第17話 シリル村

 俺がトムに何を聞こうかと考えているとモーケルさんから声を掛けられた。


「差し支えなければで結構なんですが、アタルさんは何という国の出身なんですか? ここには転移で飛ばされてしまったとのことですのでもし私が知っている国であれば帰るための手段なんかもお教えできるかもしれません。しかし、黒髪黒目の方はこの辺では見たことがないですし、服装もこの国では見かけない格好ですので知らない可能性の方が高いかもしれませんが……」


 まあ、そうだろうな。だって、そもそも世界が異なるし。

 とりあえず好意を無駄にするのも悪いし、日本をもじって『ヒノモト』ってことにしておくか。


「ありがとうございます。『ヒノモト』って国なんですが、聞いたことはありますか?」


「うーん、申し訳ありませんが聞いたことないですね……近隣の国の名前なんかは把握しているのですがそのような国は聞いたことありません。もしかすると別の大陸にある国なのかも知れません。お役に立てず申し訳ありません」


「いいえ、この大陸にはないってことがわかっただけでもありがたいです。ちなみにこの国は何て名前なんですか?」


「ヴァリアス王国ですね。国王を中心として貴族が各地を治めており、人や獣人、エルフ、ドワーフ等の多種族が住んでいます。王都が国の中心にあるのですが、今いる場所は国の西南に位置しているアシタニア地方ってところですね。この辺は凶悪な魔物が少なく、平地が広がっているので農業が盛んなのですよ」


 王が統治する君主制なのか。

 それよりも獣人、エルフ、ドワーフ等がいるとは……

 さすが異世界! ぜひ見てみたいな。


「これから行く村には獣人やエルフ、ドワーフ等はいるんですか?」


 興味を抑えきれず、モーケルさんに尋ねると、残念ながらいないとのことであった。

 王都には様々な種族が住んでいるらしいが、基本的に獣人は南方の大草原地帯で遊牧民として暮らしており、エルフは東の森林地帯、ドワーフは北の鉱山地帯の麓に暮しているらしい。

 また、西側には魔境と呼ばれる強い魔物が蔓延る未開拓地が広がっており、そこなら冒険者をしている様々な種族に会うことも可能だろうとのことであった。

 ちなみにトムとエミリーも今回のモーケルさんの依頼を終えたら、魔境に向かってみるらしい。


 ついでに、この国の貨幣についても聞いてみたのだが、単位は『K:キール』で単価としては日本とほとんど変わらないようで1Kが1円相当であった。

 ゲーム内の通貨の単位も『K』になっていたが、きっと偶然ではないだろう。

 

 硬貨の種類としては、1K硬貨、10K硬貨、100K硬貨、1000K硬貨、10000K硬貨の五種類。

 

 モーケルさんの説明によると、硬貨に使用されている主な金属としては、1K硬貨が屑鉄、10K硬貨が銅、100K硬貨が白銅、1000K硬貨が銀、10000K硬貨が金となっているそうだ。

 ただし、純金属ではなく、複数の金属を混ぜ合わせた合金であるとのこと。

 さらに、特殊な偽造防止の魔法が掛けられているとのことで、硬貨の表面には複雑な模様が彫られており、サビ防止の措置もとられているそうだ。


 それから、今向かっているシリル村についても教えてもらった。

 モーケルさんの説明によるとこんな感じの村だ。


 人口200人程の小さな村。

 村の周囲は高さ1メートル程の木の柵で囲まれており、柵の外側には耕された畑がいくつもある。

 肥沃な大地と村の西側を流れる綺麗な小川の水により成長する野菜はとても美味しいらしい。

 また安全面においては、村の周辺にはジャイアントラビット等の驚異度1の魔物しか出ない上に、魔物除けの対策が為されているらしく、村人も安心して農作業ができるとのこと。

 ちなみに領兵が定期的に村々を巡回するため、この付近の街道沿いには盗賊は出ないとのことであった。


 ……それから数時間後。

 

 トムやエミリー、モーケルさんから色々と聞いたり、逆に俺のことを話しているうちにシリル村に到着間近となった。


「見えてきましたよ」


 モーケルさんからそう声を掛けられ前方を覗くと、街道沿いに幾つもの大きな畑が広がっており、その畑には見たことがある野菜から見たこともない野菜まで、色とりどりの瑞々しい野菜がたくさん生っている光景が見られた。

 

 興味深く畑を眺めている間にも馬車は進み、少しすると前方に木の柵やそれに囲まれような形で建ち並ぶいくつもの建物が見えてきて、遂に村に到着したのだとわかった。


 おぉー、異世界に来て初めての村か!

 ここまで来るのに結構かかったし、歩きだったら大変だっただろうな。

 モーケルさん達と出会えたことに感謝だな。


 俺がモーケルさん達と出会った場所はちょうど村と村の中間付近であったとのこと。

 徒歩だとどのくらい時間が掛かったかわからないし、色々と話を聞かせてもらえたので本当に感謝したい。

 

 モーケルさん達はここでいくつかの商品の荷下ろしを終えたら、この村で1泊し、明日の朝一番に野菜等の仕入れを行ったら、次の村へ出発するらしい。

 その後、数日かけていくつかの村を経由した後、モーケルさんが店舗を構えているというグロシアという町に戻るとのこと。

 

 トムとエミリーもその町を拠点としているそうで、その町に戻るまで護衛するのが今回の仕事だということであった。

 

 ありがたいことにモーケルさんから「グロシアまでなら乗せて行けますよ」と言ってもらえたので、特に行く当てがなかったので乗せていってもらうことにした。

 その代わりに俺はモーケルさんが興味深そうにしていたスーツ上下を運賃代わりに譲ることにしたら喜んでくれた上に、着替えが他にないことを伝えると売り物の中古の服をタダで譲ってくれ、さらに2万Kものお金を貰ってしまった。

 

「血や汚れがついてしまっている服なのに、代わりの服を貰った上にお金までいただいてしまっていいんですか?」


「ええ、この位の汚れなら《洗濯》スキル持ちの人に頼めば綺麗に落ちますので。それにこの国や近隣諸国では見たこともない服ですし、服の作りも大変参考になりますから」


 汚れた安物のスーツをいい値段で買い取ってくれたことに罪悪感を覚え、そう聞いてみると、モーケルさんは機嫌良くそう答えた。

 その様子をみるに、こちらに気を使っているわけではなく本心からそう言っているように見えたのでありがたく代わりの服とお金を受け取ることにした。


 更に今日は危ないところを助けてもらったお礼として宿の宿泊費と食費を出してくれるとのこと。

 ちなみに助けた時に倒したオオカミは《グラッシーウルフ》という脅威度1の魔物だったことをエミリーに教えてもらった。

 単体では対して強くはないそうだが、群れになると連携して襲ってくるので脅威度は高くなるらしい

 本当ならあまりこの辺ではみかけないとのことで町に戻ったら今回のことを冒険者ギルドに報告するそうだ。


 モーケルさん達いわく俺が倒した分は俺に所有権があるとのことだったので、死体を【アイテム】に収納するとモーケルさん達はすごい驚いた様子を見せていた。


《収納》スキル持ちやアイテムは珍しいらしくあまり見かけないとのこと。

 悪人に目をつけられることもあるから、あまり人前では使用しない方が安全だと教えてもらったが、モーケルさんはちゃっかりとしているのか、トムとエミリーが倒した分について俺に収納を頼んできた。


 まあ、運賃として幾らかのお金を貰えたので文句は全くないんだが。

 もしかして、グロシアの町まで馬車に乗せて行ってくれるのも、この収納が目当てなのかも知れない。

 とはいえ、これで多少の金銭を得られるのであれば喜んで収納するけどな。


 そんなことを考えているうちに村の目の前までたどり着いた。

 平和な村だからか、木でできた門は開放されており、門の脇には門番と思われる男性が椅子に座って眠りこけていた。


 こんなんで大丈夫なのか?


 俺は不安に思ったが、それだけ平和な村なんだろうと気にしないことにした。


 モーケルさんがそんな門番の男性に声を掛けて起こすと、男性はびっくりしたのか椅子から転げ落ちてしまった。


「ようこそ、シリル村へ!」


 男性は転げ落ちたことがなかったことのように平然と立ち上がり、モーケルさんにそう声を掛けていた。


「お久しぶりです。今日は村長さんに頼まれていた商品をお持ちしましたので、村長さんに伝えてきてもらってもよろしいでしょうか」


「はい、わかりました!」


 そう言うと男性は駆け足で村の中へ入って行ってしまった。


「なんかすごい人ですね……この後はどうするんですか?」


「村の中に入って宿をとってしまいましょう。いつものことなので、村長さんが宿に顔を出しに来てくれるはずです。他の村や町では所持品検査や身元に確認をされるかもしれないので注意してください。町によっては住民以外だと入るのにお金が掛かるところもありますよ」


 身元の確認や荷物の検査なんかがあると思っていたのだが、門番がいなくなってしまったのでここで待っていなきゃいけないのかと思い、モーケルさんに確認したところ、そんなことを教えてもらった。


 村に入ると、木造の平屋がいくつも建ち並んでおり、畑仕事の帰りとみられる鍬やスコップを持った大人や遊んでいる子どもの姿が見られた。  

 服装はやはり麻っぽいシャツにズボンといった格好が多く、スーツ姿のままだったら浮いていただろうなと苦笑した。

 

 まずは村唯一の宿屋に向かうとのことで、村の中を進んで行くと木造2階建ての建物が目についた。


 宿屋は村で唯一の二階建ての建物らしく、食堂も兼ねているらしい。

 ちなみに村に1軒しかないため屋号は無いみたいだ。


「いらっしゃい。モーケルさんじゃないか。久しぶりだね。今日は泊まってくれるのかい」


 建物の中に入ると、宿屋の人と思われる年齢40歳位の割腹がいい快活な女性がおり、モーケルさんに声を掛けてきた。


「はい、そうです。一人部屋を2部屋、二人部屋を1部屋用意できますか?」


「空いてるよ。夕食と朝食付で一人部屋が1部屋3000K、二人部屋が5000Kだから11000Kね。食事はいつでも出せるからお腹が空いたら食堂に来ておくれ。これが部屋の鍵で、体を拭きたいときは村の中にある井戸の水を使っておくれ」


 そう説明された後、鍵を渡され、部屋に案内された。

 部屋分けは俺とモーケルさんが一人部屋、トムとエミリーが二人部屋であった。

 部屋はベッドが1つ置かれているだけで狭かったが、掃除はきちんとされており、シーツも綺麗に洗濯されている様子であった。


 食事については、モーケルさん達は村長が宿に来たら商品の荷下ろしをするとのことで、先に食べていても良いと言われたが、1時間もあれば戻ってくるとのことだったので、3人が戻ってきたらみんなで食事することにして、その間に俺は村の散策を行うことにするのであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 次の更新は7/8の予定です。

 改稿前ではモーケルさんやトムとエミリーとはこの村でお別れでしたが今回は一緒に行動することとなります。

 前回との違いを楽しんでもらえるように文章を頑張って考えたいと思いますのでよろしくお願いします

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