第7話 元執事に揶揄われる

 フリッツが家を勝手に出て行き自動的にクラウスナー家の跡継ぎと決まってからはルディの機嫌は悪くなった。


 と言うのもご両親があちらこちらから見合い話を持ってくるようになったのだ。

 私も大量の姿絵をルディに届けてやるとルディは嫌そうな顔をした。


「捨てといてください」

 とか言われる。


「ちょっと!折角運んできたんだから見るくらいしたら?良い子がいるかもしれないじゃないの!」

 と言うと


「は?良い子ねぇ?そんなに俺と結婚したい?これ一度フリッツにも来たやつですよ?おんなじ顔ですよ?この娘達はチャンスがもう一度やってきたと思ってるんですよ?おんなじ顔だから、どっちでも構わないんですよ!ああ、やだなぁ!フリッツなんかとおんなじ顔で産まれたばかりに!!


 あいつはあいつで放棄して逃げて冒険者なんかになっちゃったし!俺はもう自由が無くなりましたよ!そりゃ今までは自由だったけどそれも終わり!俺がフリッツよりも少し優秀なだけで!」

 と苛々を募らせていた。


「ルドルフ様…観念したら?仕方ないじゃ無い?もうフリッツ様もいないのに。それとも街のギルドに行ってフリッツ様に文句言って連れ戻すの?面倒じゃ無い?フリッツ様は冒険者になりたかったし…それが彼の夢でしょ?


 それともルドルフ様には夢があるの?」

 と言ってやるとルディは


「なっ……!お、俺の夢……って………くっ!シャルは侯爵家の令嬢じゃなくなったからって無駄に言いますよねぇ!人の気も知らずに!


 俺だって本来ならシャルの未来の王妃の執事としてやって行こうとしてましたよ!貴方が王太子のキス見たことぐらいで動揺したからいけないんだ!

 同時に俺の夢…いや出世も消えましたよ!」

 と文句を言われる。


「な、何よっ!そんなの知らないわよ!!あんたの出世とか!!」

 と怒りで魔力が溢れ出しそうになり咄嗟に私は人形の鼻を押して魔力を吸い取り何とか暴走を抑え込んだ。


「…すみません、興奮させて…」

 とちょっとだけ反省するルディ。物を壊されてはいけないものね。


「…別に。ルドルフ様の言う通りよ。私が我慢できずに暴走して王太子様達を危うく危険に晒すなんてミスしたからいけないの。


 でも私無視されてた上に浮気?されて…悔しくて…もっと早くこの人形があれば…もう遅いけど」

 と勝手に涙が出てくる。

 ルディに見られたくなく部屋を出ようとしたら手を掴まれ引き寄せられた。

 ルディの胸に顔を押し付けられた。


「ルドルフ様…離して」

 とグスグス言うと


「はぁ…ルディでいいですよ?二人の時。他の人の前ではルドルフでいいけど。示しがつかないから。でも貴方はルディの方が言い慣れてるんでしょ?意地悪言ってすみませんでした…。


 別に泣かせようとしたわけではないんでね。さっさと泣き止んでいつものクソ生意気なお嬢様に戻ったらどうですか?」

 と言われる。


「もうお嬢様には戻れないわよ…」

 と言うとルディは


「そうでしたねー。全くバカですよねー」

 と言う。


「何よ!バカバカ言わないで!」

 と言うとルディは私をギュッと抱きしめ驚くいて上を向くとスカイブルーの瞳と目が合った。

 なんか恥ずかしくなるとルディがふふっと笑った。


「ぶふふ!!可愛い!お嬢様…男に抱きしめられたことなんかないから赤くなってますね!!あー可哀想だなあ!俺で良ければいつでもハグしてあげますよー?いつでも泣いていいですよー!?」

 と揶揄われた。


 人形を握りしめなんとか怒りを鎮めた。じゃないと今頃ルディなんかバラバラだ。

 なんか癪だわ!いつもこうやって弄られるの!!


「あらルディ!相手がいないからってあんたの方が寂しいんじゃ無いのぉ?フリッツ様は冒険者になったけどきっとギルドでもモテて直ぐに先に恋人を作り結婚しちゃうわね!あんたより先に!!」

 と言ってやるとルディは


「なぁ!?フリッツが俺より先にとか嘘でしょ?この見合いの山を見てくださいよ!俺のが先になりますし!?」

 と言うからすかさず私は


「あーら?ルディはこれ捨てといてってさっき言ったじゃ無い!!ほほほ!あんたの負けよ!負け!」

 と言うとルディがカチンときた。ドンと壁に押し付けられにこにこ顔に怒りマークが見えるようだ。


「別にこんなのなくても俺は夜会とかに出てもモテますけどぉ?それともなんですか?もしかして自分こそ超絶美形の王太子様に振られて俺に八つ当たりですか?そんなんだから振られるんですよ!」

 とルディが痛いところをついた!!グギギギ!!


「じゃあさっさと恋人でも作ってみなさいよ!このヘタレ男が!!」


「そっちこそ!このフラレ女!!顔が綺麗でも嫉妬深くて直ぐ暴走するバカ!!」


「顔がそこそこのくせにいい気になってんじゃないわよ!あんた程度の男なんて腐るほどゴロゴロ転がってるわよ!!」


「そこそこでもモテてますし!!」


「私だってこんな田舎に飛ばされてなきゃ今頃社交界でモテモテよ!!」


「俺だって!」


「私だって!!」

 と言い合う私達。とうとうルディの唾が私の顔に飛び


「ちょっと!汚いわね!」

 と擦ろうとすると手を掴まれてルディの顔が近づき…あれっと思う暇なく強引にキスされた!!


 は?


 は?


 はあああああああああ!?


 と流石に驚いてしまった私は次に心臓がバクバク言い出した。


 ルディは唇を離すとハンカチを取り出し唾を拭き取る。


「五月蝿い口を塞いでやったんですよ。どうせ誰ともキスなんてした事ないんでしょ?ざまあです!こんなもんでいつまでも騒いでるなんてやっぱりバカですよ!!


 ……ほらさっさと仕事に戻りなさい!」

 とぽいっと部屋から追い出された。


 はあああああ!?


「な、何てやつなの!?」

 結局私は揶揄われたのだ。

 くううう!あんな奴が私のファーストキスを奪うなんて!!くくくく悔しいいい!!

 私は人形を握りしめ何とか魔力暴走を抑えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る