第19話 グロシアの町
「おぉー! あれがグロシアの町か!」
シリル村を出発してから数日。
いくつかの村を経由し、ついにモーケルさん達が拠点とするグロシアという町に到着した。
いやー、たかが数日だが色々あったな……
前方に見えるグロシアの町を眺めながら、俺はここ数日のことを思い出していた。
トムやエミリーとの模擬戦、商品の荷下ろしや仕入れの手伝い、キャンプのような野営、ジャイアントラビットやビッグマウス等の魔物との戦闘等、色々なことを経験した。
模擬戦や魔物との戦闘については、旅の初日に運良くデイリー召喚で☆3《剣術》を入手したおかげで、相手の動きを読みやすくなった上に剣の振り方も自然とわかるようになったので、自分の力でトム達とそこそこ打ち合うことができ、魔物についてもトムやエミリーと協力することで危なげなく倒すことができた。
むしろ《剣術》スキルを入手できていなかったらやばかったな……
トム達と出会ったときは、3Dモデルで戦闘したからそれなりの動きを見せれたが、《剣術》スキルがなければ素人同然の動きしか出来ずにトム達と打ち合うことなんてできなかったと思うし、魔物相手に不甲斐ない姿を見せるところであった。
野営については、道中の村で宿泊できないときが一度あり、街道沿いでテントを設営して宿泊したが、寝る時も一人は見張りを立てており本格的であった。
護衛の仕事のうちだからとトムとエミリーの二人で交代しながら見張りをやるといっていたが、俺も折角なので経験させてもらった。
安全対策のために土魔法で壁や掘を作ったりした方がよいか提案してみると、3人共、俺が魔法を使えることに驚いていた。
話を聞いてみると魔法が使えるのは10人に一人程の割でしかいない上、実用レベルで使えるものは100人に一人いればいいということであった。
その後、壁を作る許可を貰ったので、ある程度の高さの土壁と掘を作ったら、無詠唱で使えることに再度驚かれてしまったが、《土魔法》や《水魔法》の説明には詠唱不要って記載されていたのだから普通は詠唱が必要だなんて思わないだろう。
そんなこんながありながら、無事にグロシアの町に到着したというところだ。
……
グロシアの町はヴァリアス王国の西方に位置するウェスター辺境伯領内にあり、人口は3000人程度。
西にある魔境と東にある領都の間に位置し、その二区間を結ぶ中継地として発展を遂げている。
そのためか、今も魔境へ向かう冒険者の姿や魔境で魔物等の素材を仕入れてきたと思われる商人が領都に向かって出発する姿がいくつも見られた。
町の大きさ自体ははっきりとはわからないが、少なくともシリル村の数倍以上はあると思われ、周囲は高さ5m近くの強固な石壁で囲まれている。
これはこの町が魔境で魔物の集団暴走いわゆるスタンピードが起こった際の防衛拠点となるためだとモーケルさんから教えてもらった。
まあ、スタンピード自体は500年前に魔王がいなくなってからは起きたことはないそうだが。
町が石壁で囲まれているため、町に入るには東西南北に設置されているいずれかの門から入る必要があり、各門では犯罪者の取締りや麻薬のような禁制品の持ち込みがないか検問を行っている。
検問自体は空港にあるセキュリティゲートみたいな形をしている《照会門》という門型の魔導具の中を潜るだけですむため、町に入るためにそこまで待たされることは少ないそうだ。
どういう仕組みかは知らないが、門を潜るだけで手配されている犯罪者や禁制品の持ち込みがないか自動的にチェックしてくれる便利な魔導具らしい。
ただし、検問とは別に町民でないものは町に入るのに入町税という数百円程程の金銭を支払い、滞在許可証を得なければいけないらしい。
滞在許可証はあくまでちゃんとお金を支払って町に入りましたよという領収書みたいなもので、町の名前と日付、支払った金額のみが記載されており、文字は何故か日本語だったので普通に読むことができた。
ちなみに発行された滞在許可証を見せれば、その日のみに限り、町への出入りは自由になるとのことであった。
……
無事に検問を終え、滞在許可証を得た俺はモーケルさん達と合流した。
ここで別れてもいいのだが、モーケルさんから経営するお店へのお誘いを受けたので付いていくことにしたのだ。
トムとエミリーもモーケルさんを無事にお店まで送り届けるまでが依頼だということなので一緒に付いてくることに。
そういえばモーケルさんはどんな店を経営しているのだろうか……
シリル村では野菜、道中の村々では特産品っぽい民芸品やお酒、食料品等、色々な商品を仕入れていたけど、どんな店なのかを聞くのを忘れていたな。
そんなことを考えながら、町の中を見渡すと、木造や石造りの建物が立ち並び、多くの人達が行き交う姿が見られた。
勝手な偏見かもしれないが、中世くらいの町のイメージだったので、上下水道が完備されておらずに悪臭がしたり、ゴミが路上に捨てられていたりするのかもしれないと思っていたが、そんなことは全くなく、悪臭もしない上にゴミもほとんど落ちていなかった。
後で聞いてわかったことだが、これは上下水道がちゃんと完備されていることもあるが、各家庭にいるスライムがゴミや排泄物を消化してくれるおかげらしい。
ちなみにスライムは町中も普通に徘徊しているが、危険性もなく、ロボット掃除機のようにゴミを勝手に回収してくれるので放置されている。
門を潜った後は大通りらしき場所を進んでいるが、大通りは馬車同士が余裕を持ってすれ違うことができるくらいの広さがあり、路面は石畳で綺麗に舗装されていた。
大通りという好立地のためか、通り沿いに並ぶ店舗や民家といった建物はどれも立派な外観をしており、武器屋や魔導具店なんかもあり、興味を惹かれた。
そんな大通りから1本内側に入った通りにモーケルさんのお店はあった。
見た目は2階建ての木造の建物で、大通りの店に比べれば若干外観は劣るものの、商品を客が見やすいように綺麗に陳列していたり、商品ひとつひとつに商品の特徴などを記載したPOPを設置している等、色々な工夫がみられ、そこそこお客も入っていた。
何かしらの専門店というよりは色々な物を幅広く販売しており、スーパーやコンビニといった感じの店構えだ。
店は縦長構造であり、1階の手前半分が店舗、奥側が倉庫となっており、2階は手前半分が事務所、奥側が住居となっているらしい。
俺たちは倉庫に荷物を搬入した後、2階の事務所に通され、出された紅茶や菓子を食べながらゆっくりと世間話をしていた。
その際にモーケルさんのお店がどのような店なのか聞いてみると、最初は八百屋のように野菜や果物のみを販売していたが、色々な住民の要望を聞いているうちにコンビニのように多種類の商品を扱うようになってしまったとのことであった。
店はモーケルさんの奥さんと息子さん、その他に店員2名を雇って経営しており、売り上げは順調に伸びているそうだ。
まあ、色々な店を回らずに、一箇所の店で買い物が済むのなら客としてはありがたいけど、店側としては専門店にした方が仕入れや商品管理も楽な気がする。
その辺のことを聞いてみると、「商品の仕入れや管理は確かに大変ですがお客様が喜んでくれるのでやりがいはありますよ」と嬉しそうに言っていたのが印象的であった。
「トムさんとエミリーさんご苦労様でした。これで今回の依頼は終わりです」
「ああ、それじゃあ俺は冒険者ギルドに行くので失礼する」
「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん! もう礼儀知らずな上に自分勝手なんだから! モーケルさん、この度は私のせいで危険な目に遭わせてしまいすみませんでした。もし機会があればまたよろしくお願いします。それと兄は行ってしまったんですが、アタルに町の案内をしてあげたいので、まだ私もここにいてもいいでしょうか?」
「ええ、気にしてませんし大丈夫ですよ。それではあまりアタルさんを引き止めておくのも悪いですからこの辺でお開きにしましょうか。アタルさん、またいつでもお店にいらしてくださいね」
「はい、また来させてもらいます。それと今回はこの町まで連れてきていただきありがとうございました。右も左もわからない状況だったので大変助かりました」
「いえいえ、こちらも危ないところを助けてもらいましたし、スーツという衣服も売っていただけたので気にしないでください」
「そう言ってもらえるとありがたいです。ではまた」
モーケルさんの店をあとにするとエミリーが声をかけてきた。
「アタルごめんね。私が案内してあげたいって言ったから、モーケルさんのところでゆっくり出来なくなっちゃって」
「気にしなくていいよ。むしろ、この町のことを何も知らないから助かるよ」
モーケルさんの店を出た後はどうしようかと考えていたから、エミリーの提案は本当にありがたい。
とりあえずまずはトムが向かった冒険者ギルドを案内してもらうとするか。
ファンタジーの定番だから気になるし、この世界でお金を稼ぐためにも冒険者登録をしておきたい。
「とりあえず、トムを放っておくわけにもいかないし、冒険者登録もしたいからまずは冒険者ギルドへ連れて行ってくれないか」
「お兄ちゃんなんか放っておけばいいんだよ! まあ、アタルが冒険者登録をしたいなら案内するけど」
エミリーは勝手に出て行ったトムに対する文句を口にしながらも、俺を冒険者ギルドに案内すべく道を進んで行くので、俺は置いていかれないように慌ててエミリーの後を追うのであった。
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お読みいただきありがとうございます。
申し訳ありませんが、別の作品も書いてみたいので投稿頻度を1週間に1回の頻度に落とさせていただきます。
今後は毎週月曜日午後6時頃に更新したいと思います。
なので次回更新は7/18の予定となります。
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