近郊の森3


「クレイグ。お主何をやっとるんじゃ?」


 近づいてきたのはやっぱりギルマスだった。いつも通り飄々としている。この人が慌てている所を見た事がないんですけど。

 ちらりとクレイグを見るとこっちは驚いているみたいだ。なんでここにいるんだ?という表情かな。気づかなかったか。

 それはそうだろう。

 ギルマスの気配を探るのは簡単じゃない。私だって難しい。

 実はこの人は常人じゃないんだ。知る人ぞ知る人物なんだけど、誰にも知られいない。だから私は知らないフリしてる。

 そんな達人の気配を探れるのはストロングウィルのメンバーでもギリギリエイミーくらいじゃないかな。

 クレイグ程度の技量じゃ気づけないのは明らかだ。筋肉バカだからね。

 今の依頼に支障が出る事に気づいたようで常にない慌てようだ。さて、どうするの?

 

「何をって?依頼された事をやっているさ」


 呆れた回答だ。筋肉で答えを探すからこんなもんかな。

 

「アリアーヌを縛る事はギルドの依頼じゃないがのう。まさか他の依頼を受けているのではあるまいな?ギルドの依頼を受けて他の依頼を優先するとはのう。ギルドの契約を知っているのかのう?誰がお主に依頼したんじゃ?」

「ギルドの依頼は他の二人にさせている。問題ないだろうが」


 ほうほう。やっぱり分かって無い様だぞ。


「有りも有り。おお有りじゃ。リーダーが実際に確認する事と依頼に記載しておったろうが?ストロングウィルのリーダーはお主じゃないのかのう?少なくても儂やアリアーヌはリーダー変更はしらぬぞ」

「く・・。緊急の依頼があったんだ。そっちを優先したんだ」


 はい?

 だから・・契約を知っているのかという返事はどうした?


「どこの誰の依頼じゃと聞いておろうが。一応言うとくがギルドに所属しているのじゃからギルドの依頼を優先するのは契約事項に明記されとるぞよ。その依頼主には異議を申し立てる権利もギルドにはある。じゃから誰に依頼されたのじゃと聞いているのじゃぞ?」


 なかなか噛み合わない。なんとか誤魔化そうとしているのかもしれないけど悪手よ。

 ホラ、ギルマスから殺気が漏れてきた。久しぶりだわね。殺気は真っすぐにクレイグに向いている。

 心配していたけど今の所ギルマスは私の敵ではなさそうなだ。

 ちょっと安心。今だけなんだけどね。

 対してクレイグは結構青ざめているみたいね。いつもの冗談では無い事をやっと理解したみたい。

 そもそもギルマスが街から出て一人で森に来るなんて考えられないでしょうに。相変わらずの単純な思考だ。

 ギルマスに気圧されて吐いてくれるといいのだけど・・・。

 

 強情にも口をつぐんでいる。どうやら言い訳が思いつかないようだ。ボキャ不足だな。

 ま、いいのだけど。話さないから依頼主が分からないわけでもないし。

 そうなのだ。依頼主はだいたい想像はついている。

 だから、さっさと吐いた方が今後が楽になると思うんだけどな。

 ギルマスがここに来てくれたのかは正直私には分からない。

 今の所助けに来てくれた事実だけかな。

 多分だけど助力を頼んだのは今もどこかで潜んでいるあの人だろう。ギルマスが適任?と考えてくれたのだろう。

 ほんと、感謝だ。

 

 ちょっと前まではどん詰まりかと思っていた。

 でも、なんとかなりそうかも。

 

 問題はギルマス・・・・だ。

 鍛錬しているとこ見た事ないし。

 毎日お酒ばかり飲んでいるし。

 そもそもおじいちゃんだし。

 

 殺気はさび付いてなくても、腕前はどうなの?

 クレイグに勝てないとダメなんですけど・・・。

 

 と、いうか重要な事に気づいた。

 

 え?

 

 大丈夫。・・なんだよね?


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