第3話 ようこそ男爵家へ

 それから数日…野宿を繰り返しながら男爵家を目指す。元侯爵令嬢の私がののの野宿だなんて!!信じられない事だ!!


 幸い馬車の中で眠らせてくれたけど…ルディは


「今回は特別ですからね?本来ならシャルは外のテントで眠るのですが…慣れない旅にお嬢様育ちでは大変でしょう。魔物や夜盗などが出ても面倒ですし…」

 とため息混じりに使っていいと馬車で寝ていい事になる。

 私は庶民…本当に何もなくなっちゃったのよね。

 煌びやかな暮らしはもう無くなった。


 *

 そんな事もあったけどどうにか馬車はクラウスナー領へと入りのどかな田舎の風景に変わる。畑が多くのどかだ。森を抜けた先にとうとうクラウスナー男爵邸が見えてきた!


 侯爵家より断然小さいが村の家よりはまだマシ程度だ。馬車から降りて荷物を手渡される。


「自分の荷物は自分で」

 とルディが言う。いつもはルディが持ってくれていたのに。


 御者に礼を言い馬車は侯爵邸へと帰って行く。


 ルディは呼び鈴を鳴らすとバタバタと音がして中年のおばさんが現れる。茶髪に灰色の瞳のお腹がぽこっと出てるおばさん。


「あれまぁ!ルドルフ坊っちゃま?帰られたのですか!!?」


「うん、ただいま。ザビーネ!元気そうだね」

 と挨拶しザビーネと呼ばれた家政婦らしきおばさんがチラリとこちらを見て驚く。


「まあ!!まああ!!ルドルフ坊っちゃん!!つつつついに!!婚約者を連れてご両親に挨拶ですか!!ザビーネは嬉しゅうございますわ!!」

 と盛大に勘違いされてしまった。


「い、いや違うよ。彼女は俺が仕えていた元侯爵令嬢のシャルロッテ・フォン・ロッテンです。でもちょっと学園でやらかしちゃってねー…。王太子様の婚約を破棄されて家にも勘当されてうちで今日より働くようにと旦那様が仰られた。当分ザビーネの下で働くよ」

 と言うとザビーネは


「あら…そうなのですか?まぁ…令嬢にしては髪も短いし訳ありみたいですけど」


「また話すよ…とりあえずは中へ」


「そうですわね!本当にお久しぶりですわ!ルドルフ様!まぁ…フリッツ様とそっくりで寂しくはないですけどね」


「はは!同じ顔だもんな!」

 と笑い私は中へと入れられる。応接間に通されて待っているとルディの両親とルディそっくりの双子の兄も現れた。違うとこは髪の毛の分け目か。左分けがルディで右がフリッツさんらしい。


 フリッツさんは開口一番私を見て


「綺麗な猿だ!!」

 と言い、ルディは笑いを堪えていた。失礼すぎる!流石双子!!


「初めまして…。事情は先程ルドルフから聞きました。男爵のダニーロ・ヨアヒム・クラウスナーです」

 と紹介されて私は丁寧にカーテーシーをした。

 ルディのお父さんも紺色髪にスカイブルーの瞳だ。少しルディに似ている。


「初めまして。私はルディの母のジュディス・マリア・クラウスナーです。よろしくね」

 と優しそうな茶髪で緑目のルディのお母さんと挨拶する。


「俺はフリッツ・ゲルト・クラウスナー。ま、見た通りルディの双子の兄だよ!因みに冒険志望だからこの家はルディに任せようと思う!!ルディがんばれ!」

 と言われたルディは


「フリッツ…あんたが一応先に産まれたんだから継げばいいのに」


「ははは!嫌だ!こんな田舎で領主になるなんて御免だよ!魔物もくそ弱い奴しか来ないから倒しがいも無いし村には可愛い子いないし!街の冒険ギルドには綺麗なお姉さん魔法使いとかもいるし!


 男なら冒険者だよな!」

 とキラキラと一人で浮かれていた。男爵と夫人は


「まぁ…同じ顔だしどっちが後継になっても問題ないのよねー」

 と夫人が言い、ルディは頭を抑えた。


「ルドルフの方がキッチリしそうだから私は構わない。適当に見合いでもして継いでくれ」

 と男爵でさえも言いルディはますますため息をついた。


「折角侯爵家で働きこんな田舎から出たのに…。最悪だ!シャルが魔力暴走さえ起こさなければなぁ!」

 とこちらを見る。


「私のせいじゃ…」


「いや、貴方のせいでしょ?」

 ときっぱり言われてしまう。まぁ…そうだけどね。


「とにかく、今日からよろしくね!」

 と夫人だけはにこやかに笑ってくれた。


 それからザビーネさんに部屋に通される。もちろん使用人部屋だ。


「ここ…使いな。あんまり掃除してなくて汚いから自分で掃除しな」

 とバケツと箒を渡された!

 私が…掃除…。

 唖然としたが庶民になった私は仕方なく床を掃除し始めた。着ていたドレスワンピを脱いでメイド服に着替えた。これは侯爵家から貰ってきたメイド服だ。余ってるやつを貰ったのだ。


 お嬢様で掃除なんて使用人がしてた昔と比べ皆こんな大変だったのねと思う。


 掃除が済むと家の中を案内された。そしてキッチンも。そしてルディの部屋も。ノックして入るとルディは私服に着替えていた。なんか見慣れない。


「シャル…メイド服も似合いますねー」

 と言われてしまう。


「そうですか!ふん!」

 とそっぽ向く。クスクス笑いながらルディは


「俺の部屋の掃除でも頼もうかな!これからよろしく!」

 と命令される。主人が逆転しルディは偉そうだ。何よ!


「畏まりました!ギギギ!」

 とつい悔しい声が出ると更に面白がるルディ。


「まぁ、のんびりやればいいですよ。これからキリキリ働いてください!」

 と偉そうに言った。


「ちっ!畏まりました!!」

 と嫌味たっぷりと私は返事をした。

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