第8話 無視
ルディに揶揄われてキスされ私は怒りを抑えつつも無心で働いた。ルディとは口を聞かないことにした。最低限の受け答えは強要されればしてやるがもう嫌だ!!
ムカつくあの元執事!!
ルディが書庫で本を取ってきてとリストに書いた紙を渡すともぎ取り一言も口を聞かず睨みドスドスと音を立てて書庫に向かい本を見つけて届けどさっと机に叩き置く。
「うわっ…めちゃくちゃ怒ってますね…」
当たり前でしょ!!自分のした事覚えてないわけ!?面白がってる顔して!!と私はバンと扉を閉め出て行った。
ザビーネさんが
「おや、坊ちゃんと喧嘩したのかい?」
「向こうが失礼すぎるんですよ!私の事舐めてるんです!王太子に振られたカス女だからって!!グギギギ!」
と人形を握りしめる。
「……坊ちゃんも不憫な事…」
とボソっとザビーネさんが言うが聞こえてない私はだんだんと野菜をぶつ切る。野菜切るのにもだいぶ慣れてきたわ。もう侯爵家の令嬢じゃないし当然だけど。
…確かにここに来てひと月は過ぎたのに未だにぐちぐちと引きずってルディに揶揄われたってしょうがないわね。
「ザビーネさん…花でも植えてみようかしら?何か種とかある?」
と聞いてみたら
「温室に行きゃ花も沢山あるがね…」
「そうじゃなくて自分の部屋で鉢に植えて育てるの。きっと心が和むわ」
と言うとザビーネさんは
「あんたも疲れてんだね。そうだね。温室のジジイに頼んでなんか好きな花の種でも貰ってきなよ」
「温室のジジイ?」
「あたしの旦那だよ!」
と言うから驚いた。まぁザビーネさんも結婚はしてるだろうと思ってたけど旦那さんが温室で働いてるのは知らなかった。
早速空いた時間に温室へ行きザビーネさんの旦那さんのコペルニウスさんに会った。少し白髪混じりの優しそうな中年男性で事情を話すと鉢入れに土と種を植えた物を渡してくれて毎日の水やり方法などを教えてくれた。
私が鉢植えを運んでいると廊下でルディが向こうから歩いてきたのが見えた。
ルディはおやという顔をして
「シャル…それは何?どうしたの?」
と聞かれるが無視した。まだ謝罪もしてない相手なんか知らない!!
ルディは
「何?まだ怒ってるんですか?しつこい…」
とかほざいてたが無視して部屋に戻った。
出窓に鉢植えを置いて椅子に座る。
「少し休憩」
窓の陽光がポカポカして気持ちよく眠気がくる。
するとコンコンとノックがして私は
「どうぞ」
と言ったけどコトリと音がして静かになる。
なんだと思って開けてみたらトレーに紅茶とクッキーが置いてあった!
この銘柄…この紅茶…。
「何よ…私が侯爵家で好んで飲んでたヤツじゃない…」
置いたのは明らかにルディだろう。こんなの持ってるのも私が好きなのも知ってるのもルディだし。
そう言えば疲れた時はいつも淹れてくれたかも。
これリラックス効果があるとかで…王太子様とあの女がイチャイチャしてた時にも見て見ぬふりして飲んでたなあ。
確かに私…学園にいた時は苛ついてばかり。王太子様もそりゃ可愛い子の方が好きだろうな。いや、男は皆そうなのかもしれない。
大人しくて可愛い…ルトリシアのような聖女が理想なのかも。
私は魔力暴走で綺麗な黒髪を失い真っ白になり髪も切り猿と言われる始末。胸もないし魅力など無い。侯爵家を追い出され元執事のメイドに成り下がる。今まで自由な暮らしをしてきたツケかしら。
*
それから数日後仕立て屋が男爵家を訪れたりして応接間に案内する。どうやらルディや男爵が伯爵家の夜会に呼ばれたようだ。ルディはめんどくさそうな顔をしていた。
私と目が合うと何か言いたそうにしていたが私はサッと目を逸らした。
「ねぇ、シャルロッテさん!このドレスどうかしら?」
急に奥様のジュディス様が話しかけてきた。
紺色のナイトドレスだ。ダニーロ男爵も紺色髪だし旦那様の色に合わせたのだろう。
「お似合いだと思いますよ」
とメイドの私は素直に言うとジュディス奥様はにこりとして
「ありがとう…シャルロッテさん!そうだ!貴方も夜会に着いてきてね?使用人の同行も許されるはずよ」
と言われる。
「で…でも私…」
ともそもそ言うとルディが
「お母様…シャルは行きたくないのではないですか?王太子の婚約者を破棄された者として笑い者になるだけかと」
と言う。くっ!何よ!その通りだけど!
夜会に学園の人たちがいたら私はいい見せ物だわ。
『シャルロッテ様だわ!どの面下げて夜会に?』
『王太子様と婚約破棄されてお可哀想に』
『今は庶民落ちした娘よ?何あの髪の毛猿だわ!』
『餌でも与えてみようかしら?』
等と言われるのがオチだわ…。
「…そうね…ルディの言う通りかもしれないわ。気が効かなくてごめんなさいね…」
「いえ、いいのです。奥様達は楽しんでらしてください!」
と言い、数日後ルディや奥様と旦那様は夜会に出掛けていく事になった。
朝…ルディは私に話しかけた。
「行ってきますねシャル」
「…………」
「全く、いつまで黙ってるつもりですか?ああ、わかりましたよ!俺が悪かったです!ごめんなさい!!ぶっ叩いていいですから口ぐらい聞いてくださいよ!」
ととうとう折れて謝罪してきた。
「…………」
私は手を伸ばしルディの曲がったタイを直してやった。ルディがあれ?と言う顔をした。
「行ってらっしゃいませ。ルドルフ様」
そう言うとルディは
「はい……」
と言い少し複雑な顔をして夜会へと出掛けて行った。
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