第22話 フレスタの町
グロシアの町を出発してから5日。
予定どおり、魔境直近の町フレスタに到着した。
フレスタはヴァリアス王国最西端の町ということなので、シリル村までとはいかないものの、もっと長閑な田舎町を想像していたのだが、目の前には高さ10m程の高い石壁がそびえ立っており、壁の上にはバリスタらしき兵器、さらに周囲は水堀で囲まれている等、まるで城か要塞のようであった。
そんな町の様子もスタンピードとまではいかないが、年に何回か魔物が魔境から出てくることがあるという話を聞けば納得の理由である。
規模自体もグロシアには若干劣るものの、町を守るための兵士や魔物の素材や植物、鉱石等の入手を目的とした商人や冒険者、魔境の開拓民として来た者等、理由は様々だが多くの人の出入りがあるためか、それなりに発展している様子であった。
……
「それじゃあ、エミリーちゃん達も無理しないで頑張ってね。私達は暫く魔境で活動するつもりだから機会があれば一緒に依頼をこなしたり、ご飯でも食べに行きましょう」
「はい、色々と教えてもらってありがとうございました。エナさん達も頑張ってください!」
エミリーと別れの挨拶をしているのは、ここまで一緒に馬車に乗ってきた女性4人組パーティー『猫の手もかり隊』のリーダーのエナさんだ。
パーティー名からもわかるとおり、この世界にも猫は普通にいるし、日本と同じことわざも何故かある。
こんなパーティー名だが実力は高く、エナさん達のパーティーメンバーは皆Bランクとのことだ。
エナさんは剣と魔法を使いこなす魔法剣士で見た目はエミリーと同じく金髪ポニーテール。エミリーと一緒にいれば仲の良い姉妹に見えなくもない。
そんなこともあり、ここに来るまでの道中にエミリーがエナさん達に話しかけられ、仲良くなったという次第である。
他のパーティーメンバーは斥候役でモフモフなたれ耳と尻尾が特徴の犬人族のシズさん。人族で魔導士のニーニアさん、盾役である小人族のロロナさんの3人であるが、皆美人又は可愛い系である。
いずれ見てみたいと思っていた獣人、それも美人な女性を見れただけで俺は満足していたが、エミリーのおかげで知り合うことまでできるとは……
エミリーには感謝しても仕切れない。
「あとアタル、次会った時にはちゃんと無詠唱魔法について教えなさいよ」
「教えないと間違って眉間をアイスアローで貫いてしまうかも……」
「いや、前に説明したとおり俺の場合、土や水をどうしたいかイメージするだけで動かせるんですが。というか眉間を貫くって……ニーニアさんが怖すぎるんですけど」
ここまでの道中、外で用を足す際に衝立代わりに土魔法で土壁を作っていたのだが、土壁を無詠唱で作っているところを偶々ニーニアさんに見られてからは、魔法を使えるエナさんとニーニアさんから無詠唱の方法についてしつこく聞かれている。
俺の場合、最初から無詠唱で使えたのでそういうものだと思っていたのだが、そういえばトム達も俺が無詠唱で魔法が使えることに驚いていたよな。
別に無詠唱の方法については隠しているわけではないので、俺のやり方については説明をしたのだが、二人は未だにその方法では魔法を発動させることができていないので、俺が無詠唱の方法について隠しているのだと疑っているようだ。
「う〜ん、普通は《火よ、矢となりて、我が敵を貫け》みたいに詠唱が必要なのよね。しかも魔法を発動させるための媒体も必要な筈だし……それ抜きで魔法を発動させるのってどうやんのって感じよ」
「エナに同じく。これは私達が無詠唱で魔法が使えるようになるまでアタルは私達と行動を共にすべき」
なんでもこの国での魔法は魔法を発動するための術式が施された剣や杖を媒体にした上で、詠唱(火や水等の現象、大きさ、形状、数、対象、効果を指定する等)することによって発動させているらしい。
例えばさっきのエナさんの詠唱であれば、《ファイヤーアロー》という魔法で、火という現象を起こし、形状を矢に変え、敵という対象を指定し、貫くという効果を剣を通して発動させるわけだ。
簡単にいうと剣という端末に《ファイヤーアロー》を起こすためのキーワードを打ち込むことでその魔法が発動されるといった感じか。
もし威力をあげたいのであれば、火ではなく炎という言葉に置き換えたり、《巨大な矢となりて》や《幾百の矢となりて》のように大きさや数を指定する必要がある。
当然、威力が大きい程、魔力は消費するし、詠唱も長くなりがちである。
俺の場合はそれらを全て省略してイメージするだけで魔法を即時発動させているのだから、一瞬が生死を分ける冒険者のエナさん達が無詠唱で魔法を使いたいと思うのも当然だろう。
それにしても美女4人パーティーへの一時加入とかありよりのありだな。
「ニーニアさんダメです! アタルは私達と一緒に魔境を探索するんですから!」
俺が本気でエナさん達のパーティーへの加入を考えていると、エミリーがそんなことを言い出した。
あれっ? エミリー達とは一緒に魔境まで行く約束はしたが、その先のことは話し合っていなかったと思うが。
確認しようとトムに視線を向けるも、町の入口前だというのにシズさんから指導を受け、盾を持つロロナさんに向け木剣を真剣に打ち込んでいる。
くそ、相変わらずマイペースな奴め。
俺がトムに対してそんなことを思っていると、エミリーから声を掛けられた。
「ねえ、アタル。お兄ちゃんとも話したんだけど私達とパーティーを組んでくれないかな? 本当はもっと前からお願いしたかったんだけど中々言い出しにくくて……」
エミリーに上目遣いでお願いされてしまったからには俺の返事はもちろんOK。
「というわけで残念ですがニーニアさん達とは行動を共にできませんが、魔境には暫くいるつもりなので機会があればいつでもアドバイスはしますので。とはいってもさっきも言ったとおり俺の場合はイメージしているだけなので使えるようになるかはわかりませんよ」
「むう、振られてしまった……」
「まあ、いいじゃない。また今度教えてもらえば」
エナさんはそう言いながら、ニーニアさんの肩をぽんぽんと叩くと「それじゃあまたね」と言って、トムに指導していたシズさんとロロナさんを引き連れ町の中へ行ってしまった。
「ねえ、お願いしておいてなんだけど本当に私達とパーティーを組んでくれるの?」
「あぁ、むしろパーティーに誘ってもらえて嬉しいよ。これからもよろしくな!」
「うん、よろしくね!」
二人でそんなやりとりをしていると「おい、ボサッとしていると置いていくぞ」とトムの声。
さっきまで訓練していて町の中に入ろうともしていなかった癖にと思ったが、トムだからしょうがないと考えることにして気にしないことにした。
とりあえず俺がトムにパーティーを組むことになったことを伝えると「そうかよろしくな。ただしエミリーには手を出すなよ」とのこと。
まあ、エミリーは可愛いからな。心配する気持ちはわかるが今のところはそういう気持ちはないから安心して欲しい。
なんせ俺の精神年齢は30歳だからな。15歳のエミリーに手を出したら地球では完全にアウトである。
そんなことを思いながら、町の中に入ると、まずは検問をしていた兵士さんお勧めの『赤熊亭』という宿に宿泊することにした。
教えてもらった『赤熊亭』は木造3階建ての建物であり、店の前にはレッドグリズリーという脅威度4に相当する魔物の剥製が置かれており、ひと目で宿がわかった。
店主はスキンヘッドの強面のおじさんでびびったが、元冒険者とのことで外に飾っているレッドグリズリーはおじさんが倒したらしい。
とりあえず宿の部屋割りは今までどおりトムとエミリーで一部屋、俺一人で一部屋となった。
スマホをいじりたいので一人部屋はありがたいが、なりゆきとはいえ二人とはパーティーを組むことになったのだから、スマホや【女神の楽園】の機能について話すかどうか決める必要があるよな。
話した方が今後一緒に活動する上では楽ではあるのだが一体どうしたものか……
俺はそんなことを考えながら宿のベッドの上で横になるのであった。
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お読みいただきありがとうございます。
次回、更新は8/29(月)午後6時予定となります。
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