近郊の森2


 地味な体の捻じりと強弱を使いながらロープが緩んできた。少しだけど。でも希望が出てきた。

 コイツが油断してくれているお陰だよ。

 どこかに連れていかれると思ったんだけど、なぜか放置されたままだ。

 ここで合流するんだろうな。

 いくつかあった想定の悪いほうに近い想定だけど。私はまだ生きている。

 少し・・・探りを入れてみよう。単純だから結構喋ってくれるかも。

 余裕かましているコイツは倒木に腰を降ろして何か飲んでいる。・・お酒じゃないよね?



「ねえ、こんな事までして冗談で済ませるつもりはないのよね?どういうつもりなの?クレイグ」

「ん?俺は指示通りに動いているだけだ。アリアーヌがこの森に来ると知らされ、捕縛するようにと言われたんだ。引き渡しが完了したら任務完了だ」


 私を捕縛したのはクレイグだった。こればっかりは想定外の驚き。どうしてしまったんだとパニックになってしまったもの。

 単純な思考しか持たないクレイグ。お飾りかもしれないけどストロングウィルのリーダーだよ。正義感や道徳的な思考は強いと思っていた。だから耐性があると信じていた。

 でも駄目だったんだな~。

 こんなに魅了に耐性が無いとは・・・ほんと想定外。

 しかもこれ程に思考誘導されているなんて。術者の熟練度も軽んじていたわ。これは他のメンバーも怪しいぞ。手駒になってしまった人は何人だ?


「・・・誰に指示されているの?」

「それは秘密だ。俺は指示された事をやるだけだからな」


 むう・・意外と口が堅い。いつもだとペロリと吐くのに。そこまで思考制御されているの?

 見た目はいつも通りなんだよね。他者に操られている雰囲気は全く無い。そこが怖い。


「でもさ、ストロングウィルは森の探索依頼受けていたよね。そっちは放置していいの?」

「問題無い。ガイ達が快く承知してくれた。あいつら二人でも大丈夫だ」

「いや、そうじゃないでしょ。クレイグはまかりなりにもリーダーでしょ?依頼に対しての責任感はないの?」

「優先順位だ。俺は今の指示が最優先だ。お前には気の毒に思うが仕方ない。指示なんだからな。悪く思うなよ」


 クレイグは適当だけど仁義だけはきちんとしていた。こんな事をいう人物じゃない。

 人格まで操ってしまったの?でも表情はいつも通りだ。中身が入れ替わったかもしれない。

 

「指示があれば命も奪うと?」

「・・指示があればな」


 クレイグは飄々として変わらない。

 ずっと観察しているけど全く隙がない。これはロープが解けても逃げられないかも。

 

 これは。

 終わったかも。


 あれ?

 誰かが近づいてくる・・・・。

 

 これは・・・・。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る