第8話 サバイバルセット

 サバイバルセットであるリュックの中に収納されていたものを取り出してみると、1ポールの小型タープにそのタープを固定するためのペグが数本とペグ打ち用のハンマーが1本。それと薄手の寝袋がひとつ。

 その他には、タオルが1枚と折り畳みナイフや小型スコップ、絆創膏や消毒用アルコール等が入った救急セット、火起こし用のファイアスターターや大きさが違う鍋が3個重ねて収納してある等、色々と収納されていた。

 

 俺が欲しいと思っていた食料については、スティック型のチョコレートやクッキー等の栄養補助食品が6本に乾パン等の数種類の缶詰が6個、500mlのペットボトルに入った水が3本収納されており、節約すれば数日は食べ物に困らなそうに感じられた。

 

 おぉ、思った以上に色々と入っているな。

 しかし、この仕様だとリュックに色々と入れてから【収納アイテム】として収納すれば、収納枠をひとつ使用するだけで色々とアイテムを収納できるのでは……


 試しにリュックの中にポーション等を入れてから、【収納アイテム】に収納してみると、《サバイバルセット》として収納することができ、思ったとおり収納枠をひとつ使用するだけで色々とアイテムを収納することができることが判明した。


 唯一の難点は取り出してみないと、《サバイバルセット》の中に何が入っているかわからないってことだけど、そんなことが気にならないくらい収納枠を節約できる仕様は便利だよな。


 俺は検証を終えると、色々と役立ちそうな折り畳みナイフはズボンのポケットに仕舞い、他の物はまたリュックの中に入れて【収納アイテム】として収納してしまった。


 さて、数日分の食料と水が手に入ったから少しは安心できるけど、このままここにいたら餓死一直線だから食料や水等を探しながら人里を目指して移動するか……


【女神の楽園】の他のアイコンも気になるけど、夜に移動するのは危険な気がするから明るいうちに移動しておいた方がいいもんな。

 他のアイコンについては、暗くなった後にゆっくり確認すればいいだろう。


 俺はそう決めると右手に《鉄の剣》を持ち、他のアイテム類を全て収納すると人里を求めて歩き出すのであった。


 ……


 それから2時間後。


 俺は北に向けてひたすら歩いていたが、その道中ではウサギやネズミのような小動物を何度か見かけたり、リンゴっぽい赤色の果実をつけた木を何度か見つけただけで他は特に何事もなかった。

 

 リンゴっぽい果実については、試しに皮膚につけたり、舌で舐めてみる等のパッチテストをしたところ、異常がないことから少し食べてみた。

 すると酸味は強かったが、リンゴそのままの味がしたので、食べられそうなものを収穫しておいた。


 収穫したリンゴっぽい果実については、アイテムとして収納できるか試したところ、普通に収納することができ、アイテム名については《リンゴ》であった。


 リンゴっぽい果実というか、リンゴそのものだったんだな。

 異世界なのに日本と同じ名称なのが不思議だが、ご都合主義だと思って気にしないようにしておこう。

 

 ちなみに何個か収納してみたところ《リンゴ》×3などと表示され、ひとつの枠を使用するだけで何個も収納できることがわかったので、今後食料を入手できるかわからなかったので状態の良いものを20個程収穫しておくことにした。

 

 リンゴを20個近くも収穫して食べ切る前に腐らせてしまうんじゃないかと思われるが、アイテムとして収納しておけば、もしかすると時間経過がなく腐らないんじゃないかという期待もあり、実験もかねて多めに収穫したのだ。


 話は変わるが、何故俺が北に進んでいるのがわかるかというとスマホに【コンパス】のアプリが備え付けられていたためだ。

 

 こんなアプリ使う人がいるのかと前々から疑問に思っていたが、実際に自分が使うことになるとは……

 しかし、コンパスは地球の磁気に反応して方角を示すはずだと思うんだけど、この星も似たように磁気があるのか?

 気になるが調べようもないし、一定の方向をちゃんと示してくれるのであれば別にどうでもいいか。


 ありがたいことに【地図】もアプリとしてインストールされていたが、何故か自分がいる周辺以外は真っ黒に表示されており、自分が行ったことがある場所しか表示されない仕様であった。


 いや、たしかにゲームとしてなら地図がわからない方が何があるのかというワクワク感や地図を埋める楽しみがあっていいのだが、ここが現実だと考えると村や町の場所を知りたかったというのが本音だ。


【地図】には【検索】機能も付いていたので、試しに【村】とか【町】とか色々と入力してみたが、【該当なし】としか表示されず村や町の場所について判明しなかった。

 他の機能としては地図を拡大縮小できるのと、ピンアイコンを地図上に設置して目的地等を指定することができた。

 ルート案内機能も一応付いていたが、行ったことがある場所の範囲でしか使用できなかったので、今のところは役に立ちそうになかった。


 とまあ、この2時間はそんな感じであったが、ついに太陽が沈み始め、空が夕焼けに染まりつつあった。


 今日の移動はこれくらいにしておくか。

 すぐに暗くなりそうだもんな。

 とりあえず寝床の確保が必要だけど、土魔法で地下室でも作るとしますか。

 サバイバルセットに入っていたタープを使ってみたい気持ちもあるけど、地上で寝るよりは地下の方が安心して寝られそうだもんな。


 俺はそう決めると、早速土魔法を使いその場に穴を掘り始めた。


 今日、寝るだけだから、そこまでの深さに作る必要も無いし、部屋もそんなに高さや広さはいらないよな。

 とりあえず深さは1m程にしといて、高さは座っても頭をぶつけない程度、広さは横になれるだけのスペースを確保すれば充分だろう。

 魔力に余裕がありそうであれば、もう少し広くしてもいいかもしれないな。


 土魔法による作業は簡単に進み、10分も経たないうちに想像どおりの地下室が完成した。

 しかし、この程度の地下室を作成するのに、8割近くの魔力を消費した感覚があり、これ以上の規模の地下室を作るのは現状では難しそうだと感じられた。


 地下室は安全対策で入口も塞いでしまったが、空気穴を数カ所天井に開けておいたので窒息死することはないと思う。

 しかし、よくよく考えれば、雨に降られたら最悪だな。

 今日は天気が良かったから、今日の夜や明日の朝なんかも大丈夫だと思いたいけど、雨に降られた時のことも考えておかないといけないかもな。

 

 あとは光源だけど、ありがたいことにスマホのバッテリーは自動的に充電されるので、バッテリー切れの心配がないからライトを点けっぱなしにしても問題ないけど、スマホのライトだけでは心許ないからランタンなんかが欲しいよな。

 まあ、ないものねだりしてもしょうがないし、とりあえず確認していなかった【女神の楽園】の他の機能についてでも確認しておくか。


【冒険】や【ミッション】、【仕事】、【図鑑】などのアイコンの確認を全然していなかったことから、それらの機能について確認すべく、俺は早速【女神の楽園】を立ち上げた。


 さて、まずは【冒険】から確認してみるか。


 たぶん、【冒険】がこのゲームのメインコンテンツだと思うんだよな。

【召喚】が良い意味で予想外の機能であったことから、【冒険】についてもつい期待してしまう。


 一体、どんなことができるのだろうか……


 俺はわくわくしながら、【冒険】のアイコンをタップするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る