第23話 プロポーズ二人分

「ご迷惑をおかけしました」

 家に着くとルディは頭を下げて皆に謝った。笑いを堪えながらアランとフリッツは


「遭難…くく!そうなんですかー!?ぶははは!!春に家出しろよバカ!!」


「くっ!」

 とルディは悔しそうな顔をした。

 男爵は


「まあまあ風呂の準備はできてるしルディも疲れたろう?しばらく仕事は休んでくれ、なっ!」

 と言う。


「坊ちゃん、暖かいスープもありますよ、暖炉の側にほら!」

 と進めた。


「ほらルディ、雪まみれよ」

 と髪にかかった雪を払ってやる。

 すると…なんかぎゅーと抱きしめられた。


 そしてルディはボソボソと喋った。


「ん?何?聞こえないわ」

 と言うと今度は皆に聞こえる大声で


「俺と結婚してください!シャル!!」

 と言った!!


 いきなりで私は硬直した。ルディは寒さから真っ赤なのかプロポーズのせいかわからないくらい赤い。


 皆は


「おおっ!あ、あいつ!!告白すっ飛ばしていきなりプロポーズしやがった!!遭難しかけて頭回ってないぞ!!」

 とフリッツが言い、アランも


「案外フリッツに先越されるのが嫌で咄嗟に出たのかも…」


「まぁ、結婚してくれるのなら私も賛成よ」

 と奥様は喜ぶ。しかしそこで


「まっ!待つのだ!!主人よ!!その男から離れろ!!」

 とグイッとシロロが私とルディを引き離す。


「シロロ…」

 と言うとシロロはキリっとしたいい顔をしてひざまづくと


「主人よ!!我がその男よりも幸せにすると誓う!!どうか!我の伴侶になってくれ!!」

 とまたもやプロポーズされた!!


 皆はもはやボケっとしていた。使役獣が主人に求婚なんて物語の中でしか描かれないロマンチストな展開に驚く。


「うおおお…。使役獣が主人に求婚した!!」


「こんなの滅多に見られないね!!」


「いや、魔物と結婚するの!?でも人間姿は完璧で色男だし…」


「いいねぇ、私も若かったら男がほっとかないのにねぇ…」

 とついでにザビーネさんが言い、夫のコペルニウスさんは苦笑いしていた。


「で?どうすんにょ?どっちと結婚すんの?」

 とウィニーちゃんが言ってくる。

 私は…


「…わ…私は!そんな!いきなり!む、無理よ!結婚なんて!!」

 と言うとルディは


「あー…やっぱり…まだあのエドガー王子のことをー…」

 と言い出したからシロロは


「ん?誰だそいつは?」

 と聞くとルディは


「シャルの元婚約者のこの国の王子様ですよ。まぁ。フラれて婚約破棄されたんですけどね」

 と言う。シロロは


「なんと!そんな見る目のない王子と結婚なんてしなくて良かったではないか!主よ!我なら幸せにしてやろう!」

 とキラキラした目でこっちを見る。

 ルディはシロロを押し退けて


「別にどっちを選んでも構いませんよ。とりあえず一週間待ちますからそれまでに決めてくださいね…」

 とルディは言いぶるりと震えて


「すみませんなんか寒くて死にそうなので風呂に入ります!」

 と風呂場に向かった。


 フリッツは


「あいつまた逃げたよ。返事も先延ばしにしやがって…。双子だから何となくあいつの気持ちはわかるんだ…」

 とルディと同じ顔のフリッツは眉を顰めた。ウィニーちゃんはうなづき


「まぁねー!フリッツ様もウィニーちゃんと想いが通じる前は避けてたもんね!!よく逃げられたもん!」

 と笑う。


「さあさ、皆さん…とりあえずスープでも飲んでください。冷めてしまいます。坊ちゃんが無事で良かったですわ」

 とザビーネさんは皆を暖かい暖炉の部屋に通してスープを配る。


 結局私は二人からのプロポーズを考える羽目になる。どうしよう。


 犬の姿で先に寝てしまったシロロ。

 シロロと結婚したら…幸せ?ていうかシロロって経済力とかどうするんだろ?でも今や村を守ってくれるボス魔物だし人間の仕事なんかあっという間に覚えてしまうからシロロは頭もいいと思う。後強いし頼りにはなる。


 ルディと結婚したら私は男爵夫人になりまぁそれなりにいつも通り暮らせる。でもルディ素直じゃないからなんかいつも喧嘩しそう。本心じゃないけどいちいちめんどくさいのよね。何かあったらまた家出して迷子になるかも。今回も皆に迷惑かけまくったのに。


 はあ…どうしよう…。


 しかし次の日ルディは私より早く起きていて顔を合わせると目を逸らした。


「気にすんな…あれ、照れてるんだよ」

 とフリッツが言う。


「フリッツ様!そろそろ街に戻ってドレスの採寸してもらおうよぅ!」

 とウィニーちゃんとフリッツは朝からベタベタだ。


 シロロは狩に行き、大きな鳥を仕留めてきた!!これには皆が驚いてシロロを褒めていた。


「こりゃ凄い!!捌き甲斐があって嬉しいよ!」

 と料理長ボルクさんが言う。


「シャルロッテさん!シロロと結婚すりゃあいいもん食えるな!!」

 とフリッツが言う。


「今夜の夕食は我のお陰であるぞ!」

 とシロロは言いにこりと笑う。


「ありがとう、シロロ…」

 とお礼を言う。

 ルディは…部屋に篭っていた。

 夕食を持って行くと


「そこへ置いておいてください」

 と言い出てこなかった。

 それからもルディは私と顔をあわす時は避けるように目線を外し早足で通り過ぎたりした。


 なんなの?プロポーズしておいて。

 反対にシロロは積極的に私に迫り機嫌を取ったり喜ぶようなことをしてくれるのに。


 そんなこんなで一週間が経とうとしていた。結局ルディとはまともな会話はほぼないし避けられていたし、もしかしてあのプロポーズは遭難後で錯乱してやっただけで皆の手前恥ずかしくて否定できなかったとか?


「うーん…」

 と考える。…ていうか何で私こんなにルディのことばかり考えなきゃならないの?シロロだって優しいし気遣ってくれとても頼りになる。群れのボスだけありたまに村へ赴きスノーウォルフ達の様子を見ている。


 綺麗な花を持ち帰ったりもした。森で咲いていたとは思えないくらい綺麗な花だ。


 そしてとうとう一週間後がやってきた。

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