辺境の街4
ストロングウィル。
この街で一番実力がある冒険者パーティだ。
リーダーのクレイグがあんな声でがなるから阿保っぽく見えるけど依頼達成能力は高い。
魔物討伐を安心して任せる事ができるのは今の所彼らだけだ。理由は単純で冷静で慎重な行動をするからだ。
見た目は適当そうに見えるのだけど実は結構細かい。最初は私も泣かされた。今は信頼してもらっているから疑われる事は無くなったけど。あの頃は大変だった。筆記用具を何度壊した事か。
彼らがそうだと私は知っている。
だから初対面の人間と行動を一緒にする事は絶対に無い。人柄と実力を十分に確認しないとダメなのだ。
だけど目の前の男性にはその慎重さが欠片も無い。クレイグも慎重だけど、ガイは更に慎重だ。
なのにガイの報告はこの男性・・・フリッツというらしいけど・・・一緒にゴブリン討伐をしてきたと報告してくる。
注意していたから表情には出ていないと思うけど、内心とってもビックリしている。
街の若者達がパーティを組んで指導を頼まれた時も何度も断っていたのだ。ギルド内の訓練ならいいが実際の依頼では一緒に行動したくないと。
それがどうだ。
全く面識が無いフリッツと何十回と一緒に行動していたくらい気安い。
これは何かあると思ってしまうのは仕方ない事だ。
明らかにおかしいもの。
フリッツという男性は何かそういうスキルでも持っているのかもしれない。
依頼完了後の後報告を作成しながらストロングウィルの面々やフリッツをチェックする。
・・・ギルマスまでフリッツにお酒を勧めている。何やってんの?・・て、いうか。酔っているとはいえギルマスも変だ?
もうこれはおかしい。
私は手元に置いている自分のスキルプレートをチェックする。
そこに表記されている内容を確認し、勘から確信に変わる。
もう迷う必要は無い。
「ガイ。手続きは完了したから休んでいいよ。そういえばフリッツさんでしたっけ?記録には無いのでこの街のギルドは初めましてだと思いますけど、こちらで活動されますか?」
「おお!フリッツは暫くこっちで依頼を受けるそうだ!冒険者名簿に登録しておいてくれ!」
「クレイグには聞いていない!フリッツさんに聞いているの。それともストロングウィルのパーティに参加する話がついているの?」
「いや、暫くは一人で活動するらしいぞ!依頼によっては俺達と一緒に行動する事になる!」
クレイグがここまで入れ込むのは珍しい。ちらりとガイに目を向ける。
「俺達としてはパーティに入ってくれるのが望ましい。そんな話を帰りにしてきた。ご本人はこの街に慣れるため当面は一人で行動したいらしい。残念な事だ」
「そうなんだ。ではフリッツさん名簿に記載をするので必要事項の記入を御願いします。これはどの街のギルドでもやっているお約束事ですから御願いします」
「・・・成程。承知した」
気になる反応だけど記入はしてくれそうだ。用紙と筆記用具を渡す。
フリッツは手で筆記用具は不要とし、上着の内ポケットあたりから筆記用具を取り出す。・・・ふうん。
書いている文字も綺麗だ。相当の教養がある。
さりげなく視る。
「これで宜しいかな?」
「預かります。・・・はい、ありがとうございます。前は王都で活動されていたんですね?こちらは結構田舎ですよ。フリッツさんが満足する依頼はないかもしれませんが宜しいですか?」
「構わないさ。生活するに困らない資産はある。こう見えても各地を旅するのが趣味なんだ」
「観光地でもありませんわよ。穀物の生産地でしか近隣には知られていない田舎ですから」
「構わないさ。私はそういう街を巡りたいんだ」
「そうですか。受付は以上です。明日から依頼を受ける事が可能になります。明日は私は不在ですが引継ぎはきちんとしておきますので、依頼を受ける場合はその者に申しつけてください」
「承知した。では今日は宿で休ませてもらおう。どこかお勧めの宿は・・・」「俺達が案内するぜ!いい宿があるんだ!きっと気に入るぞ」
食い気味にクレイグがフリッツに言ってくる。本当に珍しい。
フリッツは驚きもせずクレイグの案内に従うようだ。私に向かってウィンクして微笑む。
・・・ぎこちなかったかもしれないが笑顔で返せたと・・・思う。
な、なんなんだ。あの挨拶は。
あの顔でウィンクは反則だろう!
どの宿を勧めるのか知らないけど明日は結構な数の女性陣の噂になりそうだ。
ストロングウィルとフリッツが出て行った後は耳がおかしくなったかと思うくらい静かになった。
いつもの事だけど。
なんか一気にやる事が増えたような気がする。
その前にと・・・。
手元のスキルプレートを確認する。
うん、上手く映っている。
え?これって。
・・・・う~ん。
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