近郊の森9


「どうされたんですか?この状況?」


 何の緊張感もない声で私達に声を掛けてくる。

 まるで街中で偶然会ったみたいな感じだ。

 縛られて転がされているクレイグをちらりと見たような気もするけど何の反応も無い。

 クレイグは気絶しているから自分の正体が漏れても誤魔化すつもりなのだろうか?

 

「なぜあなたがこの森に来たの?まさか散歩だとは言わないわよね?正直に話したら?」

「どうして散歩と分かったんですか?のんびりと一日森の中を歩こうと思ったんですよ。そうしたら争っている気配がしたので来たのですよ?いけませんでしたか?」


 エイミーの確認を否定せずに散歩と主張してくる。

 図々しい。開いた口が塞がらないとはこの事かと思う。

 

「散歩というには随分と剣呑な出方だわ。ギルマスはどう思う?」


「ん?おお、随分と都合の良い”散歩”じゃのう。言い訳にしてはお粗末じゃぞ」


 ギルマスも引く気はならしい。

 でも、勝てないって。どうするのよ。


「争いがあれば誰でも警戒しますよ。アリアーヌさんもそう思うでしょ?」


 図々しい。


「争っているからと何でも首を突っ込むのはどうかと思いますけど。痴話げんかにも介入しそうで。誤解はして欲しくないのですけど、無関係の方は何も聞かず立ち去ってくださいな」


「いいえ、そういう訳には参りません。クレイグは友人ですよ。友人の危機のですから見逃すわけにはいかないのですね」


 そうきたか。本当に図々しい。腹の中では裏腹の事を考えているくせに。

 だって、私は視て知っているのだから。クレイグを誰が操っているのか。

 

 操っているのは目の前の男。

 口元を片方だけ吊り上げて笑みを浮かべている男。半分本性をあらわしたのか?普段とは違う笑み。

 

 たった一人にここまで乱されてしまった。


 油断できない相手。


 フリッツなのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る