第9話 盗賊侵入

 ルディ達が夜会へと出かけた後はザビーネさんやコペルニウスさんと中年男性料理長のボルクさんと私だけになる。ボルクさんは色白で細くてひ弱だけど料理を作るのが好きでここに雇ってもらえたらしい。実際ボルクさんの料理は美味しい。


 とは言え主人達が留守なので伸び伸びとダイニングで料理を食べる。


 ボルクさんは酒を出してきたが私はやめておいた。ザビーネさんとコペルニウスさん夫婦とボルクさんは酒を飲み盛り上がりそのうちに皆寝てしまったから私は皆に毛布をかけてやって、自分も部屋に戻り寝ようとした時だった。


 なんか…2階で音がした。

 気のせいかな?って思ったけど、皆ここにいるし2階は主人達の部屋だ。出かけてるのにおかしい。


「もしかして魔物か何か?」

 とちょっと怖くなるが私はとりあえず箒を持ち2階へと足を進める。


 ガタガタと主人達の部屋から音がした。やはり聞き間違いじゃない!何かいる!

 ジュディス夫人の部屋からだ。私は鍵穴から中を除いてみた。すると黒い覆面の男が二人…夫人のアクセサリーやらを袋に詰めていた!!


 盗賊だ!!どうしよう!!皆を起こす?いや、そんな暇ない!でものこのこ出てっても捕まるだけ!?どうしよう!!どうしよう!!


 今は夜中だし村から少し離れた場所にある男爵家では人を呼んでくるのも一苦労。


 何とかしなきゃ!!

 そして私はハッとする。人形を取り出した。

 この人形には私の魔力がたんまり溜まってる。

 なんとかこれで撃退できないかしら?


 男達はジュディス夫人のドレッサーに手をかけ中からドレスを数枚袋に雑に入れ始める。

 このままでは何もかも盗まれる!

 私は意を決して動いた。


「そこまでよ!!」

 ばあんと扉を開けると男達が一瞬ピクリと止まる。


「何だお前は!?……ちっ…使用人か!?主人達がパーティーに出かけて行ったから狙ったのによ」


「兄貴!こいつよく見たら顔だけは綺麗じゃないですか?こう言う娘が意外と高く売れるんですよね!」

 と舌舐めずりをする男達。キモ。


「真っ白な髪は醜いが良い奴隷になるかもしれんな!?…でもその前に…俺達で味見と行くか?」


「おいお前一人だけか!?」

 と男が聞いてくる。私はうなづいた。下に行かれては困る。眠ってる皆を殺すかもしれない。

 男は短剣を取り出しにじり寄ってくる。

 私は人形を前に突き出した。


「動かないで!!」


「ああ!?何だそりゃ??」

 と笑いそうになる男達。


「……これを投げたらあんた達の身体が吹っ飛ぶわよ?いいの?」

 と言うと男達は


「ふん!そんなハッタリで時間稼ぎか?さては下に誰かいやがるな!?おい!見てこい!」

 とこちらにやってくる男達…。私は仕方なく人形を持ち鼻を押して投げる!!


 男が怯みさがり人形は床に落ちて強烈な光を出す。私は廊下に出て扉を閉めた。

 するとボカン言う大きな音と共に


「ぎゃああああ!」

「うがああああ!」

 と言う悲鳴が聞こえ扉から煙が漏れた。

 私はそろりと扉を開けると煙の中男達が倒れているのを確認した。


 周りはえぐれたような後。あーあ、怒られるなこれ。


 転がっていた袋を発見し中を確認しようとした時…なんと足首を掴まれ転がされた!!


「きゃっ!」

 バランスを崩して倒れるとそこに男がのしかかる!どうして動けるの!?男達は気絶していなかった。ふりをしてたんだ!!


「ひひひ!あと少しシールドを貼るのが遅かったら死んでたな?残念だったな!小娘!!」

 とニヤリとする男。もう一人の子分らしき男も近寄りニヤつく。


 すると男は


「醜い白髪の女だが中々綺麗な顔をしてるだけマシだ!これでもう少し胸があると最高なんだが仕方がない!可愛がってやる!」

 と男が手を伸ばし胸を触ろうとした。

 ていうか仕方ない?なんなの?

 ムカついた。こんな奴にやられてたまるか!!

 私はブワんと怒りで魔力が溢れ出した。

 のしかかってる男を吹っ飛ばし男が壁に激突し呻く。


「あ!兄貴ー!」

 白目で気絶し壁にめり込む男。


「よくも!兄貴を!」

 ともう一人の子分がこちらに向かってきた!

 私はまだ怒りは収まらない。これまであった苛つきを思い出しながら怒りを暴走し部屋の中の物は倒れたり飛んだりしている。向かってくる子分が魔法のシールドを使う。

 しかし私はそのシールドに向かい歩き出すとシールドがビキビキとヒビのようなものが入り割れる!


「ひっひいいいい!!」

 と子分は怯えたが私は暴走が止まらず子分もすごい速さで空中に浮いて天井に吹っ飛ばされめり込んで気絶して床に落ちた。


 しかし暴走は止まらず…!ヤバイ!奥様の部屋が!!物が宙に舞い渦巻きめりめりと壁が破壊するような音がする。その時ビダンと顔にあの人形が張り付いて私は何とか人形の鼻を押して魔力を吸い取らせる。


 ようやく暴走が止まりボロボロになった室内にペタンと座り息を整えた。


「はあはあ!…ごほごほっ!

 と咳き込む。

 そこへ下で眠ってたザビーネさんやコペルニウスさん、ボルクさんがやって来て部屋の惨状や侵入者の男達が白目で気絶しているのを見る。


「あんた…やっちまったのかい」

 ザビーネさんが静かに言う。

 ああ…どうしよう。ここでもやらかしてしまった!!怒られるどころか主人達が帰ってきたら追い出されるかもしれない。


 ザビーネさんは私の元に来て


「盗賊を一人でやっちまうなんて凄いね…!」


「怪我はないかね?」


「ととととりあえずこの男達を拘束しましょう?」

 とボルクさんは怯えながらも魔法のロープを取り出しシュルシュルと男達を縛り上げた。


 ザビーネさんは私を抱きしめた。


「無事で良かったよ!」


「でも…奥様の部屋がボロボロに…私また暴走したわ」

 と落ち込むとコペルニウスさんが袋を覗き


「奥様の品物は無事みたいだ。袋の中は無事だ」

 と言う。良かった。それだけでも。


「でもこの部屋は流石に魔法での修復も難しいね…」

 とザビーネさんがため息を吐く。

 部屋の壁はあちこち傷だらけのボロボロだし床は抉られておりベッドも吹っ飛ばされ窓はもう窓枠ごと消えている。微かについていた火を消火した。


「私…この家もクビになるわね…荷物を纏めてきます……」

 と荷造りを始めようとした。しかしザビーネさんは


「待ちな!事情を話せばなんとかなるさ!あたしらも酒飲んで寝ちまってて賊の侵入に気付かなかったのも悪い。あんた一人の責任じゃないよ!」

 と言ってくれ私は胸がジーンとする。

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