第14話 異世界生活2日目

「ジリリリリリリリン! ジリリリリリリリン!」


 う~ん…もう朝か?


 寝る前にセットしておいた目覚ましのアラーム音が地下室内に響き渡り、俺は目を覚ました。


 スマホの時計を確認すると午前6時。


 以前までの俺は夜遅くまでゲームしていたこともあり朝早く起きるのが苦手だったが、ここは異世界。


 できるだけ明るいうちに行動したいと思い、午前6時という自分にとっては早い時間に目覚ましをセットしたが、昨日早く寝たこともあり、意外にもスッキリとした気分で起きることができた。

 寝袋だけだと地面が硬くてぐっすり眠れなかったと思うから、《魔兎の皮》を敷布団代わりに敷いていたことがきっと良かったのだろう。


 一日過ごしてみてわかったことだが、太陽の位置や暗くなる時間等を考えると、スマホに表示されている時刻はこの世界のものと一致していると思われる。

 何故、スマホに表示されている時刻がこの世界のものと一致しているのかは不思議だが、このスマホには魔力による自動充電機能なんかが付与された前例があるから驚きはない。

 それよりもこの世界の時間が正確にわかるというのはありがたい。

 ちなみにこの世界でも一日は24時間だ。


 時間がわかるなら日付もわかるのではないかと思い、スマホにインストールされている初期アプリ【カレンダー】を起動してみると、《勇光歴501年4月2日(闇)》と表示されていた。


《勇光歴》というのは、日本でいう《平成》や《令和》みたいな元号みたいなものだろう。

 501年っていうのは【女神の楽園】のオープニングで流れたメッセージ『勇者が魔王を倒した500年後の世界』っていうのと一致している気はするが確かめようもないから気にしない。


 太陽や月もあるからだろうか、暦も地球と変わらず、ひと月あたりほぼ30日の12か月で1年だ。

 きっと、この世界の太陽も1年程でこの世界を1周し、月は12周するのだろう。


 曜日だけは地球と違く『土、水、風、木、火、闇、光』となっていた。

 闇と光の部分が土日である。


 それにしても、今は4月だったんだな。

 だから気温もさほど寒くも暑くもないのかも知れない。

 四季があったりするかは不明だが、無いと考えるよりもあると考えて行動した方が良さそうだ。

 

 とりあえず俺は軽く食事をとりながら、【女神の楽園】を起動し、昨日実行した【仕事】の確認をすることにした。


 アプリを起動すると、【異世界2日目記念】というログインボーナスで魔結晶100個という思わぬ収入を得ることができた。


 俺はにんまりとしつつ、【仕事】のアイコンをタップすると、昨日選択した《商店のアルバイト》のところに【結果確認】というアイコンが増えていたのでそれをタップしてみた。


 すると《成功! 報酬:5000K》という表示があり、無事に仕事の報酬を得ることができたが、今回入手することができたのはゲーム内通貨のみであり、他には何も得ることができなかった。


 ゲーム内通貨か……

 今のところ、使い道はないんだよな


 アイテムと同様に現実世界に取り出せるのかと思ったが取り出せず、ゲーム内でしか使えないことが判明。

 使えそうな【ショップ】機能についてもランク20までは解放されないので、今のところ宝の持ち腐れ状態であった。


 まあ、いずれ使えるだろうから別にいいか。

 一応、別の仕事の報酬も気になるから今度は《薬草採集》にしておくとして、2日目の探索を早速始めるとしますか。

  

 新たな仕事を選択した後、俺はホーム画面に戻ると【冒険】を選択し、【3D】モードに切り替え、3Dモデルを召喚した。


 地上に出ていきなり魔物がいるおそれもあることから、3Dモデルを先頭にして俺は地上に出た。


 地上に出ていきなり魔物との戦闘ということもなく、無事に地上に出ると既に朝日が昇りはじめ、周囲は明るくなっていた。


 空を見上げると雲ひとつない快晴。

 花や草の爽やかな匂いが俺の鼻腔をくすぐり、そよ風が俺の体を優しく撫でる。


 今日も良い1日になるといいな。


 そんなことを考えながら、今日こそは人里若しくは人の住む痕跡を見つけたいと探索を開始した。


 探索については、昨日と同じくひたすら北に進む。

 昨日と違うのは3Dモデルを先行させている点だ。

 スタミナの関係で1時間しかもたないが、安心感がだいぶ違う。

 スマホの画面に集中しすぎて周囲の警戒を怠るのはよくないので、手元はほとんど見ずに操作し、見える範囲で3Dモデルを先行させて囮として運用している。

 見とおしの良い草原だからできることだろうけど、俺と3Dモデルの距離は200mは離れていると思う。


 これならばもし3Dモデルが魔物に襲われても、俺自身はその間に隠れたり、あんまり強くなさそうであれば3Dモデルで返り討ちにすることもできると思う。

 

 ……

 ……

 ……


 それから2時間程歩いただろうか。

 

 何事もなく歩き進めているが、スタミナ切れで既に3Dモデルを先行させておらず、警戒については《隠密》スキル頼みである。

 まだスキルレベルが低いので心許ないが《隠密》は魔力の消費がないパッシブスキルなので使い続けても負担がないので助かる。

 その分、レベルアップに必要な熟練度も高く、スキルレベルが上がるのに時間はかかりそうだが、常時発動させておけば数日中にはレベル2に上がりそうである。

 

 警戒しながら進むと精神的にも疲れたが、こまめに休憩を取りながらもひたすら歩いた。


 途中、リンゴが生っている木がまたあったので何個か採取して【アイテム】に収納した他、小鳥やネズミのような小動物を見かけたり、アリのような虫を見つけたりもしたが、いまだに魔物とは遭遇していない。


 リンゴもそうだが、動物や虫などにも地球と同じような見た目のものが多く存在していることがわかった。

 当然見たことも聞いたこともないような動物や植物も多く見られるが、いかにも魔物って生物は今のところ見かけない。

 もしかすると、この辺は安全なのか……


 そんなことを考えたのがいけなかったのか、100m程先の茂みから何らかの生物が出てくるのが見えた。


 俺はその場ですぐにしゃがみこみ近くの茂みに隠れると、その隙間から現れた生物について注意深く観察することにした。


 距離があってはっきりとはわからないが、大きさは大型犬くらいのサイズだろうか。

 頭からは特徴的な長い耳が生えているのがわかり、まるで昨日ゲーム内で倒したジャイアントラビットのように思えた。


 っていうか、ジャイアントラビットだな……

 なんとなく予想はしていたけど、やっぱりこの世界に実在するのかよ。

 ゲームどおりの脅威度であればあんまり強い魔物ではないけど、生身での戦闘は流石に怖いな。

 やるなら土魔法で壁を作って囲み、逃げたり、攻撃したり出来ないようにしてから、隙間を空けて剣で串刺しにするのが良さそうだけど、土壁の強度や生成速度が問題だよな。

 土壁で囲まれるまで悠長に待っていてくれるわけもないし、もし囲めたとしても蹴りや体当たりで土壁が壊されかねない。

 

 あっ、土壁を作る位なら、足元に落とし穴を作って落とせばいいのでは……

 

 もし落とせれば、壁の強度は気にせず、上から大量の土で埋めてしまえば、上手く閉じ込めることができるどころか、圧死や窒息死も狙える気がする。

 落とし穴なら、昨日寝床を作る際に散々穴を掘ったから、数秒もかからずに直径1m位の大きさの穴ならあけることは可能だろう。

 不意をついてジャイアントラビットの足元に穴を作って体勢を崩させ、その間にさらに穴を深くして閉じ込める。


 うん、根拠はないが上手くいく気がする。

 もし失敗してしまったら、3Dモデルを召喚するとしよう。

【冒険】を終了してから一時間は経っているから、10分位は操作できるもんな。


 よし、思い立ったが吉日。

 早速、やってみるか。


 もぐもぐと呑気に草を美味しそうに食べているジャイアントの前足付近に土魔法で土を操作して穴を作成。


 距離があったので上手く魔法を発動させることができるか心配であったが、それは杞憂に終わり、いきなりのことで逃げる暇がなかったのか、ジャイアントラビットの上半身ができた穴の中に吸い込まれていった。


 俺はさらに前足付近の穴を深く掘り進めつつ、穴の大きさを少し広げると、穴から抜け出そうともがいていた下半身も穴の中に落ちて見えなくなってしまった。

 姿は見えないが、頭から穴に落ちたジャイアントラビットはきっと逆さまの体勢で落とし穴に嵌り、身動きが取れない状態になっていることだろう。

 念のため、さらに穴を深くした後、穴を土で埋めること数分。

 ジャイアントラビットが穴から出てくる様子がないことを確認した俺は落とし穴に近づいた。

 

「よし、やったか!」


 そんなフラグのような言葉を口に出したのがよくなかったのか、地面の下からガリガリという音が聞こえたかと思うと。目の前の地面に突如穴があき、ジャイアントラビットが顔を覗かせるのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 お読みいただきありがとうございます。

 次回更新は6/29予定となります。

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