第15話 異世界人との初遭遇
「うわっっ!!」
いきなり地面から顔を覗かせたジャイアントラビットと目が合い、俺はびっくりして思わず叫んでしまった。
くそっ!! そういやウサギは穴を掘るんだったか。
このままじゃ数分もしないうちに地上に出てくるよな。
逃げるか、それとも戦うべきか……
俺が想定外の事態にどうすべきか右往左往していると、その間にもジャイアントラビットは地上へ這い出ようとしており、いつのまにか顔だけでなく頭全体が地面に出てしまった。
うわっ、やばいな! やっぱり逃げるか……
いや、待てよ……今なら地面から出てくる前に倒せるのでは……
突然のことに驚いたが、冷静になって考えてみると、今のジャイアントラビットは頭だけが地上に出ているだけなので噛みつき攻撃にだけ気をつければ一方的に攻撃できそうであった。
ただ、正直ゲーム内では何も気にせず倒したが、現実でジャイアントラビットを目の前にしてみると、つぶらな目を見てしまったせいもあるかもしれないが命を奪うことにすごい抵抗がある。
日本にいたときは、蚊みたいな小さな虫ならともかく、ある程度の大きさの生き物の命を奪うことなんてしてこなかったもんな……
しかし、今ここでやるのを躊躇えば、数分後には俺がこのジャイアントラビットに殺されてしまうかもしれない。
俺は心を鬼にし、手に持っていた剣を両手で逆手に持つとジャイアントラビットの首の付け根付近と思われる箇所の地面に思いっきり突き刺した。
「ピギャーーー!!」
地面に剣を突き刺すと、土のザクっとした感触があった後、土とは違うズプッとした感触があった。
見事にジャイアントラビットの体に剣が突き刺さったのか、ジャイアントラビットは悲痛な鳴き声を上げると、頭を振り乱して暴れ始め、急いで地面から這い出ようともがきはじめた。
ジャイアントラビットに剣を突き刺した嫌な感触がまだ残っているが、ジャイアントラビットが地上に出てくる前に決着をつけるべく、俺は剣を一度引き抜いた後、もう一度剣を思いっきり突き刺した。
しかし、それでもジャイアントラビットは死なずに地上に這い出ようともがき続けたので、俺はジャイアントラビットが動かなくなるまで一心不乱に剣を突き刺すのであった。
……数分後。
俺は息を切らして地面にへたり込んでいた。
目の前には体の半分が地上に出た状態で息絶えているジャイアントラビット。
ジャイアントラビットの体には無数の傷が付いており、周囲には所々に生々しい血痕が残っていた。
「何とか勝てたな……」
一方的に俺が攻撃しただけであり、俺に怪我はない。
しかし、いつジャイアントラビットが地上に出てくるかわからないという危機的状況だったことや魔物とはいえ命を奪ってしまったことで精神的にかなり疲れてしまった。
それに今回の戦闘で一張羅のスーツが返り血を浴びて汚れてしまったのが地味に痛い。
早く洗わないと血が落ちなくなってしまうが、近くに洗濯できるような水辺もないので諦めるしかないのが現状だ。
とりあえず俺はこのままここにいると血の匂いに誘われて他の魔物が来るかもしれないと思い、倒したジャイアントをそのまま【アイテム】に収納すると急いでこの場を離れるのであった
………
ジャイアントラビットとの激闘(俺にとってではあるが)を終えてから2時間は経っただろうか。
俺は今、Tシャツにパンツ姿という何ともいえない格好で大きな岩の上に腰かけ、昼食がわりにナイフで剥いたリンゴをもぐもぐと食べていた。
あの後、俺は他の魔物に襲われることなく無事に移動し、今から30分程前に今座っている大きな岩とその近くにある小川を見つけたのだ。
小川は幅が5m位、深さが膝丈位の比較的小さな川であるが、川の水は底が見える程に透きとおっており、小魚が元気に泳ぐ姿も見ることができた。
綺麗な川なので飲み水として活用できないかと思い、試しに《飲料水1ℓ》の入っていたペットボトル容器に川の水を入れて【アイテム】に収納してみたところ、飲み水として問題ないことがわかったので補充もしておいた。
ついでに血や土などで汚れてしまったスーツについても、川の水で一応洗ってみたのだが、やはりすぐに洗うことができなかったことや洗剤を使用していないからか、完全に汚れを落としきることはできなかった。
そして、洗ったスーツを岩の上で乾かしている間にリンゴを食べているという具合である。
暖かい日差しによりスーツがある程度乾いたことから、そろそろ出発しようかと思い始めていた頃、突然遠くの方から人の叫び声のようなものが聞こえた。
うん? 気のせいじゃないよな……
一瞬、気のせいかと思ったが、もし誰かしらがいるのであればこの機会を逃すわけにはいかないと思い、俺は急いで服を着ると声がした方に向かうことにした。
遂に異世界での第一村人に遭遇か!
俺は呑気にそんなことを考えながらも、途中で声の主が盗賊などの類いである可能性もあることに気付き、自分で直接向かうのはやめて、3Dモデルを向かわせるのであった。
……
休憩場所から300m程離れた地点。
スマホを操作して3Dモデルを移動させたその先には草原を横断するように舗装されていない土の道が伸びており、その道の上には1台の馬車が停車していた。
おぉー、こんなところに道があったとは!
それにしても馬車か……
道も舗装されていないし、そこまで文明は発展していないのかもしれないな。
道や馬車に気を取られてしまったが、よく見てみると馬車の御者台に男性1名が乗っており、馬車の側には武装した男女2名と馬車を取り囲むように5匹のオオカミがいた。
戦いが始まってある程度時間が経っているのか、馬車の近くには倒されたであろうオオカミの死体が3匹分程あるようにも見えた。
また、3Dモデルと馬車の距離がまだ50m近く離れているので判然とはしないが女性は足を怪我をしているのだろう。
女性は馬車を背にしながら迫ってくるオオカミに対して槍を突き出しているが、その場で迎撃するだけで精一杯という様子だ。
一方、武装した男性は御者台の男性や馬車を牽引する馬を守るように剣でオオカミを牽制していたが、女性のことも気になるのか、攻めに転じることが出来ずに劣勢に見えた。
これは恩を売るチャンスだな!
俺はそう考ると、援護するために3Dモデルを急いで馬車に向かわせた。
「助太刀するぞ!!」
俺は3Dモデルをオオカミの背後から奇襲させつつ、敵だと思われないように馬車に向かって声を上げると、それを聞いた御者の男性から「おぉ、助かります!」という返事をもらったので予定どおり加勢することにした。
俺の声に反応して武装した男女とオオカミもこちらを向いたが、男女は俺が敵でないことを認識すると安心した様子を見せ、隙をみせたオオカミに攻撃を加えていった。
それとは逆にオオカミ達は背後からの奇襲に一瞬動揺を見せたが、敵の増援が一人だと認識すると、1匹が3Dモデルに向かって駆け出し、3Dモデルとの距離が近づくと飛びかかってきた。
「ふっ、1匹だけで俺に向かってくるなんていい度胸だな」
3Dモデルで危険がないことをいいことに俺は強気な姿勢でオオカミを迎え撃ち、すれ違いざまに剣で斬りつけると、運良くクリティカルヒットしたのか、首の中程付近まで斬り裂くことができ、一撃で絶命させることができた。
「おぉー!!」
俺の鮮やかな手並みに御者の男性が感嘆の声を上げ、逆にオオカミ達は仲間が一撃でやられたことに動揺したのか、動きを止めて隙だらけになったので、俺は女性を襲おうとしていたオオカミに向かって接近すると思いっきり剣で斬りつけた。
「キャイン!!」
悲鳴を上げて崩れ落ちるオオカミ。
またもや仲間をやられて流石に分が悪いと思ったのか、一匹のオオカミが遠吠えを上げると残りのオオカミ達は一目散に逃げていってしまった。
逃げていくオオカミ達を眺めながらなんとかなったことに安堵していると御者の男性に声を掛けられた。
「助けていただきありがとうございます。私は商人のモーケルと申します。もしよろしければお礼をしたいのですが…」
おぉー、言葉がわからなかったらどうしようかと思ったけど日本語じゃないか。
そういえば助太刀する時も「助かります」って言っていたな。
それにお礼をしてくれるとは、狙いどおりの結果だな。
モーケルと名乗った商人は、年齢40歳くらいの色白でふっくらとした体型。髪は茶髪のショートヘア。整えられた口髭と顎髭が似合う、人の良さそうな男性であった。
「私はアタルといいます。お礼はいらないのでできれば近くの村か町まで連れて行ってもらえないでしょうか。実は草原で迷ってしまい道がわからないのです」
俺がそう言うと、ちょうど近くの村まで商品を搬送するところだということで快く了承してもらえたので、俺はちょっと用を足してくると言ってその場を一度離れると3Dモデルと入れ替わり馬車に戻るのであった。
遂に異世界に来て初めての村か!
俺は異世界の村がどんなものなのかと期待しつつ、わくわくしながら同乗させてもらえることになった馬車に乗り込むのであった。
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次の更新は7/2予定です。
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