辺境の街2


 ずっと前からの疑問だった。こっちも暇、ギルドマスターも暇。折角だから聞いてみよう。

 飲酒しているのが若干気になるけど。

 

「ねぇ?ギルマス。ちょっと聞いていい?」


「・・おう?なんじゃい。誰も居ないから帰りたいのか?」

「違う、そんなんじゃない。気になった事を聞きたいのよ。質問くらいいいでしょ?」

「そうか。今日は暇じゃからいいぞ。なんじゃ気になった男でもいたのか?ワシが知っているヤツなら間に入ってもいいぞ」

「違うって!なんでそんな話になるかな!もういい。精神的にいじめを受けたから帰ります」


 ったく、お酒飲むとぐたぐだオヤジになるんだから。すぐにふざけて絡んでくるし。

 素面だとまぁまぁ真面目なんだけなぁ。お酒飲むとこんな感じだ。やっぱり聞くタイミング間違えた。

 どうしても聞きたい事でもないから、このまま帰っちゃおうかな。戻って来る冒険者の相手はギルドマスターに丸投げしよう。

 うん、それがいいわ。帰ろっと。


「ん?本当に帰るのか?ま、まて、冗談じゃ。真剣に聞くから帰らんでくれ。な、アリアーヌちゃん」

「・・ちゃん?」

「・・・アリアーヌさん」

「そうよ。私はもう子供じゃないんだからね」


 髭まで真っ白なギルドマスターは何か言いたそうだったけど黙っている。私が今いなくなると困るもんね。わりとメンタル弱いし。

 だけど全く学習しない。このパターンもう何度目か。

 これ以上はお互いにメリットはないから、大人しく座っていた椅子に座ろう。仕方なし。

 私が大人しく座ったのを見てギルドマスターは安心したみたい。そんなに受付業務が嫌なのかしら?大雑把な性格だしね。

 

「それで何を聞きたいのじゃ?」

「え?ああ、ギルマスってこの辺境の街じゃ情報通なんでしょ?」

「まあのう。冒険者ギルドリーバイ支部のギルドマスターじゃからのう。聞きたいのは業務関係の事じゃったか?」

「う~ん、どうなんだろ。あのね当代の勇者様って今何をされているの?」

「勇者?・・・ああ、あれか。十二年前に魔王を倒して凱旋してから活動はしていないと思うのじゃが」

「魔王が倒されたら各国に出現している魔物は消滅するって話じゃなかったの?」

「はぁ?どこからそんな話聞いたんじゃ。それは違うぞい。魔王が倒されても魔物は減らぬ。じゃからこの街周辺の魔物も減っておらぬであろうが。そもそもその噂を言い出したのはだれじゃ?」


 え?魔王が倒されても魔物は消滅しないって。

 あれ?なんで私そう思っているんだろ?誰に聞いたのかって?誰だ?

 それじゃ何で魔王は倒されないといけないの?


「何か妙な事考えとらんか?魔王を放置していたら周辺の国が魔王に攻め滅ぼされるのじゃぞ。実際に一時はこのブルースター王国にも救援要請が来ていたのじゃぞ。隊を編制して救援に出ていたのじゃ。かくいう儂もその救援隊に入っていたんじゃからのう」

「う、それは散々聞いたわよ。でも魔王は何で国を滅ぼそうとしたの?誰かが怒らせたの?」

「そこは・・・なんとも。ふむ、動機というものか。言われてみると気にした事なかったのう。聞く程の興味も当時はなかったか。じゃが武力で攻めてくるなら武力で応じるしかあるまいて」

「いきなり武力衝突になったわけじゃないんでしょ?初代勇者様の伝記を読んでも、どうして魔王が攻めて来たのか書いてないのよ。当代の魔王についてもギルドにはそんな文書は無いし」

「結構前から気にしとったんじゃのう。じゃが、そのような文書は無いじゃろうな。あるとすれば魔王に攻められた国の王家や貴族が残しているやもしれん。そんな程度じゃ」

「ふうん。そんなもんなんだ」

「そんなもんじゃ」


 聞いてみたけどやっぱり釈然としない。ギルトマスターなら裏情報とかあるのかとも思ったけど。表情見ている限り知らないみたいだし。嘘と隠し事は苦手な性質なのよね。

 何気に聞いただけだからこれ以上追求しても仕方ないか。

 そういえば私なんでこんな事気になったんだろ?やっぱり誰かに聞いたのかな?




「うぉ~い!帰ったぞ!」


 あ、依頼が終わって戻って来たのか。

 あの声はストロングウィルのパーティのリーダーだ。それにしても仕事が早いぞ。一日で終わない依頼だと思っていたんだけど。見積もり間違えたのかしら?

 私が思った疑問が解決するのは彼らと一緒にギルドに入って来た男性が理由だったようだ。

 というのを私が知るのは数分後の事だったけど。


 誰?

 

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