけどね」
とルディが言う。
「わかってるわよ…第一あんたの田舎なんて何もないんでしょ?怒りたくても怒らないわよ」
「ルドルフ様でしょ?シャル!…確かに何も無いけど、無さすぎてイライラしそう!当たらないで物を破壊しないでくださいね?領民に殺されますよ?」
と言う。
「…そう…。まぁどっち道私はもう死んだようなものだしどうでもいいわ。もう貴族じゃないんだから」
ルディは少し困ったような顔をしたけど領地の説明やらを始めた。のどかな気候、おじさんおばさんが多く牛や羊の放牧に自家製ジャム作りも楽しめるとか。
そうね…のんびり過ごすのもいいのかもしれないわ。クソ野郎のことなんかさっさと忘れよう…。もう恋とかするのも疲れたわ。一生一人でいい。そんな事さえ思ってしまう。
あ…そうだ!
「ねえ、ルディ!あっ…ルドルフ様!鋏持ってない?」
「…?鞄にありますよ。馬車を止めて取り出すの面倒ですよ?護身用の短剣ならここに」
とルディが懐から短剣を取り出した。
「ちょっと借りるわね!」
「えっ!まさか!死ぬつもり!?」
と勘違いするルディに
「違うわよ!!ばかね!」
と私は髪の毛を纏めざくっと短剣で切り落とした!
流石にルディも驚き
「あ……わわ!!わーーー!!?」
と声が出た!!
「ああ!軽くなったわ!」
と白い髪を纏めて縛る。
短くなった髪と切った束の髪を交互に見ながらルディは
「なんつーことを!!髪だけはサラサラだったのに!俺が毎日丹精込めて梳かした髪があっさりいいい!」
と嘆いていた!!
「暴走で白くなった髪を梳かすのも思い出して嫌なのよ!だから切ったわ!これ魔除けにならないかしら?」
と言う。何せ魔力量の多い私の髪だし魔除けに使えば魔物やアンデット避けにはいいかもしれない。
「畑なんかに吊るしとけば良さそうですね」
とルディが言う。
「なんか使い方おかしいけどいいわ…」
と疲れた顔するとルディが
「後できちんと切り揃えてあげますよ。そんな雑に切って!」
と怒られる。
「私の執事じゃないから別にいいわよ?」
「うちに着いた時そんな髪じゃ皆驚きます!」
と言われ休憩中に切り揃えてもらった。
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