第18話 村の散策
村の中を適当にぶらぶらしつつ、村の様子を眺めていると、チラチラと住民たちからの視線を感じた。
うーん……黒髪黒目が珍しいのかな。
住民の多くは、金髪や茶髪が多く、時折赤髪の人もいる。目も同様だ
顔つきは彫りが深く、鼻も高い等、イケメン外国人って感じの人が多いので日本人のような顔つきは珍しいのだろう。
村の中をぶらついていると何故か下着や古着といった衣類と一緒に鍋やフライパン等の金物や干し肉や調味料等といった食料品を販売している雑貨屋を見つけた。
店主に話を聞くと小さな村なので服屋や金物店などの専門店はなく、この雑貨屋で様々なものの販売をしているとのこと。
ただし、野菜については各家庭で採れるためにここでは販売しておらず、村長に言えば欲しい野菜を売ってくれるらしい。
モーケルさんからお金を貰ったし、折角だから旅に必要そうなものをいくつか購入しておくか……
野菜も欲しいから、明日の朝、モーケルさんの仕入れに付き合わせてもらうとしよう。
俺はそう考えると、とりあえず替えの下着や古着、塩等の調味料をいくつか購入した。
買い物ついでに店主や住民から色々聞いてみると、畑に生っていたトマトやナス、カボチャなどの野菜については日本と名前が変わらないことやこの村ではお風呂の習慣がないこと、トイレは穴の中にスライムを入れておけば排泄物を勝手に分解してくれるので汲み取りが不要なこと等、為になる話からどうでもいい話まで色々と聞くことができた。
ファンタジー要素が結構あるけど、雰囲気は中世っぽい感じかな。
村の雰囲気や住民の話からこの国の発展具合はその位に感じられた。
しかし、魔法があるからか独自の発展を遂げており、魔導具と呼ばれる魔石が利用されている道具等、異世界ならではの便利グッズがたくさんあるらしい。
ちなみに魔石は魔物の体内から取れるらしく、脅威度の高い魔物ほど魔石の品質も高くなるとのこと。
ジャイアントラビットからも一応取れるらしいが極小の魔石らしく、【冒険】の時にドロップしなかったのは引きが悪かったのだろう。
村の散策やそういった話を住民から聞いているうちに宿を出てから1時間経ちそうだったので宿に戻ることにした。
宿に戻ると3人はまだ帰ってきていなかったので、自室でゆっくりしていると「コン、コン」とドアをノックされた後、「アタル、戻ってる?」とドアの外からエミリーに声を掛けられた。
「戻ってるよ。もしかしてこれから食事?」
「うん。だから呼びにきたんだ。モーケルさんとお兄ちゃんと一緒に食堂で待ってるから、準備ができたら来てね」
その後、エミリーの足音が遠ざかっていったことから、身だしなみを簡単に整えると食堂に向かった。
食堂に行くと、村人たちが食事やお酒を飲みながら談笑しており、賑やかな雰囲気がみられた。
「アタル、こっちだよ」
俺が食堂内のそんな様子を眺めていると、エミリーに呼ばれたので声がした方を向くと、四人掛けのテーブル席にモーケルさん達3人が座っており、エミリーはこちらに場所を知らせるために右手を振っていた。
「お待たせしてしまいすみません」
「ほとんど待っていないから大丈夫ですよ。食事はまもなく持ってきてくれるみたいです。それより村の散策はいかがでしたか」
「私が住んでいたところでは毎日のようにお風呂に入ったりしてましたし、トイレにスライムを利用していなかったので風習の違いに驚きました」
席に着席した後、村を散策した感想やモーケルさん達の商品の荷下ろしのこと等について話をしていると
「おまちどおさま! 今夜はうちの村自慢の野菜とジャイアントラビットの肉が入ったシチューだよ。黒パンは固いからシチューによく浸けてから食べな」
そう言って、宿屋の女性がテーブルに料理を並べていった。
料理はぱっと見、ホワイトシチューで大きめに切られた色とりどりの野菜が見栄えを良くしており美味しそうであった。
「では、いただきましょうか」
料理が全員のところに並び終わったのを見計らい、モーケルさんがそう声をかけてくれたので俺は目の前にある初めての異世界料理に手をつけることにした。
初めはモーケルさん達が食べる様子を窺い、食事のマナーなんかがあるのか気にしていたが、食事が進むにつれて特に食事のマナーがないのがわかったので、俺は気にせずにシチューをいただくことにした。
うん、美味いな! それにジャイアントラビットの肉を食べてみたいと思っていたけど早速食べることができるとは。
シチューはまろやかな口当たりで野菜や肉の旨味がシチューに溶け出しており、とても美味しかった。
ジャイアントラビットの肉も特に臭みや癖はなく、鶏肉のような味や食感であった。
そんな初めての異世界料理に舌鼓を打ちつつ、楽しい食事の時間を終えると俺は自室にこもることにした。
さて、日中弄れなかった分、色々とやっていくとしますか。
俺はベッドに横になると、早速スマホを取り出し【女神の楽園】を起動した。
今日はモーケルさん達3人がいてスマホを弄れなかった分、今から【デイリー召喚】や【冒険】、【仕事】、【ミッション】の確認なんかすることにした。
もしかすると、モーケルさんに荷物の運搬も頼まれるかもしれないから、【アイテム】の収納枠も増やしておくとするか。
そんなことを考えながら、まずは【デイリー召喚】を済ませた。
床の上に魔法陣が描かれたときは魔法陣が消えずに残ったらどうしようかと一瞬焦ったが、それも杞憂に終わり、☆2《マヨネーズ》が当たった。
これは新鮮な野菜をこのマヨネーズで食べろってことだろうな。
ドレッシング派もいると思うが、俺はどっちも好き派なので問題ない。
野菜スティックやサラダにつけて食べるとしよう。
他にも色々な食べ物に使えるから、個人的には当たりだな。
次に【ミッション】を確認すると、【デイリー】は全て達成済みとなっており、【メイン】は下記のとおりであった。
■【異世界生活2日目記念 魔結晶100個】
■【初めての村へ到達 魔結晶100個】
■【フレンドを1人つくる 魔結晶50個】
■【フレンドを2人つくる 魔結晶50個】
■【フレンドを3人つくる 魔結晶50個】
□【魔物を5体倒す 魔結晶50個】
□【植物系アイテムを10個採取する ゲンキデ草×10】
□【魔物を1体テイムする 従魔の腕輪×1】
…
…
… etc
おぉー! 結構達成してるな。
フレンドはきっとモーケルさん達3人のことだと思うけど、フレンドかと言われると微妙な気がする。
まあ、魔結晶がもらえるのはありがたいから気にしないようにしよう。
俺は報酬を受け取ると、【ミッション】を閉じ、次に【仕事】を選択した。
【仕事】では《薬草採集》の報酬として《ゲンキデ草》を5本と3000Kを得ることができたので、また別の仕事を選択しておいた。
その後は【冒険】の2Dモードで昨日も探索した《ハピゴラ大草原》の探索をした。
その結果、昨日も入手した《ゲンキデ草》や《アマ草》等の他に、☆2《スッパ草》や☆2《ミナギリ草》等、新たなアイテムを色々入手することができた。
まあ、《スッパ草》は酸っぱいだけの草だったので即廃棄してしまったが、《ミナギリ草》は植物に栄養を与える《活力剤》の材料となるらしいのでとっておくことに。
また、魔物も《ビッグマウス》と《オオウズラ》いう脅威度1の新たな魔物と遭遇した。
まず、《ビッグマウス》はマウスとなっているが、見た目は醜悪なネズミではなく、可愛いゴールデンハムスターであった。
ただし、大きさはジャイアントラビット同様に大型犬並み。
ビッグマウスというだけあって、「キュ、キュ、キュウ!」とうるさい鳴き声が特徴的であった。
攻撃方法は体当たりと噛みつきしかなかったので簡単に撃破。
解体すると《魔鼠の歯》、《魔鼠の肉》、《魔石(極小)》というアイテムを入手することができた。
肉は普通に食べられるらしく、ジャイアントラビットと同じく鶏肉に近い味とのことだ。
次に《オオウズラ》はウズラという鳥がこれまた大型犬サイズになったもの。
【図鑑】の説明によると、巨大化したことで飛べなくなってしまったらしい。
攻撃方法は体当たりとジャンプからの踏み付け、嘴攻撃。
ビッグマウス同様に簡単に撃破。
解体アイテムは《魔鶉の羽》、《魔鶉の卵》、《魔鶉の肉》であった。
肉はもちろん卵も栄養豊富で美味しく食べられるとのこと。
【冒険】については、このようにアイテムを採取したり、魔物を倒しているうちにあっという間に一時間が経ってしまった。
【冒険】を終えた後はスキルレベルを上げるため、寝る前にスキルを色々と使用し魔力を使い果たすことにした。
そのおかげというか、魔力を使い果たしてベッドに横になるとすぐに寝てしまい、朝までぐっすりと休むことができた。
……
「アタル、起きてる?」
コン、コンとドアをノックされた後、ドアの外からエミリーの声が聞こえてきた。
「ごめん、今起きた」
「起こしちゃってごめんね。今から朝食なんだけどアタルはどうする?」
「すぐに起きて行くから先に食べてて」
「わかった。じゃあモーケルさんにはそう伝えておくね」
ドアからエミリーの足音が遠ざかるのを聞き、俺は昨日買った古着にいそいそと着替えると食堂に向かった。
「起きるのが遅くてすみません」
「いえいえ、起床時間なんかも伝えていませんでしたし、全然構いませんよ」
俺が謝罪するとモーケルさんは気にした様子もなく、席をすすめてくれた。
その後、モーケル達と一緒に朝食をとった後、モーケルさんの商品の仕入れに同行させてもらい、個人的にトマトやナスなど、いくつかの新鮮な野菜を購入させてもらった。
お値段の方も生産者から直接購入することができたからか、かなりの安値だったのでそれなりの量を購入してしまった。
モーケルさん達からは食べる前に野菜が腐ってしまわないか心配されたが、たぶん【アイテム】に収納しておけば時間の経過がないと思うので大丈夫だろう。
それをモーケルさん達にいうのもあれなので、「腐る前に食べきれなそうなときは食べるのを手伝ってください」といって誤魔化すのであった。
……
「それでは出発しますね」
モーケルさんの掛け声で馬車が出発した。
モーケルさんが商品の仕入れを終えたので次の村に向けて出発したのだ。
俺は昨日と同じく、エミリーと一緒に馬車の後方に座り、遠ざかるシリル村を眺めていた。
ガタッ、ガタッと馬車が進むたび、徐々にシリル村が小さくなり、やがて完全に見えなくなってしまった。
小さな村だったけどのどかでいい村だったな。
新鮮な野菜も購入できたし、料理も美味しかった。
また機会があれば行ってみてもいいかもな。
俺は異世界に来て初めての村にそんな感想を抱きつつ、次に行く村や町を楽しみにするのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次の更新は7/11予定となります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます