The Man
「なんだ、あんたか。珍しい」
日中で明かりが入らない一室。
本の山に埋もれていた男がゆっくりと顔をあげる。
面倒くさがりなのか髪は乱れ、無精ひげが伸びている。が、その目は生気を失っていないようだ。
その様子を見た訪問者は安心したような笑みを浮かべ何日も人が座っていない椅子にどっかりと腰を降ろす。
「案外大丈夫そうだのう。安心しだぞ」
「・・・積極的に世を捨てた訳じゃない。部屋に閉じこもっているのもそろそろ飽きて来た」
「なんじゃ?もう知っとるのか?」
「・・・知っている。あんたじゃ対処できないのか?」
「判断に困っておる。利がありそうであり、害がありそうでもある。お主はどう思う?」
訪問者は笑みをうかべたまま男を眺める。言っている事と表情が一致していない。言葉程困っていないようだ。
「それを判断するのはあんただ。俺じゃない」
「ふむ。・・・できれば穏便に出て行って欲しいのじゃがな」
「・・・話はしているんだろ?」
男は興味がないのか本のページをめくっている。視線は既に訪問者に向いていない。
突然の訪問で無視を決め込んでいるのか、親しい間柄だからの態度かは読めない。
「だから困っておるのじゃ。お主が出張って話をつけてもらえぬか。どちらかというとお主の仕事の範囲じゃぞ」
「・・・根拠は?」
「勘・・じゃな」
男の視線が訪問者に戻る。その眼光は鋭い。適当な発言は許さぬとばかりだ。
訪問者も心得ているとばかり笑みを絶やさぬまま受け答える。
「ふぉっふおっ。あれは儂には対処できぬ。じゃから目的違いだと、さりげ~なく伝えているつもりじゃ。で、さりげ~なく去って貰えると有難い。できれば穏便に済ませたいのじゃ」
「・・俺が穏便に済ませられると?とうとうボケたか?」
「詳しくが知らぬが約定があるのであろう?平和的に解決せねばのう」
「・・どこまで何を知っている?事の次第によっては・・」
「おおう。なぜ荒事に及ぼうとする。儂は話し合いにきただけじゃぞ」
「どこがだ。名声はともかく力は衰えてないだろうが」
「悲しい事に年には勝てぬよ。今では全盛期の半分あるかどうかじゃて」
「一般人相手には十分な過剰戦力だ。安心して散ってこい」
「お主は変わらぬのう。じゃが今は誰が狙われているか知っているであろう?」
男の視線が再度訪問者に戻る。いつのまにか瞳の色が変わっている。何者であろうと焼き尽くされそうな黄金の瞳だ。一般人であれば睨まれただけで失神しそうな威圧がかかる。
訪問者は涼しい顔で笑みを浮かべている。
二人とも人外に位置するケモノのようだ。
「・・・まさか。泳がせてないだろうな?アリアーヌに何も教えていないのか?」
何かが爆ぜるような圧力は部屋に満ちていく。息ができない程の圧力だ。
訪問者はそれを受けても涼しい顔を保っている。
男の質問を肯定しているのか、否定しているのか。
その表情からは何も読み取れない。
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