a hero


 フェリックス。

 と、フリッツに認識された男は怒っていた。

 

 その理由をフリッツにいちいち丁寧に説明するつもりは男には無い。

 何故この場に自分がいるのかすらも説明するつもりは無い。

 

 説明をする相手ではないからだ。

 

 何故このような状況になっているのかをフリッツは認識するべきなのである。

 

 あの約定がある。

 

 あの約定を反故にしてまでアリアーヌを掌中に収めようとは。

 これは反逆以外の何者でも無い。

 

 フリッツ本人が後から後悔をしながら考えればいいのだ。

 今は徹底的に叩きのめしアリアーヌを諦めさせるだけだ。

 

 男は判断が遅かった事を後悔していた。

 

 本来はフリッツの企みを実行させる前にフリッツを除いておくべきだったのだ。

 まさか直接アリアーヌを利用するとは男は思ってもいなかった。

 約定があったからとはいえ、自身の判断の甘さにも怒っていた。

 

 アリアーヌに一時とはいえ恐怖を感じさせてしまった事にも怒っている。

 折角封印したものが今回の襲撃で緩んでしまう可能性だってあるのだ。

 

 あの悲しみを思い出させる訳にはいかない。

 

 だから、男は自分を許せない。

 

 だが、それ以上にフリッツが許せない。

 

 あの約定をなんだと理解しているのだ。

 あれがどのような気持ちで約定を定めたのか理解できていないのか。

 簡単に反故できる程温い約定では無いのだ。

 

 

 その経緯を汲もうとしないフリッツが一番許せない。

 

 怒りを抑えきれない男はフリッツに襲い掛かっていく。

 

 そう。久しぶりに感情のままに暴れる事にしたのである。

 

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